Vista登場後に進むPC買い替えを機にした自作
今年1月に登場したWindows Vista。Windows XPから要求スペックが大幅に引き上げられたWindows Vistaを機に、PCの買い替えを実施した人も多いだろう。そして、これから新しいPCの購入を検討している人もいると思う。この新PCの選択肢として提案したいのが、自作PCだ。
自作PCの魅力は、何といっても自分の好み・ニーズに合ったPCを作り上げられる点である。とくに、2台め、3台めと台数を重ね、PCに対するリテラシーを深めているユーザーは、ある程度、PCに対して求めるものが明確になっていると思う。いざPCを購入しようとしたときに、そのニーズへピンポイントに注力できるのが自作の良さなのである。
このほか、PCを作り上げる達成感や、作ったPCへの愛着などの趣味的な楽しさも自作PCの魅力だ。PCを使って何かをするのではなく、PC自体を楽しむと言い換えることもできるだろうか。
この連載では、デスクトップ型のPCを自作するうえで必要最低限の知識やテクニック、そして自作したPCの簡単なカスタマイズ方法などを、数回に渡って紹介していきたい。まずは、PCを作るために必要なパーツを紹介しよう。
CPU
プログラムの実行やあらゆる演算処理を行うPCの頭脳ともいえる存在がCPUである。それだけに、PCの性能にも大きく影響するパーツである。大局的に見ると、ハイエンド、メインストリーム、バリューの三つのセグメントに分けられ、価格が高いほど性能が高いという図式になる。ただ、コスト性能比という観点でいうと、例えば10万円前後のハイエンドCPUが、5万円前後のメインストリームCPUの倍の性能となるか、というとそうでもなく、ハイエンドCPUに関しては、その性能を求める人のみのプレミアム価格が付けられている。このクラスの製品を求めるのはコストを度外視する場合に限り、一般的には性能を求めるならメインストリーム、価格を抑えたいならばバリュー製品という選択でいいだろう。
このほか、現在のCPUはデュアルコアがトレンドであることも押さえておきたいポイントだ。コアとは、CPUの核となる演算器などを持つ部分のことで、これを二つ持つことで一つのCPUで2個分のポテンシャルを持つのがデュアルコアの特徴である。さらには、ハイエンド向けを中心にコアを4個持つクアッドコアCPUも登場している。
さて、現在、PC向けCPUをリリースしているメーカーでメジャーな存在がインテルとAMDである。インテルの主力製品は昨年登場したCore 2シリーズで、性能・消費電力・価格のバランスの良さで定評を得ている。これに加えて価格を抑えた製品として、Pentium Dual CoreやCeleronなどが用意されている。インテル製品をセグメントごとに分けると、
- ハイエンド : Core 2 Extreme
- メインストリーム : Core 2 Quad/Duo
- バリュー : Pentium Dual Core、Celeron
といったラインナップになる。Core 2 ExtremeとCore 2 Quadがクアッドコア、Core 2 DuoとPentium Dual Coreがデュアルコア、Celeronがシングルコアとなっている。
一方のAMDは、Athlon 64 X2シリーズが主力製品である。同社は現時点でデスクトップPC向けにクアッドコアCPUをリリースしていないが、デュアルコアCPUを二つ使って4コアの環境を構築するQuad FXというプラットフォームを提唱。これをハイエンド向け製品としてラインナップしている。逆にバリュークラスにはAthlon X2(デュアルコア)やSempron(シングルコア)をリリース。大別すると、
- ハイエンド : Athlon 64 FX(Quad FX)
- メインストリーム : Athlon 64 X2
- バリュー : Athlon X2、Sempron
となる。AMD製品の面白いところは、Athlon 64 X2やAthlon X2に低消費電力をラインナップしている点だ。CPUはPCのなかでも電力消費量がわりと多いパーツである。この電力を抑えることがPCそのものの消費電力に大きく影響するため、こうしたニーズを持っている人は検討に値する。ちなみに、年末から来年にかけてはAthlon 64 FXやAthlon 64 X2ブランドから、Phenomという新ブランドが立ち上がることになっている。
[コラム]CPUクーラー
