NTTドコモが「dポイント」に力を入れ、KDDIが保険や銀行などの金融事業を強化し、ソフトバンクがポータルサイト大手のヤフーを傘下に収めるなど、携帯電話会社が携帯電話以外の事業に注力する傾向が強まっています。その背景には、主力の携帯電話事業を取り巻く厳しい環境が影響しています。

事業領域を広げつつある携帯大手3社

携帯電話会社は携帯電話のサービスを提供する――というのが当たり前のことだと思われているかもしれません。ですが、最近の大手3社の傾向を見ると、携帯電話以外の事業に力を入れる傾向が強まっているように見えます。

例えばNTTドコモは、これまで携帯電話の契約者を経営の軸としてサービスを提供してきました。ですが、2015年に自社のポイントプログラムを「dポイント」として、「Tポイント」や「Ponta」などと並ぶ共通ポイントサービスへと転換して以降、dポイントの展開に力を入れるようになっています。

実際同社は、2018年よりdポイントの会員プログラム「dポイントクラブ」の会員を、携帯電話の契約者に代わる経営の軸として評価するようになっています。dポイントがNTTドコモのサービス基盤となったというのは、大きな方針転換といえるでしょう。

  • NTTドコモは、共通ポイントプログラム「dポイント」に力を入れており、現在はdポイントの会員基盤が経営の軸となっている

KDDIは、2019年2月に「スマートマネー構想」を打ち出し、じぶん銀行やウェブマネーなど、傘下の金融関連事業をまとめる中間持ち株会社「auフィナンシャルホールディングス」を設立するとともに、それらのサービスをauブランドに統一。さらに、カブドットコム証券の株式をTOBで取得し、「auカブコム証券」へと名称変更することも明らかにしています。

これによってKDDIは、銀行から保険、証券、そして「au WALLET」に代表される決済サービスなど、幅広いサービスを提供する総合金融決済事業者の側面も持ち合わせるようになったといえます。KDDIが金融業で大きな存在感を示すようになった、というのは驚きがある人も多いのではないでしょうか。

  • KDDIは金融事業強化のため、中間持ち株会社の「auフィナンシャルホールディングス」を設立。総合金融事業者としての存在感を高めつつある

ソフトバンクは2019年5月に、同じソフトバンクグループ系列の兄弟会社であったヤフーを連結子会社にすることを発表しています。多くの人がご存知の通り、ヤフーは日本最大のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営するほか、最近ではソフトバンクと共同でQRコード決済「PayPay」を立ち上げるなど、さまざまなサービスを提供しています。そのヤフーを傘下に収めたことで、ソフトバンクもまた携帯電話会社の枠を超えたサービスを提供する事業者になったといえるでしょう。

  • ソフトバンクは2019年5月に、兄弟会社のヤフーを連結子会社化することを発表。より密な事業連携を図るとしている

行政の影響で成長に限界、楽天への対抗も

これまでにも、携帯電話会社が異業種の企業を買収するなどしてサービスを拡大するケースは多く見られましたが、それは携帯電話事業に付加サービスを増やす取り組みに過ぎませんでした。しかし、ここ最近起きている動きは、どちらかというと携帯電話事業と並ぶ新しいビジネスの軸を作り上げようとしているものです。

なぜそのような動きが増えているのかといえば、1つは携帯電話事業そのものの成長が、もう見込めなくなってしまったことです。携帯電話の契約数は、すでに日本の人口を超える規模に達しており、純粋な新規契約者を獲得できる機会は、せいぜい新入学を迎える学生がスマートフォンを購入する春商戦くらいしか残されていません。そこで増やせる契約数も微々たるものです。

また、これまで携帯電話会社が重視してきた、スマートフォンを大幅に値引きして他社から顧客を奪うという手法は、行政が端末値引きに厳しい規制を敷いたことで困難になりつつあります。一方で行政側は、携帯電話会社の業績に最も影響を与える“通信料金の引き下げ”を強く求めており、今後低価格化が一層加速するとみられていることから、収益は悪化の一途をたどる可能性が高いのです。

携帯電話事業に依存した事業展開を続けていると、業績がじり貧になってしまう。それゆえ、業績が好調なうちに新たな事業を展開するなどして顧客基盤を広げ、携帯電話事業が落ち込んでも成長し続けられる体制を整えたいという考えから、携帯電話会社が別の事業を強化するようになったわけです。

そしてもう1つ、新規参入の準備を進めている「楽天モバイル」の存在も、現在の動きに大きく影響していると考えられます。楽天は、Eコマースやクレジットカードなどさまざまな事業を展開しており、個々のサービスを共通のIDと「楽天スーパーポイント」で結びつけることで継続的なサービス利用へとつなげるエコシステム「楽天経済圏」で事業を拡大してきました。ゆえに、新規参入の楽天モバイルも、楽天経済圏に顧客を取り込むためのパーツとして活用されることが想定されています。

  • 楽天は、Eコマースをはじめとして多くのサービスを展開し、共通のIDと楽天スーパーポイントを軸とした「楽天経済圏」を構築している

そうしたことから、3社は楽天モバイルの参入に備え、携帯電話以外の事業を強化して同様のエコシステムを構築しようとしている、と見ることができるわけです。そうした企業のエコシステム同士の競争が加速するであろう今後は、“携帯電話会社”という概念そのものが大きく変わることになるかもしれません。