いかにもドラムマシンらしいインタフェースでTR-909の音を再現
「iTunes Store」の「App Store」で販売されているiPhone/iPod touch用アプリケーション。その中から音楽系アプリを試すこの企画の第一歩として選んでみたのはroventskijの「IR-909」だ。販売価格は600円で、試用しやすい価格となっている。
ダンスミュージック系が好きな人はアプリ名でどんな内容か想像できるかもしれない。これはローランドが1980年代に発売していたドラムマシン「TR-909」風のサウンドをiPhoneで使える、というドラムマシンアプリだ。本物のTR-909は既に製造中止だが、現代の音楽シーンでもテクノ/ハウスといったダンスミュージックを中心にしばしば使われている、いわばヴィンテージ機材のひとつである。
起動してみると画面はシンプルなもの。iPhoneは本体に加速度センサを内蔵しており、たとえばWebブラウザのSafariなどは本体の向きを持ち変えることで画面の向きも縦/横と切り替えて使うことができるが、IR-909は横画面で固定となっている。
ステップシーケンサの各ボタンをタッチしてパターン作成、発音場所はボタンのインジケータが点灯する。一度タッチするとインジケータはオレンジで表示されベロシティ弱、二度タッチすると赤くなりベロシティ強となる |
パッと見てまず目立つのは、画面下側に配置されている16個のボタン。これはTR-909に限らず現代のドラムマシンでもお馴染みの、発音させたい位置のボタンを点灯させる(=タッチする)ことでパターンを組めるステップシーケンサだ。16個のボタンが並ぶことからわかるように16ステップシーケンサとなっており、ステップ数は固定だ。
そして画面中央には「BD」(バスドラム)、「SN」(スネア)、「CP」(ハンドクラップ)などドラム音色が8つ並んでいる。それぞれをタッチするとパターンシーケンサの表示が切り替わるので、まずはバスドラムをタッチして下のボタンで表拍を打ち込み、次にスネアをタッチして切り替え、裏拍を打ち込む……といった具合に入力できる。「PLAY」をタッチすれば演奏が始まり、各音色列に用意された「SOLO」や「MUTE」ボタンも活用して音を聴きながらパターンを作り込むことができる。
野太いサウンド、一部の設定はiPhoneらしいインタフェース
IR-909は先に述べたように8つのドラム音色をいわゆるドラムキットとして扱っており、サンプルパックと呼んでいる。起動した初期状態ではTR-909を再現したサンプルパックが読み込まれている。他にも「TR-808」、「TR-707」、「TR-606」と合わせて4種類のローランドのドラムマシンを再現したもの、そしてTech HouseとKarvというオリジナルを加え、合計6種類のサンプルパックが用意されている。シーケンスパターンは「P1」~「P4」と4つのボタンで切り替え可能で、各サンプルパックごとに4つのパターンを保存することができる。
ディスプレイ右端のボタンをタッチするとサンプルパック読み込み画面が開き、バンドルされる6種類のサンプルパックを切り替えることができる |
シーケンスパターンは中段の「P1」~「P4」ボタンで切り替える。「CP」をタッチすると、現在表示しているパターンがクリアされる |
音質はiPhoneの内蔵スピーカで聴いているとあまりよくわからないが、ヘッドホンを繋いで鳴らしてみるとかなり野太い音で、いかにも909や808サウンドといった雰囲気だ。オリジナルのサウンドパック2種もなかなかよくできており、あらかじめ保存されているシーケンスパターンを聴いてみると、16ステップ8音色で制作しているとは思えないほどだ。
IR-909はインタフェースもシンプルで、ドラムマシンを触ったことがあるならばあまり操作に迷うところはないのだが、実際に使っているとちょっとした疑問が生じた。「TEMPO」や「SHUFFLE」というボタンが用意されているものの、タッチするとディスプレイには現在の設定テンポ、そしてシャッフルのパーセンテージが表示されるのみで、変更の仕方がわからないのだ。App Storeで購入したアプリには別途ヘルプファイルが添付されるわけではない。アプリによっては簡単なインフォメーションを表示するためのボタンが用意されている場合もあるが、IR-909にはそれもない。また開発元のWebページにも操作方法の説明らしき記載がない。
「TEMPO」ではパターン全体のテンポを決める。「SHUFFLE」は各ステップの演奏タイミングをある程度ずらすことでスウィング間を出すためのパラメータだ |
テンポやシャッフルのようにパーセンテージで設定するパラメータはボタンをタッチした状態で本体を前後に傾け変更する。手前に傾ければ数値が小さく奥へ傾ければ数値が大きくなる |
そこで「IR-909 tempo」などのキーワードで検索してみたところ、海外Blogページで操作方法に関する記述を見つけた。その方法とは、変更したいボタンをタッチしたままの状態で本体を前後に傾ける、というもの。先に軽く触れた内蔵加速度センサを利用したiPhoneらしいインタフェースである。
この操作方法は他にもパーセンテージ単位で設定するところに活用されており、具体的には各音色列の「MORE」ボタンで開く、各音色のゲインやアタック、そしてピッチなどがそれにあたる。これによりただ単に用意されているドラム音色を鳴らすのではなく、ある程度、音を作りこむこともできるのだ。ただこの本体を傾けての操作では、1%単位といった細かい調整はかなり難しい。面白い試みではあるのだが、テンポはともかく各音色を細かく作りこむには根気が必要だろう。
IR-909はテンポ調整などのインタフェースに多少難はあるものの、ステップシーケンサとしてはベーシックな仕上がりで、音質的にも十分楽しめた。次回はまた別の音楽系アプリを試してみよう。