楽天グループは1月26日、楽天市場出店者向けのイベント「楽天新春カンファレンス2023」を都内で開催しました。カンファレンスの冒頭では楽天グループ 代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏も登壇し、楽天グループ全体のビジョン、特に現在注力しているモバイル事業と楽天市場のシナジーについて語られました。

  • 「楽天新春カンファレンス2023」に三木谷浩史氏が登壇

    「楽天新春カンファレンス2023」に三木谷浩史氏が登壇

楽天市場の恒例行事、しかし今回の講演は「モバイル」がメインテーマ

楽天新春カンファレンスは毎年1月に開催されている恒例行事。楽天市場の出店者らを集め、楽天側からの戦略共有だけでなく、新機能などの理解を深められる分科会、サービス担当や店舗同士の意見交換など、ビジネスを成長させるためのヒントを得られる交流の場となっています。

講演パートでは豪華ゲストに加え、楽天の顔である三木谷氏自らも登壇。オンライン/オフラインのハイブリッド開催となった今回も、リアル会場には多くの参加者が集まっていました。なお、基本的には楽天市場関係者向けのクローズドな場であり、今回は冒頭に行われた三木谷氏の基調講演のみ取材の機会を得られました。

先述の通り、あくまで楽天市場に関するイベントであり、参加者もメディアを除けば大半が楽天市場関係者。しかし、いざ始まってみると、意外にも講演の内容はモバイル事業に関する話題が大部分を占めていました。

  • 会場には多くの楽天市場関係者らが訪れた

    会場には多くの楽天市場関係者らが訪れた

楽天市場関係者にとっても他人事ではない、楽天モバイルの動き

さかのぼること17年前、2006年の楽天市場関係者向けイベント(楽天EXPO 2006)でも「モバイル」をテーマに掲げたことがあると振り返る三木谷氏。ガラケー全盛の当時、将来はECの流通総額の70%をモバイル端末からのアクセスが占めるようになるという予測していたそうですが、2023年元旦の楽天市場での売上を分析すると実に89.3%をモバイルが占めていたとのこと。予測通り、あるいはそれ以上の現状を見るに、早くからモバイルファーストを意識した備えを進めてきたことは先見の明があったと言えるでしょう。

  • 2023年元日、楽天市場における流通の89.3%はモバイル端末経由だった

    2023年元日、楽天市場における流通の89.3%はモバイル端末経由だった

しかし、今回「モバイル」をテーマに掲げたのはもちろん、単にモバイルからのアクセスを前提にしたECサイトのあり方のことではなく、注力領域である携帯電話事業、楽天モバイルの取り組みについてです。

楽天が第4のキャリアとして携帯電話事業に参入する前後、2017年末から2020年頃までの空気を振り返れば、その壮大な構想に対して、新規参入のハードルの高さを知る携帯業界関係者からは実現可能性を疑問視する声も少なからずありました。

一方、2023年現在の楽天モバイルを取り巻く環境を見ると、“逆風”と言える反応が多いのは技術的な部分よりも資金・体力面の話題に移ってきています。特に、モバイル事業への先行投資が楽天グループの最終赤字という結果に現れた決算シーズンには、財務状況の急変を不安視する報道や投資家の声も散見されました。

楽天モバイルは2022年10月に4G人口カバー率98%を達成しましたが、この定住人口に基づく数値は、仕組み上100%に近付いても思いのほか「どこでも繋がる」状態には遠いものです。面的カバーではまだ道半ばといえる現状でも、楽天モバイルの基地局などの設備投資額は1兆円を超えており、6000億円程度と見込んでいた参入当初の計画よりもはるかにモバイルネットワークの構築にはコストがかかっています。

率直に言えば、莫大な設備投資が必要なインフラ事業である楽天モバイルを楽天市場などの主力事業の稼ぎで支えている状況にある以上、その正当性・将来性をしっかりと説明し、ビジネスパートナーの不安を払拭したいという思惑が読み取れます。

  • 講演時間の大半はモバイル関連の取り組み、そして楽天エコシステムとのシナジーの説明に割かれた

    講演時間の大半はモバイル関連の取り組み、そして楽天エコシステムとのシナジーの説明に割かれた

「楽天市場10兆円計画」の鍵を握るのは楽天モバイル

これほど巨額の先行投資をいかにして回収する算段をつけているのかといえば、「ただドコモさんとかauさんとかソフトバンクさんみたいな携帯会社を始めようということではなく、楽天エコシステムにもうひとつ巨大なプラットフォームを作るんだというのが基本的な構想」「(モバイル事業を通じて)みなさん(=楽天市場)の流通総額を増やしていく」と、モバイル単体での回収ではなく楽天エコシステム全体を押し上げる効果を見込んでいます。

