中国レノボ・グループの傘下となったFCNTは、2024年8月8日にスマートフォン機種「arrows We2」「arrows We2 Plus」の新たな販路を発表。楽天モバイルに加えオープン市場、いわゆる“SIMフリー”向けの再参入も発表しているが、その狙いはどこにあるのだろうか。

楽天モバイルに加えオープン市場にも再参入

2023年に経営破綻し、レノボ・グループが事業を承継した国内メーカーのFCNT。同社は2024年5月に新機種「arrows We2」「arrows We2 Plus」の2機種を発表し、NTTドコモやKDDIからの販売を打ち出すなどして復活をアピールしていたが、両機種の発売は8月中旬と、やや先とされていた。

そこでFCNTはその発売時期が近付いた2024年8月8日に、改めて両機種の販売戦略に関する発表会を実施。具体的な発売時期を発表しており、arrows We2 Plusは8月9日にNTTドコモから発売されるほか、arrows We2は8月16日以降、NTTドコモやKDDIの「au」「UQ mobile」ブランドから順次発売されるという。

  • レノボ傘下となり“SIMフリー”への再参入を打ち出したFCNTの狙いはどこに

    FCNTは2024年8月8日に、新機種「arrows We2」「arrows We2 Plus」の販売戦略発表会を実施。発表済みのNTTドコモとKDDIに加え、新たに2つの販路からの販売を打ち出している

そしてもう1つ、今回の発表会で同社が明らかにしたのが新たな販路であり、その1つは楽天モバイルだ。楽天モバイルが販売するのはarrows We2 Plusで、その価格は4万9900円。発売は10月とやや先になるようだが、NTTドコモのオンラインショップでの販売価格が6万2150円とされていることを考えると販売価格がかなり安く抑えられており、楽天モバイルが販売にかなり力を入れようとしている様子がうかがえる。

  • 新たな販路の1つは楽天モバイルあり、同社はarrows We2 Plusを、5万円を切る価格で販売することを明らかにしている

だがFCNTが明らかにした新たな販路はもう1つあり、それはオープン市場、いわゆる“SIMフリー”である。FCNTは富士通時代の2014年からSIMフリーモデルを継続的に投入していたのだが、2019年発売の「arrows M5」を最後に投入が途絶えていた。

だが今回、再びオープン市場に改めて参入することを発表。投入されるのはarrows We2とarrows We2 Plusの2機種となるが、SIMフリーモデルとして「arrows We2 Plus M06」「arrows We2 M07」という型番が付与されるほか、市場の特性に合わせたスペック変更もなされているという。

実際、携帯各社向けのarrows We2はストレージが64GBであるのに対し、arrows We2 M07は128GBに増量されている。一方のarrows We2 Plus M06は携帯各社向けと比べスペック変更はないものの、MVNO大手であるインターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJmio」から販売される限定モデルはRAMが8GBから12GBに増量されるという。

  • オープン市場に向けたSIMフリーモデルの販売も発表。市場的に低価格で高スペックを求める人が多いことから、2機種ともにスペックアップしたモデルも用意されるようだ

SIMフリーモデルの方がスペックを向上させているのは、オープン市場でスマートフォンを購入する人達が、低価格と高いパフォーマンスの両立を強く求める傾向が強いことを意識したが故のようだ。実際、オープン市場ではコストパフォーマンスに強みを持つ中国メーカーのシェアが高いだけに、FCNTもそうしたターゲットを狙う上でスペック向上が必要と判断したようだ。

オープン市場のパイを広げるための参入

レノボ・グループ傘下となる以前のFCNTは携帯大手、とりわけNTTドコモとの取引を重視し、オープン市場へはあまり力を入れてこなかった。だがFCNTのプロダクトビジネス本部 副部長である外谷一磨氏は、今回の2機種を当初から、オープン市場での販売を視野に入れて企画していたことを明らかにしている。

  • FCNTの外谷氏は、今回の新機種が当初からオープン市場での販売を視野に企画していたことを明らかにしている

なぜそれだけオープン市場への注力を打ち出しているのかといえば、1つに市場環境の変化が挙げられる。政府によるスマートフォン値引き規制によってメーカー側も携帯各社からの販路に依存できなくなってきており、ソニーやシャープなど他の国内メーカーだけでなく、これまで携帯大手との取引を最重要視していたサムスン電子でさえ、最近ではSIMフリーモデルを投入しオープン市場開拓に力を入れるようになってきている。

2つ目はレノボ・グループの傘下となり、企業体力の面で他社に対抗できるようになったことが挙げられる。FCNTは富士通からの独立後、スマートフォン以外に大きな事業を持たなかったことから規模が小さく、低価格が強く求められるオープン市場で中国メーカーなどと渡り合うのは困難なことからオープン市場での販売には消極的だった。だがその中国メーカーの傘下となったことで、同社がオープン市場でも渡り合える力を得たことは間違いない。

しかしながら外谷氏は、中国メーカーからシェアを奪うためにオープン市場へ再参入する訳ではないとも話している。実際、再参入に当たってIIJと議論をした際にも「今あるパイを食い合うみたいな話だけでは面白くない」という話をしたとのことで、IIJとはオープン市場全体のパイを広げることを目指すことに重点を置いてパートナーシップを組むに至ったとしている。

では、FCNTは何を目指して再参入を打ち出したのか。外谷氏はその理由として、1つに同社の「arrows」のブランドの露出を増やし、ブランドを育てる上でも販路拡大が必要なこと、2つ目としてデバイスに厳しい目を持つ顧客が多いオープン市場での評価を得て、商品力を高めていきたい考えがあるとしている。

それに加えて外谷氏は、同社が自律神経計測機能を搭載したarrows We2 Plusのように、ヘルスケア関連の機能充実を進めていることから、そうした特徴を生かして“2台目”の需要を開拓したい狙いもあると話している。1台目のスマートフォンとして選んでもらうには非常に強いブランド力と製品力が求められ、アップルやグーグルといったプラットフォーマーとの直接競争が待ち受けているだけに、そこに依存しない形での市場開拓を進めるのにオープン市場に期待している部分があるようだ。

  • オープン市場での販売はコストパフォーマンス重視の顧客に向けた製品力強化だけでなく、強みを持つヘルスケア機能などで新たな顧客を開拓し、2台目需要を獲得する狙いもあるようだ

市場が既に飽和して久しく、円安と政府の値引き規制によって“技”によるニッチでの生き残りが困難となり、ブランドと体力がものをいう競争環境となってしまった日本のスマートフォン市場。そうした環境下では、レノボ・グループの傘下となったFCNTも決して安泰とは言えないだけに、新たな販路で従来にない需要をどこまで開拓できるかが、今後同社にとって非常に重要になってくるだろう。