見込み顧客の獲得(リードジェネレーション)にはさまざまな手法がありますが、大きく分ければネットを経由するか直接会っているか、つまり「オンライン」と「オフライン」の2つだけです。MAを実践する最初の段階では、それぞれから得られたリード情報を、いかに正確にMAツールで管理するか(トラッキング可能にするか)が重要になります。

オンラインでの獲得手法として代表的なのは、問い合わせや資料請求のための情報を入力してもらうフォームです。フォームはMAツールの必須機能で、自社サイトに必ず設置します。MAツールで作成したフォームに名前や会社名、メールアドレスなどを入力すると、自動的にリードとして登録されます。

個人を特定する前から「アノニマスリード」として追跡

実は、MAツールによるトラッキングはリード情報の登録の有無に関係なく、トラッキングタグを挿入したWebサイトに誰かがアクセスした時点から始まっています。ただし、その時点では閲覧したぺージと日時、IPアドレスがわかる程度で、個人を特定する情報はわかりません。こうした未特定のリードは「アノニマスリード」と呼びます。アノニマス(Anonymous)は「匿名の」という意味です。

アノニマスリードの行動は継続的に記録されますが、そのままでは名前もメールアドレスも不明です。しかし、そのリードがフォームに情報を入力・送信した瞬間に、今度は「特定済みのリード」になります。すると、アノニマスであった過去の行動が、特定の誰かのリードのものとして記録されるようになります。過去の行動履歴を見れば、リードが以前から自社に興味を持っていたかどうかも辿れるようになるわけです。

名刺交換する前から付き合いが始まるのがMAの醍醐味

オフラインで獲得したリード、つまりMAツールに登録した時点で特定済みのリードであっても、過去に自社サイトを閲覧していたかどうかを把握できます。

アノニマスリードが使っているブラウザには、自社サイトを閲覧したことを示すCookieが記録されています。特定済みのリードに対してMAツールからメールを送信し、そのメール内のリンクをクリックして自社サイトにアクセスすると、Cookieによって二者が同一人物として統合されます。これにより、アノニマスであった時期の行動でも、特定済みのリードの過去の行動まで遡って知ることができます。

従来の営業プロセスでは、名刺を交換するなどしてお互いに名前を知ってから付き合いが始まるのが普通でした。MAを導入すると、名前を知る前から実は付き合いが始まっていたことがわかるのが面白い点です。

フォームでのリード獲得のための設定方法

以下にマルケト上でのフォーム作成方法を説明します。

新規プログラムから、

新規ローカルアセットの「フォーム」を選択します。

任意のフォームの名を決めて「作成」を押します。

BtoBの場合、展示会やセミナーオフラインによるリード獲得の典型例です。そうした機会に得た名刺やアンケート情報をもとに、MAツールへリード情報を登録していきます。リード数が多くないうちは、管理画面から手入力で登録します。

画面上部のプラスマークから、Marketoのデータ項目(保存先)へ結びつけるフィールドを選択して挿入します。

「次へ」を押すとフォームの設定画面でフォントやフィールドのデザインなどが選択できるので実際埋め込むページへ違和感の無いようデザインをできるだけ近づけてみましょう。

プログレッシブプロファイリング

リードからたくさんの情報を取得したくても、項目が多すぎるフォームは離脱を招きます。その解決策となるのが「プログレッシブプロファイリング」です。 ひと昔前まで、パソコンの1画面に収まらないほど長大なフォームが設置されている企業サイトをよく見かけました。「こんなことまで聞くの?」という項目まであり、入力の面倒さに辟易したものです。

そうしたフォームは離脱率(途中で入力を放棄する確率)が著しく高くなるため、最近では見かけなくなりました。ただ、離脱を抑えながらもなるベく多くの情報を得たいというのは、マーケターなら誰しも共感することだと思います。

そこで近年注目を集めているのが「プログレッシブプロファイリング」です。プログレッシブは「漸次的」、プロファイリングは「情報の取得」の意味で、リード情報を少しずつ、段階的に取得していく手法を指します。

プログレッシブプロファイリングを利用すると、最初は少ない項目数のフォームでも、徐々に項目数を増やしていくことが可能になります。また、ブラウザのCookieに基づき、すでに送信されたことのある項目は非表示することもできます。

例えば、総合的な問い合わせフォームを設置し、1回目は「姓」「名」「会社名」「メールアドレス」といった最低限の項目を送信してもらいます。リードの行動から自社に興味があるようであれば、「セミナー情報を送信するので再度フォームを送信してほしい」とメールを送り、同じフォームに誘導します。リードが2回目にアクセスすると「姓」「名」「会社名」の項目はなく、代わりに「部署」「役職」が増えています。入力の負担を少なくして離脱を抑えながらも、新しいリード情報の取得が期待できるというわけです。