CPUは使用中の発熱が大きい部位で、熱を持ちすぎると半導体が正しく動作しなくなり、熱暴走と呼ばれる状態を引き起こしてしまう。そのために用意しなければならないのが、CPUを冷やすCPUクーラーである。CPUクーラーは原則としてCPUメーカーが発売するCPUパッケージ内に同梱されており、必ずしも自分で用意しなければならないわけではない。ただ、パッケージ内にCPUクーラーが含まれないCPUもあり、その場合は別途購入する必要がある。また、純正パッケージに付属するクーラーに騒音面や冷却能力で不満を感じる人もおり、その場合は別途購入して取り換えることになるわけだが、こうした話は後の回で紹介することにしたい。
マザーボード
マザーボードはPCを構成するパーツの土台となるパーツで、CPUなどのあらゆるPCパーツはマザーボードに搭載・接続することになる。各パーツの制御や電気信号の受け渡しを行うチップセットと呼ばれるパーツを中心に、CPUやメモリ、拡張カードなどを搭載・接続する物理的なスロットなどで構成されている。簡単にいえば各パーツの橋渡しを行うわけであるが、それだけに自作するPCで利用できるパーツはマザーボードによって制限され、PCの性格を大きく左右するパーツともいえる。
例えば、使用できるCPUは、チップセットとマザーボードによって制限される。チップセット側の電気的な仕様、マザーボード上のスロットという物理的な仕様、マザーボード上のBIOS(マザーボードの各種入出力制御を行うシステム)による対応可否、といった理由はあるが、とくにインテル向け、AMD向けではスロットの形状そのものが異なるため、装着することすらできない。同様に、後述するメモリについても、現在主流のDDR2 SDRAMと、これからの普及が期待されるDDR3 SDRAMではスロットの形状が異なっているため、装着することができないようになっている。
また、ビデオカードやテレビキャプチャーカードを装着するなどの用途に利用されるPCI Express、PCIといったスロット類も、マザーボードによって数が異なっており、これもマザーボードによって拡張性に差が生まれることになる。
このほか、マザーボード上には、サウンド機能やネットワーク機能などが搭載されているのが一般化している。以前は、サウンドカードやLANカードなどを別途購入してPCIスロットなどに装着するのが当たり前であったが、現在では、このマザーボード上の機能で必要十分であり、特定の目的がない場合は追加で購入する必要はなくなっている。
なお、マザーボードの選び方については、別の回で改めて重点的に紹介する予定だ。
メモリを装着するためのスロットも規格によって違いがあり、これはDDR2 SDRAMの240ピンDIMMを装着するためのスロット |
こちらは、DDR3 SDRAMを装着するためのスロットで、同じく240ピンDIMM用であるが切り欠きの位置がDDR2 SDRAMとは異なっている |
メモリ
メモリはいわゆるメインメモリのことで、日本語では主記憶と表現されるとおり、プログラムやデータなどを記憶する領域のことである。記憶とはいってもPCの電源を切れると消えてしまう領域ではあるが、CPUで処理されるすべてのプログラムやデータは一度、このメモリ上に記憶されることになる。
すべてのプログラムやデータが読み書きされるということは、この速度が遅くてはPCの性能に足かせになる可能性もあるし、利用するプログラムやデータが大きくなればメモリ容量が不足する可能性がある。とくに、今年登場したWindows Vistaは、OSだけで非常に多くのメモリを必要とするようになった。快適な動作環境を得るためには最低で1GBは必要で、複数のプログラムを同時起動するのであれば容量は多いに越したことはないほどである。
このメモリは、インテル製CPU、AMD製CPUともに、現在はDDR2 SDRAM規格が主流になっており、デスクトップPCではDDR2 SDRAMの240ピンDIMMと呼ばれる規格のメモリモジュールが利用される。また、メモリ規格は速度によっても分かれるが、DDR2 SDRAMの規格上、もっとも高速なDDR2-800/PC2-6400が主流である。
さらに、インテル製CPUを利用するためのチップセットであるIntel 3シリーズチップセットでは、DDR3 SDRAMもサポートされている。DDR2とDDR3には互換性がないうえ、DDR3 SDRAMは現時点では高価であるため利用者はそれほど多くないようだが、より高速に動作するメモリとして、今後の普及が期待されている。
なお、メモリを制御する回路(メモリコントローラ)はインテル製CPUはチップセット、AMD製CPUはCPU内部に実装しているが、いずれもデュアルチャネルメモリインタフェースと呼ばれる仕組みを持つ。これは、メモリモジュール2枚に同時アクセスすることで速度を向上させる技術である。そのため、同じスペックのメモリを2枚一組で利用するのが原則となる。
[コラム]バルク品
