日本郵政グループとの提携で、全国の郵便局内に独自の店舗を展開してきた楽天モバイル。ですが2023年1月20日、同社はその郵便局内の店舗のうち約200店舗を2023年4月までに閉店し、代わりに全国の郵便局に楽天モバイルのチラシを置く方針を打ち出しています。その背景には、同社の経営にかかる強い危機感があるといえそうです。

実店舗拡大の切り札が一転して閉店に

「月額0円」施策の廃止やプラチナバンドの再割り当てなど、2022年も携帯電話業界で大きな話題を振りまいた楽天モバイル。その楽天モバイルが2023年早々となる2023年1月20日、販売面で大きな戦略転換を打ち出して話題になりました。

それは、全国の郵便局で展開してきた「楽天モバイル 郵便局店」を、一部を除いて閉店する予定であることを打ち出したことです。閉店する店舗の数はおよそ200に上るようで、2023年4月末までに順次閉店するようです。

そもそも、楽天モバイル 郵便局店とは何なのか?というと、要は全国の郵便局の中に設置された、楽天モバイルの簡易型店舗。長机を設置して有人で相談や契約などができる簡易店舗や、小型のブースの中でタブレットを通じスタッフとやり取りしながら契約を進めるリモートブース型の店舗を、郵便局内に設置し販売に活用してきました。

  • 2021年より楽天モバイルが設置を進めてきた「楽天モバイル 郵便局店」。イベントスペースなどに設置された簡易型の店舗だが、2023年4月末をもってその多くが閉店となるようだ

そして、なぜ楽天モバイルが郵便局の中に店舗を設けているのかといいますと、そこには2021年3月に、楽天モバイルの親会社である楽天グループと日本郵政、日本郵便が資本・業務提携を締結したことが影響しています。この提携はもともと、楽天グループの本業であるEコマースに関連する物流に共同で取り組むためのものだったのですが、日本郵政の出資を受けるのに伴って提携の範囲がモバイルの分野にまで拡大されたのです。

  • 楽天グループは2021年3月に日本郵政グループと資本・業務提携を締結。提携の範囲が物流からモバイルにまで広がったことで、郵便局内での店舗設置が進められるに至っている

つまり、楽天モバイル 郵便局店は、楽天グループと日本郵政グループの提携による楽天モバイルの契約拡大に向けた取り組みの一環だったわけです。その店舗展開は2021年6月からなされており、店舗数が少ない楽天モバイルが規模の面で他社に追いつくための切り札になると見られていたのですが、2年に満たない期間で取り組みが終了することとなりました。

楽天モバイルはその代わりの策として、今後は全国約2万の郵便局に、順次楽天モバイルのサービスを案内するチラシを設置していくとのこと。ですが、郵便局を頻繁に利用するのは年配層が中心とみられるだけに、そうした人たちが楽天モバイルのチラシを見てオンラインで契約してくれるのか?という点には疑問が残ります。

2023年中の単月黒字化に向け、コスト削減が急務

しかしなぜ、楽天モバイルは郵便局での店舗展開を大幅に縮小するに至ったのでしょうか。もちろん、今回の措置が店舗戦略の見直しの一環で、今後何らかのリニューアルを図ったうえで新たな郵便局の活用を進めるという可能性も考えられなくはないのですが、楽天モバイルの現状を考慮するとコスト削減が目的といえそうです。

楽天グループは現在、楽天モバイルへの先行投資が大きく響いて大幅な赤字が続いている状況です。執筆時点で最新となる2022年12月期第3四半期時点の決算を確認しますと、営業損益は2871億円と、赤字が前年同期の倍以上にまで拡大しています。

  • 楽天モバイルを含む楽天グループのモバイルセグメントの四半期業績推移。改善傾向にあるとはいえ、先行投資で大幅な赤字が続いていることが楽天グループ自体の経営を苦しめている

それゆえ楽天グループは、楽天銀行や楽天証券ホールディングスの上場を推し進めるほか、社債を相次いで発行するなど、資金繰りのためなりふり構わぬ姿勢を見せています。Eコマースや金融などの主力事業は好調なだけに、楽天モバイルが同社の経営を苦しめている様子を見て取ることができます。

しかも楽天モバイルにとって、2023年はその存続をも左右する非常に重要な年でもあります。なぜなら楽天モバイルは、参入当初から「2023年中に単月で黒字化する」と宣言しており、インフラ整備の4年前倒しや、月額0円で利用できる「Rakuten UN-LIMIT VI」を導入した後も同社はその姿勢を変えていません。

それゆえ、宣言通り2023年の単月黒字化を実現できるかどうかが、楽天グループが投資家から信用を得る、ひいては楽天モバイルが今後も事業を継続するうえで非常に重要な要素となってくるのです。もし黒字化が達成できないとなれば、楽天グループの信用が大きく損なわれてグループ全体の経営危機を迎える可能性もあり、重荷となっているモバイル事業からの撤退や売却などに至ることもあり得ます。

もちろん、それは楽天グループにとっても本意ではないことから、ここ最近楽天モバイルは事業の拡大から、売上や利益を確実に増やす取り組みの強化に舵を切っているようです。ユーザーから大きな批判を集めながらも、2022年に「Rakuten UN-LIMIT VII」を導入し、月額0円施策を終了させたのはその一環といえますし、今回の郵便局内の店舗閉店も、店舗の拡大で規模を追うよりもコストを抑えることを重視して方針転換した結果といえるのではないでしょうか。

  • 月額0円施策がなくなったことで大きな波紋を呼んだ「Rakuten UN-LIMIT VII」も、確実に売上を増やすための方針転換と見られている

もちろん、楽天モバイルに好材料がないわけではありません。インフラ整備を大幅に前倒ししたことで今後の整備コストが大幅に抑えられるほか、月額0円施策の終了で今後はユーザーから確実に収入が得られ、売上も大幅に増えることが予想されます。

ですが、その月額0円施策を終了させたことで、顧客獲得の強力な武器を失ってしまったのも事実。それに加えて、楽天モバイル 郵便局店の閉店により、顧客獲得するうえで重要な実店舗が減少してしまうとなると、売上を増やすうえでも重要な契約者数をどうやって増やすのか?という点には疑問が残ります。

2023年以降も楽天モバイルが事業を継続するうえで、同社がこの難局をいかに乗り越えるかが非常に重要となってくることは間違いないでしょう。それだけに、今年は楽天モバイルを巡って、郵便局の店舗閉店だけにとどまらない大きな動きが起きる可能性も高いといえそうです。