賃貸物件などでは、室内で石油ストーブやガスストーブを使用できないケースが少なくない。そういった場合、冬の暖房は、基本的に電気を使用することになる。電気暖房で部屋全体を暖めようとした場合、最も適しているのはエアコンだ。ただし、エアコンの暖房にも問題点はある。エアコンで暖房を行う際に気になるのが、暖かくなるまでの時間だろう。今回は暖かくなるまでの時間にスポットを当てたい。

余熱の利用でエアコンが暖かくなるまでの時間を短くする各社の工夫

エアコンに使用されている冷媒は圧縮すると液体となり、圧縮していない状態では気体になる物質だ。気体となっている冷媒が液体に戻る際に熱を出し、逆に液体から気体に変わる際には周囲の熱を吸収するというのがエアコンの基本原理だ。

室外機のコンプレッサーで圧縮され液体となった冷媒は、室内機に届き熱交換器の中を通る。暖められた熱交換器に室内機が風を当てると、温風となる。一方、室外機側では液体の冷媒が気体に変わり、その際に周囲の熱を奪う。さらにその冷媒を圧縮してふたたび室内機に送る。これがエアコン暖房のサイクルだ。つまり、圧縮されて液体になった冷媒が室内機に届き、室内機の熱交換器が十分に温まってからでないと温風は出てこない。

起床時に限れば、リモコンでエアコンをオンにして、部屋が暖かくなるまで布団から出ないという選択肢もある。だが、二度寝してしまうおそれがあるのが難点だ。そんなわけでかどうかは知らないが、最新モデルでは、この暖かくなるまでの時間の短縮についても工夫が凝らされている。

東芝のルームエアコン「SDRシリーズ」や「GDRシリーズ」では、ヒートポンプの余熱を行う「ダッシュ運転」によって、約1分で温風を出すことができる。

「ダッシュ運転」によって、約1分で暖房運転をスタートできる、東芝のルームエアコン「SDRシリーズ」

日立のルームエアコン「Xシリーズ」「Zシリーズ」も余熱によって短時間で暖房を開始する「すぐ暖房」機能を装備している。時間を指定しておくと、その30分~1時間程度前から余熱を開始。エアコンのスイッチを入れると、約30秒で暖房を開始できる。

約30秒で暖房をスタートできる「すぐ暖房」を備えた、日立のルームエアコン「Xシリーズ」

ダイキンのルームエアコン「Rシリーズ」「Aシリーズ」も「翌朝暖房」機能を装備。起床時間をセットすると、その前に余熱運転を行い、約1分で暖房をスタートする。

温風の循環で"即暖"を実現する三菱電機

しかし、余熱によって暖房スタートまでの時間を短縮させるモデルでは、暖房をスタートする時間をセットする必要があり、いつでも"即暖"というわけにはいかない。ある程度時間が固定されている起床時には使えるが、必ずしも時間が一定ではない外出先からの帰宅時には使いにくい。帰宅時にすぐ暖まりたいという場合には、これとは異なったアプローチの製品、例えば屋外からスマートフォンなどでコントロール可能なスマート家電のエアコンといった製品が必要になるだろう。また、余熱機能で"即暖"を実現している製品では、余熱時に約260W~350Wの電力を消費することにも留意しておく必要があるだろう。

余熱以外の方法で"即暖"を実現しているのが三菱電機だ。三菱電機のルームエアコン「霧ケ峰」のフラッグシップモデルである「Zシリーズ」は、「急速Wヒート」機能を備えている。急速Wヒート機能は、暖房運転開始時に温風を室内機の中に再循環させることで室内機の内部を温め、短時間で温風を出せるようにする機能だ。

三菱電機のルームエアコン「霧ケ峰 Zシリーズ」

このような最新モデルのエアコンを使用していない場合、温風が出てくるまでの数分間、カーボンヒーターなどの即暖性に優れた暖房器具を併用するのが効果的だ。エアコンは起動時にフルパワーで動作しており、それに加えてカーボンヒーターの分の電力を消費することになるが、カーボンヒーターは比較的消費電力の少ないモデルが入手しやすく、300W程度の製品も出回っている。これならば、あまり影響はなさそうだ。

また、同じく即暖性に優れたセラミックファンヒーターを使用して部屋をある程度温めておいて、それからエアコンに切り替えるというのも有効だ。セラミックファンヒーターは消費電力1,200Wといったハイパワーな製品が多い。これをメインの暖房器具として使用し続けるというのは消費電力的にどうかと思うが、時間を限定してスポット暖房として使用するのならば効果的だろう。

パナソニックのセラミックファンヒーター「DS-F1204」