スマートフォンと衛星との直接通信サービスは、米Space Exploration Technologies(スペースX)と提携して展開している「au Starlink Direct」でKDDIが大きくリードする状況です。競合が追随するのは難しいと見られていましたが、別の衛星通信事業者と組んでサービス提供を目指す楽天モバイルだけでなく、NTTドコモ、そしてソフトバンクまでもが相次いで2026年に同種のサービスを提供することを明らかにしています。

「au Starlink Direct」で優位性を打ち出すKDDI

衛星とスマートフォンとが直接通信することで、携帯電話の電波が届かない山間部や海上などでも通信が可能になります。国内でもKDDIがスペースXと提携し、2025年4月より「au Starlink Direct」の提供を開始したことで大きな注目を集めました。

関心の高さは利用にも現れているようで、KDDIによると2025年のゴールデンウィークには、au Starlink Directの利用が全国で1日あたり4万人にまで伸びたとのこと。ゴールデンウィークには多くの人が観光地を訪れ、携帯電話の電波が入らない場所へ行く人の割合も増えるだけに、その利用が伸びたものと考えられます。サービス開始から間もない時期にそれだけの利用がなされていることは、場所を問わず通信したい、というニーズが非常に多いことの表れといえるでしょう。

  • KDDIは「au Starlink Direct」を2025年4月より提供しているが、その利用は早速全国に広がっているとのこと

そこでKDDIは2025年5月7日より、これまでメインブランド「au」の特定プラン利用者に限定してきたau Starlink Directを、「UQ mobile」など他のブランド利用者や、他社サービス利用者にも提供しています。料金は月額1,650円で、au Starlink Directに加えKDDIの4Gネットワークを1GB分利用可能ですが、UQ mobileの新料金プラン「コミコミプランバリュー」「トクトクプラン2」利用者であれば月額550円で利用できるとのことです。

これにより、他社サービス利用者も衛星・スマートフォンの直接通信が利用可能にはなりましたが、auユーザー以外がau Starlink Directを利用する際には新しいSIMの発行が必要なので、通信障害対策などのためスマートフォンですでに2つのSIMを利用している人は、SIMのうち1つをau Starlink Directに変更する必要があるといった制約を受けてしまいます。

  • 「au Starlink Direct」は2025年5月7日より、「au」ブランド以外のユーザーに向けてもサービス提供開始。1GBの4G通信も付属するが、利用には専用のSIMを用いる必要がある

そこで注目されるのが、KDDIの競合が衛星・スマートフォンによる直接通信サービスを提供しないのか?ということなのですが、そもそもスマートフォンと直接通信できるサービスを提供する衛星事業者が世界的にもあまり存在しません。それゆえ、これまでau Starlink Directに対抗し得る可能性があるのは、米AST SpaceMobileに出資して衛星・スマートフォンとの直接通信を目指してきた楽天モバイルくらいと見られていました。

実際、楽天モバイルは2025年4月に、日本でAST SpaceMobileの衛星とスマートフォンとの直接通信によるビデオ通話試験に成功したと発表。それと同時に、2026年の第4四半期(10~12月)に衛星・スマートフォンの直接通信サービスを提供することを明らかにしています。

  • 楽天モバイルは、AST SpaceMobileの衛星とスマートフォンとの直接通信試験に成功したことを受け、2026年第4四半期にサービス提供予定であることを明らかにしている

競合は2026年にサービス開始予定、その理由は

ですが、2025年5月に入るとその状況が大きく変化。NTTドコモ、そしてソフトバンクが相次いで、衛星・スマートフォンの直接通信サービスを提供する方針であることを明らかにしているのです。

実際、ソフトバンク 代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は2025年5月8日の決算説明会で、衛星・スマートフォンの直接通信サービスに関する方針を問われた際、「来年に自社サービスとして提供予定」と答えています。

  • ソフトバンクの宮川氏は、2025年5月8日の決算説明会で衛星・スマートフォンの直接通信を2026年に提供予定であることを明らかにした

もう少し具体的な説明をしたのが、NTTドコモ代表取締役の前田義晃氏です。前田氏は、翌日の2025年5月9日に実施した日本電信電話(NTT)の決算説明会で、やはり衛星・スマートフォンの直接通信に関して問われた際、「ファクトとして、来年夏にはサービス開始できる目途が立っている」と答え、ソフトバンクと同じ状況にあることを明らかにしました。

  • NTTドコモの前田氏は2025年5月9日に、衛星・スマートフォンの直接通信を2026年夏に提供開始予定と説明。ただし、どの会社の衛星サービスを使うかは明らかにしていない

ただ宮川氏、前田氏はともに、サービス提供のため契約する衛星事業者は答えられないとしています。ですが、楽天モバイルの親会社である楽天グループの代表取締役会長兼社長最高執行役員である三木谷浩史氏は、2025年5月14日の決算説明会で、AST SpaceMobileの衛星を活用したサービスは、日本国内では楽天モバイルが独占的に提供することを明らかにしているため、少なくとも両社の契約相手はAST SpaceMobileではないことが分かります。

  • 楽天グループの2025年度第1四半期決算説明会資料より。AST SpaceMobileとの契約は国内独占となるため、2社はAST SpaceMobile以外の事業者の衛星を使うようだ

そうなると、一体どこの事業者の衛星を利用するのか?という疑問が高まるところですが、最も可能性が高いのはやはりスペースXではないか、と筆者は見ています。確かに、KDDIとスペースXは提携関係にありますが、スペースXの低軌道衛星群「Starlink」を活用した通信サービスも、当初はKDDIだけが提供していましたが、その後NTTドコモやソフトバンクも扱うようになっていました。

そして、スペースX側の視点に立つならば、より多くの携帯電話会社と提携して利用を増やした方が収益向上につながるはずですし、競合がほぼいない状況のため携帯各社とは優位な契約を結びやすい立場にあります。また、時間が経過して打ち上げる衛星の数が増えれば、より多くのトラフィックに対処できるので、多くの携帯電話会社にサービスを提供しやすくなるでしょう。

そうしたことを考えると、衛星・スマートフォンの直接通信に関するKDDIとスペースXとの契約は、時限での独占契約となっている可能性が高く、それが切れるのが2026年夏ごろなのではないかと考えられます。それを機として、NTTドコモとソフトバンクが衛星・スマートフォンの直接通信を開始するものと考えられ、1年後にはKDDIと変わらない環境を実現できる可能性が高いでしょう。

そうなれば、KDDIも衛星・スマートフォンの直接通信を競争優位性として打ち出しにくくなるのは確か。利用できるサービスの幅が広がることは消費者にとってメリットとなる一方、KDDIとしては非常に悩ましいだけに、2026年に向け次なる一手が問われることになるでしょう。