ソフトバンクは2021年2月18日、オンライン専用のモバイル通信サービスの新ブランド「LINEMO」と、その料金プラン詳細について発表した。新たに700万種類以上のLINEクリエイターズスタンプが追加料金なしで利用できるなどの施策を発表したが、意外性のある施策は出てこなかった。その理由はどこにあるのだろうか。

LINEとはコミュニケーション主体に連携

2020年末から注目を集める携帯各社の新料金プラン。中でも注目を集めているのは、高速データ通信量が20GBで月額2,980円というオンライン専用プランなのだが、準備期間が短いこともあってか詳細が決まらないまま発表されるケースが少なからずある。

ソフトバンクのオンライン専用プランもその1つだ。同社は2020年12月22日に、MVNOとしてサービスを提供していた傘下のLINEモバイルを吸収し、「SoftBank on LINE」をブランドコンセプトとしたオンライン専用の料金プランを提供すると発表。月額2,980円で20GBの高速データ通信、と1回当たり5分間の無料通話が利用できることを明らかにしていたが、具体的なブランド名やサービスの詳細については明らかにされていなかった。

そこで同社は2021年2月18日、オンライン専用ブランドと料金プランの正式な内容を改めて発表している。ブランドの正式名は「LINEMO」となり、2021年3月17日にサービスを開始すること、eSIMとeKYCの活用によりオンラインですぐ契約できること、そして新たに、1回5分の無料通話をオプションとする代わりに、月額料金を500円値引いて2,480円で提供されることが明らかにされている。

  • ソフトバンクはオンライン専用の新ブランドの正式名称が「LINEMO」になると発表。料金を月額2,480円に引き下げることも明らかに

    ソフトバンクはオンライン専用の新ブランドの正式名称が「LINEMO」になると発表。1回5分の無料通話を従量制にして、料金を月額2,480円に引き下げることも明らかにされた

また、LINEMO最大の特徴となるLINEとの連携に関しても、今回の発表で具体的な内容が明らかにされている。主なポイントの1つは、LINEのサービス利用中の通信量がカウントされない「LINEギガノーカウント」で、具体的にはLINEのトークや音声通話、ビデオ通話などを利用する際の通信量がカウントされないようだ。

そしてもう1つは、LINEクリエイターズスタンプが使い放題になること。これは2021年夏以降、LINEが月額240円で提供している「LINEスタンププレミアム(ベーシックコース)」を、LINEMO利用者に追加料金なしで提供するという施策で、LINEMOユーザーは700万種類以上のスタンプを使ったコミュニケーションが可能になるという。

  • LINEMOの新たな施策として、700万種類以上のLINEクリエイターズスタンプが使い放題になる「LINEスタンププレミアム(ベーシックコース)」が、追加料金なしで利用できることが公表された

こうした施策は、ワイモバイルが「Yahoo! JAPAN」の有料サービスを追加料金なしで利用できる「Yahoo!プレミアム for Y!mobile」に近いものといえるのだが、LINEのサービスとの連携という意味では、踏み込みが弱い印象も否めない。例えばLINEが提供するポイントプログラム「LINEポイント」や、決済サービス「LINE Pay」などとの連携はなされておらず、やや中途半端な印象を受けてしまう。

LINE・ヤフーの経営統合が終わるまでは動きづらい

ただ現時点での同社の動向を考えると、それはやむを得ない部分があるというのが正直な所であろう。なぜならLINEは2021年3月に、ソフトバンク傘下でYahoo! JAPANを運営するヤフーなどを有するZホールディングスとの経営統合を予定しているからだ。

  • LINEとZホールディングスは2019年11月に経営統合を発表、2021年3月には統合が完了する予定だ

経営統合後、LINEは実質的にソフトバンクの傘下に入ることになるのだが、一方でLINEとZホールディングスとでは重複するサービスがいくつかある。例えば先に挙げたLINE Payは、Zホールディングスが力を入れている「PayPay」と激しく争っているライバル同士だが、経営統合後は事業が重複するため、双方が継続するとなれば二重投資の無駄が発生してしまう。

そこで両社は経営統合を発表した2019年以降、重複するサービスの整理に向け議論を進めているのだが、最終的にどのサービスが残り、どのサービスがなくなるのかは、正式な経営統合が完了するまで明らかにできない。にもかかわらずLINEMOは、競合サービスに対抗するため、2021年3月から開始せざるを得ない。

  • ポータルサイトを主とするヤフーと、メッセンジャーアプリを主とするLINEとでは相互補完できる事業も多い一方、決済・金融などを中心に重複する事業も少なからずあり、どう整理するかが注目されている

それゆえソフトバンクとしては、現状のタイミングでLINEとの深い連携を図るのは難しいと判断、LINE側が明らかな優位性を持つ、メッセンジャーを主体としたコミュニケーションに関連する部分での連携にとどめたと見ることができそうだ。それ以上の連携に関しては、経営統合後に改めて検討されるものと考えられよう。

一方で、2社の経営統合によってLINEとヤフーとの関係が深くなることから、例えばLINEの弱点でもあるEコマースなどに関しては、現在ヤフーが持つサービスと、LINEMOとの連携などが出てくるかもしれない。また逆に、Yahoo! JAPANのブランドを冠しているワイモバイルブランドの料金プランと、LINEのサービス連携が進む可能性も考えられそうだ。

そしてグループ内の通信とサービスの連携強化は、ソフトバンク全体の競争力強化にも大きく影響してくることとなる。そうした意味でも今後発表される2社の経営統合の詳細は、大きな関心を呼ぶことになるかもしれない。