MVNOのサービスといえば通信量が少ないけれど非常に安い価格、というのがこれまでの常識だったが、ここ最近データ通信が使い放題、あるいは従来よりかなりの大容量通信ができることを売りにしたMVNOが増えつつある。その背景には何があるのだろうか。

mineoが昼休み以外使い放題の「マイそく」を発表

政府の料金引き下げ要請により、2021年には携帯各社が従来より大幅に安価な料金プランを相次いで提供開始して話題となったが、その影響を非常に強く受けたのがMVNOである。低価格であることを強みとしていたMVNOの領域に携帯各社が本腰を入れて開拓を始めたことで、MVNOの優位性が大幅に薄れてしまったのだ。

そうしたことからMVNOはさらなる低価格の追及を進めることとなり、実際、2021年には1~3GB程度の小容量ながら、月額1000円を切るプランがMVNO各社から相次いで投入されたが、その流れは現在も続いている。例えば日本通信は2022年1月27日に、データ通信量1GBで月額290円から利用でき、それを超えても1GB当たり220円という低価格で容量追加できる「合理的シンプル290」というプランを提供している。

  • 密かにMVNOの大容量・使い放題プランが増えている理由

    日本通信のWebサイトより。同社が提供を開始した「合理的シンプル290」は、1GBまでであれば月額290円、それ以上使った場合も1GB当たり220円追加で利用できるなど、小容量であればとても安く利用できるプランだ

だがそうした流れとは逆の動きを見せたのが、MVNO大手のオプテージが展開する「mineo」である。実際同社は2022年2月25日に発表会を実施し、2022年3月7日より提供開始予定の新しい料金プラン「マイそく」の提供を発表している。

これは通信速度はあまり高くないながらも、平日(月~金、祝日含む)の昼12時から13時以外の時間帯を除いてデータ通信が使い放題になるというもの。最大通信速度が1.5Mbpsの「スタンダード」と、3Mbpsの「プレミアム」の2つのコースが用意されており、月額料金はそれぞれ990円、2,200円となるが、いずれのコースも平日昼の12~13時の通信速度は32kbpsにまで落ちる。

  • オプテージは2022年2月25日に発表会を実施、速度に上限はあるが平日の12~13時以外のデータ通信が使い放題になる「マイそく」の提供を発表している

ただマイそくの利用者が、何らかの理由で平日昼休みに高速通信を必要とすることも考えられる。そうした場合に備えて、1回当たり330円を支払うことで、24時間データ通信が使い放題になる仕組みも用意するとのことだ。

スマートフォンによる通信の利用は平日の昼休みの時間帯が最も多いとされており、とりわけ携帯大手からネットワークを借りているため使える帯域の幅が狭いMVNOは、この時間帯は通信品質が極端に落ちやすい傾向にある。だが一方で、それ以外の時間帯はそこまでの混雑が生じないので帯域の無駄が生じている。そこで昼休み以外の時間を使い放題にすることにより、その帯域を有効活用したいというのがマイそくの狙いの1つであることは確かだ。

  • MVNOは最も混雑する昼の12~13時に合わせてネットワークの帯域を借りていることから、それ以外の時間帯の無駄を減らすことがマイそくの狙いの1つといえる

しかもmineoでは2021年6月より、通常のプランに月額385円をプラスすることで、通信速度は最大1.5Mbpsに制限されるがデータ通信が使い放題になる「パケット放題Plus」というサービスを提供している。そのパケット放題が既に約13万契約を獲得するなど好評を得たということも、マイそくの提供には大きく影響したといえる。

大容量ニーズの高まりでMVNOのビジネス機会は増えるか

ただ、MVNOが従来主力の小容量ではなく、大容量や使い放題といったニーズに応えるサービスの提供に踏み出すケースはmineoだけに限らない。

実際ソニーネットワークコミュニケーションズの「NUROモバイル」が2021年11月より提供している「NEOプラン」は、月額2,699円と高めの料金ながら通信量が20GBと大容量であるのに加え、「LINE」「Twitter」「Instagram」の利用時は一部を除いてデータ通信量を消費しない「NEOデータフリー」の仕組みを備える。加えて2022年1月にはアップロード時の通信量が無制限になる「あげ放題」も追加、かなり限定的ではあるが使い放題を実現したプランにもなっている。

  • NUROモバイルの「NEOプラン」は20GBの通信量が利用でき、LINEなどの通信量をカウントしない仕組みや、アップロードが無制限になる仕組みなどを備えている

また2021年7月にはビッグローブが「donedone」という新ブランドによるサービスを開始しているが、こちらの主力プラン「ベーシックUプラン」「カスタムUプラン」は、共に月額2,728円で通信量が50GBと大容量。ただし前者は最大通信速度が3Mbps、後者は「YouTube」「Spotify」など対象10アプリの中から選択した3つは通信速度の制限がなく、それ以外のアプリ利用時の通信速度は1Mbpsに制限されるという仕組みだ。

  • ビッグローブの「donedone」の主力プラン「ベーシックUプラン」「カスタムUプラン」は、通信速度に制限はあるが共に月当たり50GBの通信量が利用可能だ

そしてもう1つ注目されるのが、フリービット系のドリーム・トレイン・インターネットが提供する「トーンモバイル」の動向である。トーンモバイルは2021年12月より、NTTドコモと連携する「エコノミーMVNO」となり、「トーンモバイル for docomo」の新料金プラン「TONE for iPhone」を提供。ドコモショップでトーンモバイルのサービスが契約できるようになったのだが、その影響でユーザー層に変化が出てきているという。

TONE for iPhoneは子供の見守りに力を入れたサービスであることから、その利用者は見守り対象となる10代の学生が多いとトーンモバイルは見込んでいたが、ドコモショップでの取り扱いが始まったことにより、30~50代の現役世代の利用が増えたというのだ。トーンモバイルのサービスは元々、月額1,100円で動画以外のデータ通信が使い放題という特徴を備えているのだが、ドコモショップでその特徴が一般層に知れ渡ったことで利用が増えたというのだ。

  • トーンモバイルはドコモショップでの販売開始でターゲットとしていた10代だけでなく、低価格で動画以外使い放題であることを目当てに利用する人が増えているとのこと

こうした傾向を見れば、MVNOが低価格・小容量の領域だけでなく、携帯大手より低価格ながらも大容量・使い放題というニーズを捉え始めている様子を見て取ることができるだろう。なぜこのような傾向が出てきているのかといえば、大容量通信ニーズが高まっているからこそだろう。

最近ではモバイルで動画視聴することが一般的になってきており、従来以上に大容量通信をしたいというニーズは確実に高まっている。より高速な5Gが本格的に普及すればそうしたニーズは一層高まると考えられるが、そうなれば低価格であっても、小容量のプランでは容量が足りないという人が増えてくるだろう。

だが携帯大手が提供する使い放題プランは高額になってしまう。それだけに、何らかの制限があっても低価格でより大容量、あるいは使い放題のサービスを利用したいというニーズは今後増えると考えられ、そうしたニーズを先んじて埋めるべくいくつかのMVNOが先んじて動きつつあるというのが現状ではないだろうか。

携帯各社の攻勢によって非常に厳しい状況に追い込まれているMVNOだが、ユーザー嗜好の変化による新たな領域の開拓が、今後MVNOの新たな生き残り策となるのかどうか注目される所だ。