日本電気(NEC)は2026年1月29日に発表した2025年度第3四半期決算で、既存のハードウェアベースの携帯電話基地局事業から撤退することを明らかにした。5Gを機としてモバイル通信インフラ関連の事業拡大に力を入れていたはずのNECが、逆に縮小する結果に至ったのは一体なぜだろうか。

vRAN関連事業は継続も事業は縮小へ

携帯電話のネットワークに欠かせない、基地局などのインフラ設備。現在、その携帯電話インフラ市場は、スゥェーデンのエリクソンや中国のファーウェイ・テクノロジーズなど海外大手が大きなシェアを占めており、国内企業のシェアは非常に小さい。

そして現在、国内で携帯電話インフラ事業を手がけているのはNECと、富士通から子会社として分離された1Finityの2社である。だがそのうちの1社であるNECが、2026年1月29日の決算説明会で、基地局既存事業の終息を発表したのである。

  • NECは2025年度第3四半期決算説明会で、既存の携帯電話基地局事業の終息を決定したと発表している(出所:NEC)

    NECは2025年度第3四半期決算説明会で、既存の携帯電話基地局事業の終息を決定したと発表している(出所:NEC)

これを受けて「NECが基地局事業から撤退」という報道も見られたが、同社が基地局事業から完全に撤退する訳ではない。撤退するのはあくまで、専用のハードを用いた従来型の基地局に関連する事業であり、汎用のサーバーとソフトウェアで構築するvRAN(仮想無線アクセスネットワーク)を用いた、新しいタイプの基地局に関する事業は今後も継続するとしており、今後はそちらに集中して取り組むという。

  • NECは2026年1月23日に、5Gのサブ6向けとなるMassive MIMO対応の新しいRUを開発したと発表。世界最大のモバイル通信に関する展示会「MWC Barcelona 2026」での展示も実施するとしており、vRANと連携するRUのハードウェア開発も継続する方針のようだ(出所:NEC)

    NECは2026年1月23日に、5Gのサブ6向けとなるMassive MIMO対応の新しいRUを開発したと発表。世界最大のモバイル通信に関する展示会「MWC Barcelona 2026」での展示も実施するとしており、vRANと連携するRUのハードウェア開発も継続する方針のようだ(出所:NEC)

ただNECは既存基地局事業の終息に伴い組織を再編、ネットワークインフラ事業はANS(エアロスペース・ナショナルセキュリティ)ビジネスユニットと一体化するとしている。ANSビジネスユニットとは、NECの中で宇宙航空及び国家安全保障領域に関するICTソリューションを提供している部門だ。

NECはネットワークインフラが経済安全保障領域と位置付けられることから、ANSビジネスユニットへの統合を図るとしている。ただこれにより、従来基地局などの事業を担ってきたテレコムサービスビジネスユニットは解消となるため、携帯電話関連事業を縮小する方針であることは間違いない。

しかしながらNECは、現在主流となっている通信規格「5G」のサービス展開が本格化した2020年以降、国内だけでなく海外でも基地局事業を拡大する方針を打ち出し、「グローバル5G」事業を成長領域の1つと位置付けて力を入れてきた。それにもかかわらず、5年後には一転して縮小へと至ったのは一体なぜだろうか。

  • NECは5Gを機として携帯電話インフラ関連の事業強化を打ち出し、「MWC Barcelona」でもオープンRAN関連の展示に力を入れるなどして海外進出への姿勢を強めていた。写真は2023年のMWC Barcelonaより

    NECは5Gを機として携帯電話インフラ関連の事業強化を打ち出し、「MWC Barcelona」でもオープンRAN関連の展示に力を入れるなどして海外進出への姿勢を強めていた。写真は2023年のMWC Barcelonaより

5Gの低迷で絶好調の防衛事業に注力をシフト

直接的に影響を与えた要因として指摘されることが多いのが、NTTドコモが2023年に発生させた著しい通信品質低下と、それに伴うMassive MIMO対応無線機導入の遅れである。Massive MIMOは多数のアンテナ素子を用い、より多くの端末と同時に通信することで通信容量を増やす技術なので、アンテナ素子を多く搭載する必要がある分サイズが大きくなりやすい。

そのため自然災害が多い日本では、大型のMassive MIMO対応無線機は設置するビルのオーナーなどから設置の許可が下りづらかった。それゆえ主に国内ベンダーを活用してネットワーク整備を進めてきたNTTドコモは、各社からMassive MIMO対応基地局の調達を求めなかったと見られ、国内ベンダーのMassive MIMO対応無線機の開発も積極化しなかったと考えられる。

