京セラは2021年3月16日、5Gに対応したタフネススマートフォン新機種「TORQUE 5G」を発表した。同社が5G対応スマートフォンを投入するのは国内初となるが、5G対応の遅れが指摘されていたアップルよりも一層遅れての5G対応端末投入となったのはなぜだろうか。

アップルよりも遅れた京セラの5G対応

料金プランに注目が集まりがちな昨今だが、春から夏に向けてのスマートフォン新機種投入も徐々に進められている。ここ1、2カ月の動向を振り返っても、シャオミやオッポ、モトローラ・モビリティらが日本向けのスマートフォン新機種投入を相次いで打ち出しているのだが、2021年3月16日には京セラが新機種投入を発表している。

それがKDDIのauブランドから販売予定の「TORQUE 5G」だ。これはアウトドアの過酷な環境でも安心して利用できる耐久性能を持つタフネススマートフォン「TORQUE」シリーズの最新機種であり、ディスプレイを5.5インチと従来モデルより大型化を図りながらも、2メートルの高さからサンドペーパーを敷いた鉄板への落下試験をパスするなど、京セラ独自の技術で非常に高い耐久性能を備えているのが大きなポイントだ。

  • 京セラの新機種「TORQUE 5G」は、アウトドアユースに適したタフネススマートフォン「TORQUE」の最新モデルであり、より高い耐久性能を持つのが特徴だ

    京セラの新機種「TORQUE 5G」は、アウトドアユースに適したタフネススマートフォン「TORQUE」の最新モデルであり、より高い耐久性能を持つのが特徴だ

それに加えてカメラ機能の強化もなされている。具体的には、メインカメラとフロントカメラの2つを活用して前後の映像を同時に記録する「マルチカメラ」や、自転車のセンサーから取得した情報を映像に重ねて録画できる「Action Overlay 『Bike』モード」、カメラボタンを押している時だけ動画動画を記録できる「プッシュムービー」など、アウトドアシーンでの撮影をより楽しくする機能が盛り込まれている。

  • 「Action Overlay 『Bike』モード」を利用している所。スマートウォッチや自転車に取り付けたセンサーと連動し、それらの情報を動画に重ね合わせて録画ができる

また新たに、アウトドアで安心・便利に利用できるTORQUE専用のアクセサリーの追加がなされたほか、アウトドアブランド「Coleman」とコラボレートした限定モデルも用意。徹底してアウトドアユースでの利用にこだわりを見せた端末開発がなされていることが分かる。

  • 「Coleman」とコラボレートした限定モデルも用意。アウトドア利用に対する強いこだわりを打ち出している

その一方で、TORQU 5Gは「5G」と名前が付いている通り、TORQUEシリーズとして初めて5Gに対応したモデルとなる。さらに言えば、TORQUE 5Gは京セラ初の5Gスマートフォンでもあるという。

既に国内の主要なスマートフォンメーカーは5G対応機種を投入しており、5G対応が遅れていると言われていたアップルでさえ、2020年10月に発売された「iPhone 12」シリーズで5G対応を済ませている。京セラの5G対応はそれよりさらに遅れる形となった訳だが、同社の説明によると、その遅れは技術や調達面などのネガティブな理由ではなく、戦略的な狙いが大きいようだ。

競争激しいマスと距離を置き、ニッチに注力

そもそも京セラの現在の端末ラインアップを見ると、TORQUEのようなタフネスモデルのほか、ソフトバンクのワイモバイルブランド向け「かんたんスマホ2」のようなシニア向けモデルやフィーチャーフォン、KDDIのauブランド向け「mamorino5」のような子供向け端末が多くを占めている。普遍的なモデルは少なく、ターゲットをかなり絞った端末が多くを占めていることが分かる。

そしてもう1つ、同社が力を入れているのが法人向けのIoT関連通信デバイスやモジュールありで、実はTORQUE 5Gより先に、法人向けの5G対応端末「5Gコネクティングデバイス」を販売している。これはWi-FiやUSBなどでさまざまな機器を5Gのネットワークに接続する法人向けのデバイスで、2020年10月中旬より台数を限定して販売開始しているのだ。

  • 京セラが2020年10月に限定販売した法人向けの「5Gコネクティングデバイス」は、京セラ初の5G対応端末となる。2021年春からは販売を本格化する予定だ

そうした方針は、京セラの通信事業におけるもう1つの主要市場である米国でも同様だ。京セラは米国では現在、主として法人市場をターゲットにしたタフネスモデルに注力しており、米国向けで同社初となる5G対応スマートフォン「DuraForce Ultra 5G UW」を発表したのは2021年3月11日と、TORQUE 5Gと大きく変わらないタイミングである。

  • 京セラは米国向けに5G対応タフネススマートフォンを投入することを明らかにしており、2021年3月11日に「DuraForce Ultra 5G UW」を発表している

つまり京セラは高機能で低価格という、幅広い層をターゲットにしたスマートフォンにはもはや力を入れていないことから、5Gのような先進機能いち早く搭載する必要がない訳だ。それよりもシニアや法人など特定のターゲットが満足できる機能・性能を実現し、確実な支持を得ることが重要なことから5G対応を急がなかったといえる。

価格競争が激しいスマートフォン市場で京セラが生き残るための戦略が、5Gの対応にも大きく影響している訳だが、一方で2021年は国内でも5Gのネットワークが急拡大する予定だ。さらに2022年以降は、5Gの機器のみで構成されたスタンドアローン運用への本格移行が進み、法人での5G活用が急速に進むと考えられるだけに、京セラも今後は5Gへの積極対応が求められることになるだろう。