上記プログレッシブプロファイリングの枠の中にフィールドを入れると、2回目以降に聞き出したい、リードの更に深い情報を抽出することができます。

展示会や営業活動での名刺情報も全てリードとして登録

名刺やアンケートなど、オフラインで取得したリード情報が引き出しの中にたくさんある、という人も多いでしょう。それらの情報がまだデジタル化されずに残っているなら、件数にもよりますが、MAツールに手動で入力していくのが有効活用の近道となります。 Marketoでの登録手順は下にあるとおりです。会社名は一度入力すれば、同じ会社の人は選択するだけで済みます。なお、手動登録の場合は割り切って、名前(姓・名)とメールアドレスだけを入力するのも手です。後日メールを送信して資料請求フォームなどに誘導すれば、自社に興味のあるリードは、自ら会社名や部署名を入力してくれます。まずは営業対象となる全リードの名前とアドレスが、MAツールに登録されている状態を目指しましょう。

リード情報を手動で登録する

データ管理はMarketo上で「データベース」をクリックします。

データベースの中の、「新規顧客」をクリック。

こちらに名刺情報を入力します。

たったこれだけで、リード情報がマルケト上に記録されます。

更に詳細な情報を入力する必要があれば、リード情報をクリックすれば詳細画面に遷移するため編集可能となります。

外部データとの連携

現在のマルケトユーザーのほとんどが、Salesforce等に代表されるCRMデータと同期させています。MAはCRMとの組み合わせで圧倒的な価値を産みます。

MAとSFA/CRMとの併用をこれから始める場合、筆者はMarketoとSalesforceの組み合わせを強くおすすめします。それぞれの分野を代表するツールですし、両者を連携したときの親和性は高く、機能面も信頼性も十分です。

MarketoとSalesforceを連携するには、Marketoの「フィールドマッピング」という機能を使います。双方のデータベースの項目を結び付ける設定作業になります。フィールドを関連付けておくと、Marketo上のリードとSalesforce上の取引先(顧客)情報の間でデータ同期が行われるようになります。また、連携後はSalesforceの取引先画面に「Marketo Sales Insight」という参照情報機能を追加できます。その取引先(リード)に関して、Marketoが管理している自社サイト上の行動履歴、スコア、メール開封状況などをダイレクトに参照でき、Salesforceが管理する案件や商談の進捗と1画面上で統合的に把握することができるようになります。

なお、実際の連携作業については、マーケター1人の手に負えるものではありません。MarketoやSalesforceの営業・サホ?ート担当者、および自社のシステム管理者と相談のうえで進めます。

連携設定が実現すると、MA上これまで「商談化する前のリード」を主に扱ってきた状態から、「既存顧客」までもがナーチャリング育成の対象になります。これは砂利の中からダイヤの原石を見つけるという視点だけでなく、手元にあるダイヤを再度磨きなおすといった、継続的なナーチャリングが可能になったということです。顧客が生涯を通じて自社にもたらす利益(価値)のことを「LTV」(顧客生涯価値。Life Time Valueの略)と呼びます。競争が激化した市場では新規顧客の獲得は難しくなり、既存顧客のLTV高める必要性が求められています。MAとSFA/CRMの連携は、LTVの最大化を図るうえで強力な武器になるでしょう。筆者が経営するクレストでも、実際にMarketoとSalesforceを連携させ、新規獲得だけでなく既存顧客へのナーチャリング・満足度向上にに力を注いでいます。すでに成熟し、イノヘ?ーションも起こりにくいサイン&ディスプレイ業界で成長を達成できたのは、まさにMAとSFA/CRMによるものだと考えています。

著者プロフィール

永井俊輔

1986年、群馬県生まれ。2009年に早稲田大学を卒業後、株式会社ジャフコに入社。M&Aやバイアウトに携わった後、株式会社クレストへ入社。2016年より代表取締役社長に就任。入社後、CRMやMAを活用して4年間で売上を2倍に拡大させ、クレストをサイン&ディスプレイ業界の最大手に成長させた。その一方、起業家として成熟産業にITを組み合わせて新たな価値を生み出し、生涯に100の企業を立ち上げることを目標としている。「デジタルマーケティング格差がゼロの世界を作りたい」という思いから、2015年10月にグリードナーチャリング株式会社を創業。2017年には初の書籍となる「できる100の新法則実践マーケティングオートメーション