携帯各社の値上げが進む中、「値上げしない」宣言をして現行の料金を維持することをアピールしている楽天モバイル。そこには2025年内に契約数1000万を突破するという目標の達成が少なからず影響しているだろうが、一方で競合からは、ローミングに依存したままの楽天モバイルの姿勢に疑問の声も出ており、同社の今後のネットワーク整備戦略が大きく問われている。

1000万契約獲得に向け料金維持は不可欠だった

月額3000円台でデータ通信が使い放題の「Rakuten最強プラン」を提供している楽天モバイル。2024年に家族や年齢に応じた割引サービスを相次いで提供したことに加え、昨今のインフレにより料金の安さがよりフォーカスされ、人気を高めているようだ。

実際、楽天モバイルの契約数は2025年11月7日時点で、MVNOによるサービスを含む全契約回線数が950万に到達。同社が目標としている、2025年内の1000万契約の獲得まであと一歩という状況に迫っている。

  • 楽天グループ2025年度第3四半期決算説明会資料より。楽天モバイルの契約回線数は、MVNOによるサービスを含む全回線で950万に到達。年内の1000万契約が視野に入りつつある

    楽天グループ2025年度第3四半期決算説明会資料より。楽天モバイルの契約回線数は、MVNOによるサービスを含む全回線で950万に到達。年内の1000万契約が視野に入りつつある

その楽天モバイルがここ最近、大きな注目を集めたのは2025年9月30日のこと。その翌日となる10月1日には、映像配信の「U-NEXT」と連携した新しい料金プラン「Rakuten最強U-NEXT」を提供開始することから、そのキャンペーン施策に関する発表会が実施されたのだが、その場で楽天モバイルの代表取締役会長である三木谷浩史氏は、当面Rakuten最強プランの料金を値上げしない方針を明らかにしたのだ。

  • 2025年9月30日の説明会に登壇する楽天モバイルの三木谷氏は、「Rakuten最強プラン」の料金を値上げしないと宣言したことで大きな話題となった

    2025年9月30日の説明会に登壇する楽天モバイルの三木谷氏は、「Rakuten最強プラン」の料金を値上げしないと宣言したことで大きな話題となった

楽天モバイルはネットワークを構成する機器に、汎用の基地局とソフトウェアを用いた「完全仮想化」を実現しているほか、無線機器にもオープンな仕様を採用し、幅広いベンダーの機器を採用できる「オープンRAN」を導入することにより、低コスト化を実現。それに加えてネットワークにAI技術を採用して電力効率を高め、電気代を抑えているという。

それゆえ楽天モバイルは特定ベンダーの専用機器を用いてネットワークを整備しており、高コスト体質になりがちな競合他社と比べ低価格を維持できているとしていた。とはいうものの、完全仮想化技術やオープンRANの採用などは楽天モバイルがサービス開始当初から取り組んでいたもので、急速なインフレの影響を楽天モバイルが受けていないとは考えにくく、料金を据え置きは“我慢”が生じている状況だともいえる。

なぜそこまでして、楽天モバイルは価格を据え置く必要があったのかといえば、先にも触れた年内の1000万契約達成のためと考えられる。実際、楽天モバイルは将来の顧客獲得のための先行投資をしなければ、2025年度第3四半期時点で、EBITDA(利息や税金、減価償却費などを考慮する前の利益)ベースでは243億円の黒字を達成しているとしており、現在もなお顧客獲得のため積極的な投資をしていることが分かる。

既に多くの顧客を抱えている大手3社とは違い、新興の楽天モバイルは売上を増やすためにも契約数を増やすことが至上命題だ。それゆえ競争力を落としかねない値上げには相当慎重なのだろう。

  • 楽天グループ2025年度第3四半期決算説明会資料より。楽天モバイルは4半期ベースのEBITDAでは既に黒字化を実現しており、マーケティング費用を除いたPMCF(プレマーケティングキャッシュフロー)では243億円に達するという

    楽天グループ2025年度第3四半期決算説明会資料より。楽天モバイルは4半期ベースのEBITDAでは既に黒字化を実現しており、マーケティング費用を除いたPMCF(プレマーケティングキャッシュフロー)では243億円に達するという

2026年のローミング契約終了後が本当の勝負

ただ値上げしない宣言をした楽天モバイルに対し、競合他社からは疑問の声も挙がっている。実際、2025年11月5日に決算説明会を実施したソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、楽天モバイルの値上げしない宣言が「アンフェアだと考えている」と話している。

  • 2025年11月5日の決算説明会に登壇するソフトバンクの宮川氏。採算が低いながらも整備が必要な地方エリアをローミングで賄っている楽天モバイルが値上げしないのは「アンフェアだ」としている(出所:ソフトバンク)

    2025年11月5日の決算説明会に登壇するソフトバンクの宮川氏。採算が低いながらも整備が必要な地方エリアをローミングで賄っている楽天モバイルが値上げしないのは「アンフェアだ」としている(出所:ソフトバンク)

宮川氏の説明によると、その理由は地方でのエリア整備にあるようだ。楽天モバイルは現在、KDDIとのローミングによって主に地方の未整備エリアを賄っているのだが、それら未整備のエリアは人口が少なく、コストをかけてネットワーク機器を整備しても利用者が非常に少なく、採算が合わないことが多いという。

だがそれでも、総務省から電波の免許を割り当てられた事業者は、一部の帯域を除いて基本的には全国をくまなく整備することが求められる。にもかかわらずコストがかかる地方ネットワーク整備にあまり投資せず、他社とのローミングで賄っているのに値上げしないことをアピールするのは、フェアではないというのが宮川氏の考えのようだ。

では、楽天モバイルとローミングしているKDDIの考えはどうか。2025年11月6日に実施された決算説明会で、同社の代表取締役である松田浩路氏は、「自前のエリアを構築するまでの間、暫定的にお貸しする考え」と話し、あくまで暫定の措置である様子を示していた。

  • 2025年11月6日の決算説明会に登壇するKDDIの松田氏。楽天モバイルとのローミングに関しては、自前でエリアを整備するまでの間、暫定的に貸し出しているものと説明している(出所:KDDI)

    2025年11月6日の決算説明会に登壇するKDDIの松田氏。楽天モバイルとのローミングに関しては、自前でエリアを整備するまでの間、暫定的に貸し出しているものと説明している(出所:KDDI)

ただ、楽天モバイルとKDDIとのローミング契約は、2026年9月末をもって終了する予定であり、その後楽天モバイルが未整備のエリアに対してどのような整備方針を取るのかは分かっていない。三木谷氏もローミング契約終了後に関しては、「(KDDIとの)守秘義務がある」として明確な回答を控えている。

楽天モバイルは契約数の増加などによって赤字幅が減少しているとはいえ、現在も大きな赤字を抱えていることは間違いなく、採算性の低い地方のエリアを整備するのは厳しいだろう。2026年第4四半期のサービス開始を予定しているAST SpaceMobileの衛星回線を使ってカバーするという手も考えられるが、関係者からは衛星通信で広域を常時カバーするのは現実的ではないとの声も聞かれる。

それゆえ現実的なのは、やはりKDDIとのローミング契約を再び延長することなのだが、競合からの疑問の声が強まり、風当たりも強くなれば従来のようにはいかないことも予想される。値上げしない宣言で堅調に見える楽天モバイルだが、今後を考えると非常に不安要素が多く、2026年以降の戦略が同社の状況を大きく左右することになるのではないだろうか。