「FREETEL」ブランドのプラスワン・マーケティングの通信事業が、楽天に買収され話題となったが、同社は多額のプロモーション費用をかけてMVNOの市場シェア拡大をしようとし、資金不足となったことが買収につながったと見られる。なぜそこまでして、MVNOはシェア拡大を急いでいるのだろうか。
FREETEL買収劇は契約数拡大を巡るもの
去る9月26日、携帯電話業界で大きな話題となったのが、「FREETEL」ブランドでスマートフォンや、MVNOとして通信サービスを提供するプラスワン・マーケティングの通信事業を、同じくMVNOとして「楽天モバイル」を展開する楽天が約5億円で買収すると発表したことだ。
FREETELといえば、今年の春頃まで有名女優やタレントなどを起用し、テレビCMを積極的に実施するなどして、急速に知名度を上げていたことで知られる。しかしながら同社は設立して5年程度のベンチャー企業であるため、巨額なプロモーション費用などは資金調達でまかなっていたと見られる。だがそうした積極的な投資に売上が追いつかなかったため資金不足となり、通信事業を楽天に売却するに至ったと見られている。
一方の楽天は、プラスワン・マーケティングの通信事業を買収することで、同社が抱える顧客を手に入れることができる。つまり楽天は5億円と、プラスワン・マーケティングの通信事業が抱えていた約31億円の負債、合わせて約36億円で同社の顧客を買い、市場シェアを一気に高める戦略に出たわけだ。
実はプラスワン・マーケティングだけでなく、楽天も「楽天モバイル」のテレビCMを大々的に実施するなど、契約数の拡大に向けたプロモーションに非常に力を入れている。それゆえ両社はともに、MVNOによる通信事業での契約をいかに増やすかに重点を置いた戦略をとっていたことが理解できるだろう。
だがよくよく考えてみると、"格安SIM""格安スマホ"などの名称でMVNOが注目され、市場が本格的に立ち上がってからまだ3年程度しか経過していない。にもかかわらず、なぜいま多くのMVNOが、それだけ多額のコストをかけてでも、多くの契約数を獲得して市場シェアを拡大することに躍起になっているのだろうか。
低価格でも儲けを出し、競争に勝ち抜くためには重要
その大きな理由として考えられる要素の1つは、将来の売上を確保するためだ。MVNOの通信サービスは大手キャリアの半分以下の月額料金で利用できるなど、非常に安価なことが特徴となっているが、裏を返せば1つの契約から得られる収入は、それだけ少ないことになる。
しかも現在、MVNOは700社近くあると言われており、非常に多くのMVNOが市場にひしめき合っている状況だ。安いことが最大の特長であり、なおかつ多くの企業が参入しており非常に競争が激しく値上げは困難なことから、MVNOは薄利多売のビジネスとならざるを得ない。そうした状況下で儲けを出すには契約数を大幅に伸ばす必要があり、将来的な収益基盤を確保するためには、たとえ現在は赤字覚悟であっても契約数を増やすことに力を入れる必要があるわけだ。
そしてもう1つの理由は、次の戦いに備えるためである。日本の人口を考えた場合、700社近いMVNOが未来永劫生き残ることができるかというと、正直なところ難しいと言わざるを得ない。それゆえ現在は、多数のMVNO同士が戦っている状況ともいえ、この戦いに勝ち残ることができた企業だけが、次のステップとして大手キャリアや、ワイモバイルなど大手キャリアのサブブランドと本格的に争うことになると考えられる。
そしてMVNOが競争に勝ち抜くためには、いかに多くの契約を獲得し、市場シェアを拡大して"大手"の一角に名を連ねられるかが重要となってくる。だがMVNOへの顧客流出に危機感を強めた大手キャリアの側も、最近サブブランドの活用などで流出を防止する策に出るなど先手を打ち始めており、今後はMVNOが従来のようにユーザーを獲得するのは難しくなってくると考えられる。
そうしたことから、MVNOが今後生き残ってキャリアと戦うために必要な契約数を獲得するのに残された時間はあまり長くないといえ、短期間のうちにいかに契約を増やすことが重要となっている。それゆえ今後は、大手MVNO同士のプロモーション合戦は一層積極的になってくるだろうし、戦いに勝てず撤退、あるいは経営破たんしたMVNOを、資金力のあるMVNOが買収するなど、M&Aによって規模拡大を目指す動きも一層強まるといえそうだ。