2023年に日本市場への進出を果たした米オルビックは、低価格・ニッチに重きを置いたラインアップで注目を集める一方、製品の発売が遅れるなどして必ずしも高い評価を得たとは言えない状況にある。だが同社は日本にスマートフォンの製造拠点を設けるなど、より日本市場にコミットしていく方針のようだ。具体的にどのような策をもって巻き返しを図ろうとしているのだろうか。
元FCNT傘下企業に生産を委託
円安と政府の端末値引き規制により、国内メーカーの撤退・経営破綻が相次ぐなど縮小が著しい日本のスマートフォン市場。そのような状況にありながらも、2023年に新規参入を打ち出したのが米国の新興スマートフォンメーカーであるオルビックだ。
同社は米国に拠点を持ち、中国だけでなくインドでもスマートフォンを製造するなど、昨今の米中摩擦を意識した事業展開をしているのが特徴の1つ。製品ラインアップにも大きな特徴があり、低価格のスマートフォンやタブレット、フィーチャーフォンにも力を入れるなど、ニッチ市場に重きを置いている。
それゆえ日本市場への参入に当たっても、低価格の4Gスマートフォンや、4Gの通信機能付きタブレットを主力に据えるなど、ニッチに重点を置きその独自性をアピールしていた。だが同社は製品投入の段階で大幅な遅れが生じた上、品質面での評価も決して高いとは言えないなど、成功を収めたとは言い難い状況にある。
それだけに2024年、オルビックが日本市場でどのような策を持って巻き返しを図るのかが注目される所なのだが、同社は2024年2月26日からスペイン・バルセロナで実施されていた「MWC Barcelona 2024」にブース出展。日本のメディアに向け今後の日本市場戦略を説明していた。
そこで明らかにされた大きな施策の1つが米国、そして日本でスマートフォンなどを製造すること。しかも日本での製造委託先は、ジャパン・イーエム・ソリューションズ(JEMS)になるという。
JEMSは元々富士通の子会社として携帯電話やスマートフォンなどの国内製造を担っていた企業。その後富士通からスピンアウトしたFCNTの傘下となりスマートフォンの生産を続けてきたが、2023年にFCNTが経営破綻したことで投資ファンドのエンデバー・ユナイテッドや、京セラらが設立した企業に事業譲渡。中国レノボ・グループに事業譲渡されたFCNTとの資本関係は既になくなっている。
なぜオルビックは日本での製造に踏み切ったのかというと、やはり製品品質が大きく影響しているようだ。先にも触れた通り、オルビックは製品の納期や品質面の問題で日本での評価を落としてしまっており、現状の体制での日本市場開拓は厳しいと判断。課題となっている製品の品質向上のためにも、品質面での実績が大きい日本企業で製造するという判断に至ったようだ。
日本で製造するとなるとコストの上昇と、価格競争力への影響が気になる所だが、同社の説明によると昨今の円安で製造コストが大幅に下がっているのに加え、JEMS側も低コストで高品質の製品を製造するノウハウを持っていたことから、価格を抑えて製造できると判断したようだ。
もっとも当初、日本で製造する端末は米国向けのものが主になるとのこと。日本市場に向けて日本製造の端末が投入されるのは、やや先となるようだ。
次の日本投入デバイスはフィーチャーフォンに
ではその間、日本市場ではどのような戦略をもって市場開拓を進めるのかというと、やはりオルビックらしくニッチに重点を置いた製品投入を進めていくようだ。実際同社は日本市場に向けて、新たに「JOURNEY Pro 4G」を早期に投入したいとの方針を明らかにしている。
これは4Gに対応したフィーチャーフォンであり、海外のフィーチャーフォンに多く採用されている「KaiOS」を搭載。音声通話だけでなく「YouTube」「Googleマップ」などが利用しやすくなっているのが特徴だ。米国などでは既に販売されているモデルだが、同社ではKaiOSを日本語に対応させて提供する予定で、MWC Barcelonaの同社ブースに展示されていた端末では日本語の表示や入力も可能だった。
国内外問わずフィーチャーフォンのニーズは根強く存在するのに加え、現在は携帯電話会社も3Gから4G・5Gへのマイグレーションを進めているタイミングでもあることから、日本でも一定のニーズが見込まれる端末であることは確かだ。ただ同社が狙っているのは、どちらかといえばコンシューマー市場よりも、音声通話専用端末のニーズが大きい法人市場ではないかと考えられる。
そのことを示しているのが本体カラーだ。JOURNEY Pro 4Gはジェットブラック、ソフトピンク、パールホワイトの3色が用意されているのだが、日本市場に向けてはそのうちジェットブラックをいち早く投入したいとしている。一般消費者に好まれるホワイトやピンクよりも、ブラックに重きを置いている様子からは、実用性重視の法人需要開拓に狙いを定めていると見ることができるのではないだろうか。
ちなみに同社は今回、5Gに対応しビデオ会議もできるオフィス向けの据え置き型電話端末「OFFICE 5G」や、やはり5Gに対応した電動バイク「5G e-Bike」なども展示。いずれも日本への投入は未定としているが、引き続き通信を活用したニッチな端末の需要開拓に重きを置いている様子が理解できるだろう。
FCNTや京セラの撤退でニッチ端末の担い手が減少する中にあって、そうした端末に強みを持つオルビックが入り込む余地は大きい。それだけに同社に問われているのは製品の納期や品質といった部分でもあるだけに、日本での製造がその解決策となり躍進につながるかどうか、今後の取り組みが大きく問われる所だ。