メモリやHDD、光学ドライブといった一部のパーツは、バルク品という販売形態が存在する。これは、OEM向けに出荷されたものなどをメーカー保証なしで販売しているもので、価格が抑えられているのが特徴だ。通常、販売店(ショップ)による1週間程度の初期不良保証は行われる。とにかく動作する製品が手に入るのであれば後の保証にはこだわらないユーザーにとってお買い得感が高い。
一方、製造メーカーや販売代理店がパッケージに入れて販売するものはパッケージ製品と呼ばれるが、これはメーカーによる保証が付いており安心感を得られる代わりに若干高価になっている。
ビデオカード
ビデオカードは映像を作り出し、それをディスプレイに出力するためのパーツである。ビデオカードもハイエンドからメインストリーム、バリューに至る、CPUとよく似たクラス分けがなされており、性能が高ければ価格も高い。ビデオカードにおける性能の違いとは、3Dグラフィックスの描画速度の違いである。
Windows XPまでは3Dゲームなどを利用しない限り、3Dグラフィックスを表示する機会はほとんど皆無ともいえたわけだが、Windows Vistaにおいてはデスクトップ画面を含めてすべて3Dグラフィックスの技術を用いて表示が行われる。そのため、ビデオカードにある程度の性能がないと、通常利用においても満足な性能が出ないということも起こり得るようになっている。とはいえ、最新世代のビデオカードであれば、バリュークラスのビデオカードであっても通常アプリケーションの利用で極端な差を感じることはないだろう。
現在、ビデオカードの二大メーカーとなっているのが、NVIDIAとAMDである。両社の最新世代のビデオカードは、
NVIDIA
- ハイエンド : GeForce 8800シリーズ
- メインストリーム : GeForce 8600/8500シリーズ
- バリュー : GeForce 8400シリーズ
AMD
- ハイエンド : ATI Radeon HD 2900シリーズ
- メインストリーム : ATI Radeon HD 2600シリーズ
- バリュー : ATI Radeon HD 2400シリーズ
となっている。いずれも、Windows Vistaに実装されているDirect X10をサポートするビデオカードとなっている。
また、ビデオカードにおいては、Blu-Ray DiscやHD DVDの映像再生支援という新しい潮流も生まれている。NVIDIAのGeForce 8600/8500/8400シリーズに実装されたVideo Proccessor 2、ATI Radeon HD 2600/2400シリーズに実装されているUniversal Video Decoderといった機能が、これに該当する。この機能を利用して映像再生処理をビデオカード側で行うことでCPU負荷を減らすことができるようになる。非力なCPUでもスムーズなHD映像再生を実現するだけでなく、映像を見ながら別の作業をするといったPCらしい利用形態を現実的にする機能といえるだろう。
ちなみに、ビデオカード選びにおいて理解しておきたいキーワードとして、リファレンスデザインという言葉がある。文字通り解釈すると"参考設計"となるが、これはビデオチップ(GPU)を製造するNVIDIAやAMDが、ビデオカードメーカーへ提供する設計図のことである。そして、その設計図通りに作られたビデオカードはリファレンスデザインと呼ばれる。ビデオカードメーカーにとってリファレンスデザインは、自社設計が不要であるため、製品化までの期間を短くでき、かつコストを抑えることができるので、ビデオカードにはリファレンスデザインをそのまま利用した製品が非常に多い。
しかし、これではどのメーカーの製品もほとんど違いがないことになる。そこでビデオカードメーカーは、静音化や冷却能力を向上させたクーラーへと交換したモデルや、付属品に特徴を凝らしたモデル、オーバークロックモデルなどをラインナップして差別化を図っているのである。
このほか、チップセットにグラフィック機能を内蔵しているものもあり、この場合はマザーボード側がディスプレイへ出力するコネクタを含めて機能を持っていることになる。高い3D性能を得ることができない点と、メインメモリの一部をビデオメモリとして利用するためメモリ容量とメモリアクセス速度に悪影響を及ぼす点にデメリットを持つが、ビデオカードとマザーボードを別々に買うよりも出費を抑えることができる。コスト重視で自作するなら有力な選択肢となる。
GeForce 8800 GTXを搭載するビデオカード。これはリファレンスデザインに準拠したもの |
GeForce 8600 GTSを搭載するASUSTeKの「EN8600GTS/HTDP/256M/A」で、独自のクーラーを搭載することで冷却性能を上げたモデルである |
次回も引き続き、PCを作るために必要なパーツを紹介する。
(機材協力 : ASUSTeK Computer)