以前のコラムで、AC扇風機とDC扇風機の違いについて取り上げたが、DC扇風機を実際に使用するとAC扇風機とどういった差があるのか、レポートしてみたい。とういうわけで、DC扇風機のなかでもハイグレードモデルとなる東芝ホームアプライアンスの「SIENT+ F-DLR300X」をお借りしてみた。

「SIENT+ F-DLR300X」の概要

東芝ホームアプライアンスのDC扇風機「SIENT+ F-DLR300X」

「SIENT」シリーズは、 今回取り上げるSIENT+ F-DLR300Xを筆頭に、SIENT 200の「F-DLR200X」、SIENT 100の「F-DLR100」から構成されている。いずれもDCモーターを使用しており、本体の高さが810~1,100mmというリビング扇のなかでもいわゆる「ハイポジション扇」と呼ばれるカテゴリーの製品だ。

DCモーターを採用している以外の点で、シリーズに共通している特徴は、左右だけでなく上下方向へも首を振る「立体首振」機能、上高地の自然の風のリズムを再現する「リズム風」機能、自然な風を実現する7枚羽根の採用といったところだ。上位機種のSIENT 200では、これに加えて温度と湿度のデュアルセンサーによる自動運転機能、ピコイオン発生機能が搭載される。最上位機種のSIENT+では、バッテリー搭載によるピークシフト運転機能が搭載される。

左下の写真がSIENT+の台座部分だ。タッチ式のコントローラーが搭載されており、すべての機能をここから操作することができる。サークル状になっている部分は風量調整だ。SIENT+に付属するリモコンは下の写真右のようになっており、ピコイオン発生、ピークシフト以外の機能は、リモコンからでも操作することができる。

SIENT+の台座部分(左)とリモコン(右)

3モデルの価格には大きな開きがあり、SIENT 100は20,000円以下で販売されていることが多いようだが、SIENT+になると40,000円前後の価格で販売されていることが多いようだ。筆者宅の近所の量販店では、7月13日時点で店頭特価として44,000円というプライスがつけられていた。東芝ホームアプライアンスによると、より台数が出ているのはやはりSIENT 100とのことだ。快適性に関しては上位モデルと変わらず、割安感があるためだろう。

DC扇風機にすると、実用域での消費電力がこれだけ下がる

AC扇風機とDC扇風機とを、その消費電力で比較した場合、最大値ではそこまで極端な開きはない。例えば、SIENT 100の最大消費電力は19Wで、東芝ホームアプライアンスが発売しているAC扇風機「F-LR8」の最大消費電力は50Hz地域で35W、60Hz地域で37Wだ。ACモーターを使用したリビング扇の多くは最大消費電力が40W前後で、SIENT 100の2倍程度といったところだ。

しかし、扇風機を最大風力で使用するという機会はそれほど多いわけではないだろう。そこまで暑ければさすがにエアコンを使用する。筆者が使用しているAC扇風機の場合、風力は弱/中/強の3段階なのだが、日常的に使用しているのは「弱」か「中」だ。

そういった風量での消費電力にはどのくらいの差があるのか、比較してみた。比較方法はシンプルなものだ。AC扇風機は風量の調節が3段階しかないのだが、DC扇風機では細かな風量調整が可能だ。今回お借りしたSIENT+では7段階の風量調整を行うことができる。AC扇風機から1m離れたところに風量計を置き、「中」の時の風量を測定。SIENT+に置き換えて、同じ風力になるポジションを探し、その時点での消費電力を測定するというものだ。

この位置で、AC扇風機の「中」と同じ風量になった

その結果、AC扇風機での消費電力は34W。それに対してSIENT+での消費電力は僅か6Wだった。AC扇風機では風量を下げてもそこまで消費電力は下がらないのだが、DC扇風機ではダイレクトに消費電力が下がる。最大値では消費電力の開きは2倍程度しかなかったのだが、実用域では、実に5倍以上といった大きな開きがあった。

なお、SIENT+での定格での最小消費電力は2.3W、最大消費電力は29Wとなっている。最大消費電力には、内蔵されているバッテリーを充電するための9Wが含まれているため、扇風機として動作させた場合の最大消費電力は20W程度ということになる。