近年、楽天のEC事業の成長ビジョンが語られる場面では「10兆円計画」というワードがよく登場します。2022年の楽天の国内EC流通総額は、前年比+11.2%で約5.6兆円。これを2030年頃までに10兆円規模に倍増させようというものです。その鍵を握るのもまた楽天モバイルであり、「楽天モバイルの成功=楽天市場の成長」だとします。

  • 楽天市場の「10兆円計画」にも楽天モバイルの成功は欠かせない要素だ

    楽天市場の「10兆円計画」にも楽天モバイルの成功は欠かせない要素だ

楽天モバイルの契約回線数は2022年9月末時点で518万回線で、そのうち現行のMNOサービスに限れば455万回線です。また、将来的に到達可能と見込む目標ラインとしても、三木谷氏を含む経営陣の過去の発言で1500万~2000万回線としたケースが多く、いずれにしても業界4位に留まる数値。楽天会員は2021年度時点で1億を超えている(日本国内の楽天ID数)ことからすれば、単純な会員増加だけではECの規模を2倍にするほどの影響力があるとまでは言えません。

しかし、実は楽天モバイルユーザーは他の楽天サービスの利用率も高い傾向があるそう。三木谷氏は、楽天モバイル利用者の楽天市場での購買額は契約前よりも49%アップしていること、楽天グループサービスの利用個数も平均2.58個増えていることなどを例に挙げ、楽天経済圏にどっぷりと浸かるロイヤルカスタマーを増やす起爆剤としてのポテンシャルを説明しました。

  • 実は楽天モバイルは楽天市場の購買額増にも貢献している

    実は楽天モバイルは楽天市場の購買額増にも貢献している

  • 楽天モバイルユーザーは複数サービスを利用するクロスユースの割合が高い

    楽天モバイルユーザーは複数サービスを利用するクロスユースの割合が高い

また、「何がすごいって、楽天ポイントの失効率は2%しかない」と、共通ポイントとしても異例の消化率の高さもアピール。やや唐突な印象を受けるかもしれませんが、言葉を補うなら、ポイントの失効率が低いということは付与されたポイントのほとんどが楽天経済圏内のどこかで確実に使われているということです。

特に楽天モバイルの新規契約特典で大盤振る舞いされているようなまとまった量のポイントは、楽天市場での買い物に直結する場合が多いのではないでしょうか。そういった意味では、短期的に見ても楽天モバイルへの注力が結果的に楽天市場も活気付けている側面はあるでしょう。

  • 楽天モバイルユーザーが2,000万人に到達した場合、流通総額2.5兆円規模の効果があると試算

    楽天モバイルユーザーが2,000万人に到達した場合、流通総額2.5兆円規模の効果があると試算

法人プランを発表、三木谷氏自ら“協力”を願う

法人向け料金プランもこの場で初公開され、同日朝に発表されたホームルーターのRakuten Turboとあわせ、個人向け・スマートフォン向けのみの展開から一歩進み、より一層の拡販に向けた体制が整いつつあります。

講演の終盤、ビジネスパートナーといえる楽天市場の出店者たちに向け、三木谷氏自ら「ぜひ楽天モバイルに変えていただきたい」と売り込む場面も。「三木谷はモバイルしかやってないと、そういう風には思わないでください」と冗談めかしつつ、楽天モバイルの成長は楽天エコシステム全体の成長につながるという展望のもと、楽天市場の活性化、めぐりめぐって各店舗の売り上げアップにもつながっていく自分事としての“協力”を願いました。

  • 法人向けサービスの詳細がこの場で発表されたのは少々意外な気もしたが、最も楽天と距離の近い法人顧客が集まる機会と考えれば自然だろう。会場内には法人プランの相談を受け付ける特設ブースも設けられていたようだ

    法人向けサービスの詳細がこの場で発表されたのは少々意外な気もしたが、最も楽天と距離の近い法人顧客が集まる機会と考えれば自然だろう。会場内には法人プランの相談を受け付ける特設ブースも設けられていたようだ