だがNTTドコモが大幅な通信品質低下を発生させて以降、大容量通信に強いMassive MIMO対応基地局を積極的に調達する必要に迫られた。そこで同社はいち早く対応機器を調達できる海外ベンダーの基地局を増やすことなり、その分国内ベンダーから調達する基地局の数は減少。これを受けてNECも今後基地局の販売拡大は難しいとみて、基地局関連事業を縮小する判断を下したという見方は、確かにできなくもない。

  • NTTドコモの2025年度第2四半期決算説明資料より。同社は2023年に著しく通信品質を低下させて以降、改善のためあらゆる策を打ち出しており、エリクソンやノキアなどの海外ベンダー製基地局導入も積極化している(出所:NTTドコモ)

    NTTドコモの2025年度第2四半期決算説明資料より。同社は2023年に著しく通信品質を低下させて以降、改善のためあらゆる策を打ち出しており、エリクソンやノキアなどの海外ベンダー製基地局導入も積極化している(出所:NTTドコモ)

ただより本質的な要因は、そもそも5Gがうまくいっていないことだと筆者は見る。5Gは当初期待された企業向けなどの新たな需要開拓につながっておらず、携帯電話会社も5Gのネットワークに投資する意欲が減衰している。それゆえ実はNECだけでなく、エリクソンやノキアなどの大手ベンダーも、モバイル通信関連の事業では業績的に苦戦しているのが実情だ。

そして事業規模が小さいNECの場合、5Gの不発が「オープンRAN」の低迷へとつながったことが、一層ダメージを大きくしたといえる。基地局などのインターフェースを共通仕様に統一し、より幅広いベンダーの機器を導入できるようにするオープンRANは、5Gの盛り上がりとともに注目を集め導入の機運が高まったものだ。

そしてオープンRANの広がりは、既存の大手ベンダーによる寡占を崩し中小規模のベンダーに事業拡大の機会を与えるとして、海外で存在感を発揮できていないNECもかなり力を入れて取り組んでいた。

だが5Gへの投資がしぼんだことで、世界各国の携帯電話会社のオープンRAN導入気運も大幅に低下。その結果、NECは2024年にNTTドコモと合弁で「OREX SAI」を設立、海外でのオープンRAN関連事業をNTTドコモ主導で展開することとなり、NECの関与は大きく低下している。5Gの停滞が事業拡大の機会を失い、今後の成長も見通せなくなったことが、既存事業の縮小という判断に至ったのではないだろうか。

  • オープンRANで海外市場拡大を目論んだNECだが、市場が思うように広がらず苦戦。2024年にNTTドコモと合弁で「OREX SAI」を立ち上げ、オープンRAN関連の事業はそちらで進めることとなった

    オープンRANで海外市場拡大を目論んだNECだが、市場が思うように広がらず苦戦。2024年にNTTドコモと合弁で「OREX SAI」を立ち上げ、オープンRAN関連の事業はそちらで進めることとなった

さらに言うならばもう1つ、実はNECの業績が絶好調だということも、今回の事業縮小には大きく影響しているだろう。NECはデジタル化需要の拡大で、国内を中心としたIT関連サービスの事業が好調であることに加え、日本政府の防衛予算拡大の影響を受ける形で、先に触れたANS関連事業が非常に好調なことから、2025年度の通期業績予想の上方修正を発表しているのだ。

  • NECの業績は実は絶好調で、国内ITとANS関連事業の好調により2025年度通期の業績予想を上方修正している

    NECの業績は実は絶好調で、国内ITとANS関連事業の好調により2025年度通期の業績予想を上方修正している

それだけに一層、苦戦が続く携帯電話関連事業にこだわる必要がなくなったともいえる。ANSビジネスユニットにネットワーク関連事業を統合したのも、NECが強みを持つ防衛レーダー関連で技術的に近しい部分があるため、携帯電話関連から防衛関連に人員をシフトする狙いが大きい。

もちろん、先にふれたようにNECが携帯電話基地局事業から完全に撤退した訳ではなく、将来性が見込めるvRAN関連の事業は継続することとなる。ただ同社が再び携帯電話関連事業を積極化するには、5Gで大きく落ち込んだ携帯電話市場が大きく回復することが求められるのだが、現状を見るにそのハードルが非常に高いことも、また確かである。