筆者の手元にある測定器の精度はそれほど期待できないのだが、最小値は2W、充電をオフにした状態での最大値は18Wだった。また、AC扇風機の「中」と同じ風量になるポジションで左右と上下の首振り機能を使用した場合、7Wとなっていた。AC扇風機では首振り機能をオンにしても消費電力に変化はなく34Wのままだった。

立体首振り機能の実際

SIENT+の首振り機能について紹介しておきたい。SIENTシリーズでは、全機種が立体首振り機能を装備している。左右の首振りは3段階の角度で振り幅を調整できる。上下の首振りはオンとオフのみだ。上下の首振りは、極端に上を向くというわけではない。あくまでも部屋全体の空気を循環させるための機能のようだ。

動画
SIENT+の首振り機能の動画(再生時間約49秒、ファイルサイズ15.5MB)

7枚羽根のメリットとSIENTの独自機能「上高地のリズム風」

扇風機は羽根によって風を起こしているため、その枚数や形状によって、風の質が変化するといわれている。低価格なAC扇風機では3枚羽が一般的だが、やはり自然の風に比べてムラがあり断続的に感じられる。ただし、これは距離と風量にもよるようで、距離が離れればあまり断続的には感じないし、また風量が強いほど断続的に感じやすいようだ。7枚羽根を持つSIENT+ではどうかというと、3枚羽根のAC扇風機に比べると、圧倒的にスムーズだ。これでもムラがあると感じる方もいるのかもしれないが、筆者には判別できるレベルではない。

さて、メーカーによっては、連続した風だけではなく、一定のリズムで風に強弱をつけて運転するモードを備えている扇風機をリリースしている。「SIENT」シリーズのリズム風機能もその一つだ。筆者の持っている扇風機のうち1台はシャープ製で、これは「1/fリズム」という、やはり風に強弱をつける機能を備えている。この2つを比べてみると、1/fリズムのほうは、大体10秒ほどの周期で強弱が繰り返されている。それに対して「SIENT」シリーズのリズム風機能は、1サイクル約120秒の強弱パターンを採用している。両方を使用してみると、例えば、風が強い時間、弱い時間が「SIENT」シリーズのリズム風機能のほうが長く、より自然の風に近く感じられる。また、i/fリズムでは、風の強さは最大3段階でしか変化しないが、「SIENT」シリーズのリズム風機能では、より細かな強弱のコントロールが行われているようだ。

ハイグレードでなくても高機能なDC扇風機は?

DCモーターを採用した扇風機でよく言われるのが、ACモーターを採用した扇風機に比べて消費電力は少ないという点だ。今回の結果でも、特に実用域での消費電力の差は大きい。しかし、もともと扇風機はそれほど電気を大食いする機器というわけではない。先ほどの例を元にちょっと計算してみよう。

東京電力での1kWhあたりの電気料金は、従量契約Bの場合、第1段階が18円89銭、第2段階が25円19銭、第3段階が29円10銭となっている。消費電力34WのAC扇風機を1日に8時間動かすと、消費電力量は0.272kWh。1ヶ月30日間で計算すると、8.16kWhということになる。料金が一番高い第3段階で計算すると約237円ということになる。それに対して、同じ風量で首振り機能も使用したSIENT+の場合、消費電力は7Wだったので、1日に8時間稼働させた場合の消費電力量は0.056kWh。1ヶ月30日間で計算した場合、1.68kWhということにになる。第3段階で計算した電気料金は約49円だ。この計算だと1月の電気代の差は188円で、ACモーターを使用している扇風機との価格差を電気代だけで元を取るのは難しそうだ。

しかし、7枚羽根とSIENTのリズム風の組み合わせは快適だ。扇風機のメインの目的は「涼む」ということなのだが、部屋のなかに心地のよい風の流れを作るという目的で使用しても満足できるものだといえるだろう。

現在使用している扇風機から、省エネ目的で買い替えというのには無理があるが、使用している扇風機が古くなったので買い換えるという場合や、買い足す場合というには、快適さのために、こういった高機能なDC扇風機を選択するというのもよいかもしれない。