種類が増えつつあるケータイ小説

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ケータイ小説は、メールのような口語体の文章が、リアルで身近に感じられると言われている。「『普通の小説では情景描写があるのにケータイ小説はほとんどない』とか、『会話で話が続いていて表現が稚拙』という言われ方をしていることが多いです。しかし、最近は一概にそう言いきれなくなってきています。ケータイ小説の中でも色々な種類のものが出てきているのです」と松島氏(ケータイ小説サイト「野いちご」編集部編集長)は最近のケータイ小説の評価に異を唱える。

作家によっては情景描写を書いている人もいるし、表現にこだわっている人も出てきているという。『天使がくれたもの』の著者Chaco氏(前編参照)などは、最初は何も分からず思うままに書いたため、シナリオのような描写のない文章だったが、最新作になると改行があまりなくなり、一般文芸作品に近くなっているそうだ。また、ケータイ小説は一人称が多いと言われてきたが、『クリアネス』の著者である十和氏などは原則三人称で執筆しており、"一人称ばかり"という認識も崩れているという。

ジャンル的には恋愛モノが強い。これは、10代のコたちの最大の関心事が恋愛だからだ。「友情関係、親子関係など、読者が今抱えている悩みに当てはまる作品が売れています。小説は心の実用書だと思うのです。読者が欲しているものに回答を与えられる作品は、生き方などにも影響を与えることがあります。私の場合は、学生時代に友達から勧められた村上春樹の作品が同時代的に感じられたものですが、それと同じです。彼女たちにはケータイ小説なのでしょう。時代の転換点には、今までにないようなものが出てくるものだと思います。ケータイを持っている時間が長いので、ケータイが新しいものに行く触媒になっているのでしょう。『きっかけとしてケータイ』というケースはかなり多いと思います」(松島氏)。

書籍化については、「元々ケータイで書いていたものであり、多くの読者に言いたいことが伝わっていることは、掲示板での反応を見て分かっています。書籍化する際にも、オトナ目線で文章を削ると、かえって伝わらなくなると考えて、原則として元の作品を生かす方針をとっている」(松島氏)という。ただし、文章が短すぎたり改行が多すぎたりすると、書籍では読みにくいことがあるので、文章に肉付けをしてもらうことはあるそうだ。

ケータイ小説にはコミュニケーション機能が必須

ケータイ小説はケータイサイト上でリアルタイムに書き進められていく。作家と読者がコミュニケーションをとることができるのも人気の秘訣だ。「10代の読者たちはつながりを強く求めています。その世代は人間関係が希薄と言われますがそうではなく、つながりたいからケータイでアクセスするのだと思います」(松島氏)という。

ケータイ小説がウケた理由について同氏は、「コミュニティ機能を利用して色々な意見が交換され、共感が生まれているのが大きいと思います。携帯サイトに掲示しているだけで感想を書いたりできなかったら、ここまで広まらなかったのでは」と推測する。最近でこそ、作者には新しい作品を好きな時に好きなだけ書いてもらう形をとっているそうだが、連載間隔があまり開くと読者離れにもつながる。ケータイ小説が盛り上がるためには、サイトを運営する力も要求されるのだという。

Yoshi氏(前編参照)も、どうすれば読者が喜んだり泣いたりするのかを考えて、読者とコミュニケーションをとりながら書いたそうだ。読者の「ふたりを幸せにして!」という声で、結末をハッピーエンドに変えたこともあるという。これまでの小説は、作者の中だけで完結させてから読者に出すものだったが、ケータイ小説は、パブリックな場で読者とのやりとりをしながら作られていくものなのだ。

また、いつの時代も10代は恋愛や友情、親子関係で悩むものだ。ケータイ小説は、そんな子たちが悩んでいることに対して、同じ目線で等身大の言葉で答えを与えてくれるものだという。小説の中に答えがあるのはもちろんだが、作家自身がサイトの掲示板で悩み相談を受けていたこともある。相談件数は一日40件くらいきていたこともあったそうだ。作家とのやりとりができることでコアファンを生み、クチコミで広がっていったという。

(後編へつづく)

著者プロフィール:高橋暁子

小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら