リミックス曲作りを誰でも簡単に楽しめるだけでなく、Webを通じて公開や共有できる実験サービス「Music Mashroom」が始まった。どんなことができるのか、さっそく使ってみよう。

リミックス作品の公開が難しい理由

オリジナル曲から特定パートを抜いたり、新しいフレーズを加えることで新しい曲に生まれ変わらせる、それがリミックスと呼ばれる手法。もともとはハウスやHipHopなどダンスミュージックの世界で始まった制作手法だが、最近は広いジャンルのCDで原曲だけでなく、別バージョンとしてリミックスバージョンが収録されていることも多いのでおなじみだろう。

元来のリミックスはミックスダウン前のマスターをベースとしているため、不要なパートを抜くことも、新しいフレーズを加えることも自由自在。もっとも、一般人にとってはオリジナル曲のマスターは手に入らないのでそこまで自由にはできないが、最近はテンポや雰囲気が大きく異なる曲同士を混ぜ合わせるといった手法もリミックスとして認知されている。まったく調子の異なる曲を組み合わせるのは簡単ではないが、DAWやDJソフトを使えば不可能ではない。

ただ、そこで問題となってくるのは著作権。オリジナル曲には作詞・作曲者や編曲者がいるので、作成したリミックス曲をWebなどで公開すれば著作権の侵害となってしまう。もちろんすべてをソフトシンセや著作権フリーのループ素材集で作る、つまり完全な自分オリジナル曲をベースにしてリミックスすれば公開してもなんら問題はない。しかしそれでは、「誰もが知っているあの曲がこんなに変わった!」というリミックス曲ならではの驚きをリスナーが感じることはない。

リミックス曲の作成や公開、共有ができるソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の実験サービス「Music Mashroom」

原曲をパーツ単位でドラッグ&ドロップしてサンプリング曲の作成や他ユーザーが作成した「レシピ」を読み込めるツール「Hash'n Mash」

そのような状況の中、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)がこの6月より公開した実験サービスが「Music Mashroom」である。これはシンプルなインタフェースのソフトで、ドラッグ&ドロップするだけで誰でも簡単にリミックス曲が作れるだけではなく、さらにWebを通じて公開までできるというもの。そして著作権を侵害しない仕組みをソニーCSLが生み出したことも注目すべきポイントだ。どんなサービスなのか、チェックしてみよう。

Webを通じて公開・共有できる「レシピ」

これまで述べてきたように、リミックス曲は異なる曲を組み合わせて作成する。そのため完成した曲をミックスダウンして公開してしまうと、それは法律的にNGだ。そこでMusic MashroomではミックスダウンしたWAVやMP3といった音楽ファイルではなく、あくまでも「Aという曲のイントロとBという曲のAメロを組み合わせた」といったミックスに関する情報のみを「レシピ」と呼ばれるファイルで公開・共有する仕組みとなっている。ダウンロードしたrpeファイルには原曲そのものは含まれていないため、ファイルサイズは非常にコンパクトだ。

リミックス情報を「レシピ」として共有できる「Recipe Room」ではさまざまなレシピをダウンロード可能。キーワード検索を使えば原曲から探すことも可能。

Music Mashroomの概念図。リミックス曲の作成およびレシピの再生どちらとも、WAVやMP3ファイルといった曲のデータそのものは各ユーザーがパソコンに保存しておく必要がある

作成者は完成したリミックス曲をレシピとしてアップロード・公開し、他のユーザーはそのレシピをダウンロードできるのだが、レシピファイルを開いてみても曲そのものは一切含まれていない。ではどうやってダウンロードしたリミックスのレシピを再生するかというと、各ユーザーが自分のパソコンにWAVやMP3ファイルで保存しておくのだ。一般的にはCDからリッピングしてHDDに保存しておけばよい。

リミックス曲の作成やレシピの読み込み・再生に使うツールが「Recipe Room」からダウンロードできる「Hash'n Mash」だ。リミックス作成については次回以降に詳しく触れるが、このツールでは原曲のテンポやコード進行、イントロ/Aメロ/コーラスなど曲の構成といった情報をメタデータとして扱うことで簡単操作でのリミックスを実現している。なおHash'n Mashで読み込める音楽ファイル形式はWAVおよびMP3だ。

Hash'n Mashに同梱されている「DB Builder」で自分のパソコンに保存してあるWAV/MP3ファイルと、サーバ上に用意されたメタデータを関連付ける

このメタデータは自分で付加することもできるが、サーバ上には公開時点で3000曲以上のメタデータが用意されており、ダウンロードが可能。ただしこのダウンロードはHash'n Mashではできず、同梱されている「DB Builder」という音楽ファイルとサーバ上のメタデータを関連付けるためのツールを使う。最初に自分のパソコンに保存してある音楽ファイルを一括してこのツールに登録し、データベースを構築しておこう。

上部にサンプリングを行うためのMashupタイムラインがあり、その中に原曲がブロック状のパーツとして読み込まれている。なお現時点では、MP3ファイルはWAVに変換してから再生する仕様となっている

自分のパソコンに楽曲のデータが存在しない曲がレシピ中で使用されているとMashupタイムライン上ではパーツがグレーで表示され、再生することができない

準備ができたらHash'n Mashを起動し、Recipe Roomからダウンロードしたレシピを読み込んでみる。ウィンドウ上部にはリミックスに使う曲データを配置するためのMashupタイムラインが2トラック用意されているが、その中にブロック状のパーツとして2曲それぞれのデータが配置されていることがわかるだろう。ツールバーの「Play」ボタンをクリックすると再生が始まる、もちろん読み込んだレシピによって完成度は異なるものの、まったく調子が違う2曲を組み合わせていても違和感ないサウンドとなっていてなかなか面白い。次回はHash'n Mashを使い、自分でリミックスを行ってみよう。