先日アニメ「ルパン三世」の「次元大介」役の声優小林清志氏が次元役を引退することを発表し大きな話題となった。

私はオタクのくせにアニメをあまり見ない、というかオタクを自称している、ただ言動が気持ち悪い人なのだがそれでも子供の頃ルパンはよく見ており、次元の声にも馴染みが深いので引退の報は残念であった。

だが、引退発表と同時に次元役は「大塚明夫氏」に引き継ぐことも発表されたのである。

つまり「大御所声優が次元をやめる」「やめたらどうなる?」「大御所声優が次元になる」というコブラ状態だったため、ネットでも特に落胆や批判の声は見られない。むしろ「異論があるなら聞こう」とこちらが銃口をつきつけられる側になっている気がしてならない。

50年にわたり戦った次元の「勇退」

  • 50年ものあいだ、変わらぬニヒルさで次元を演じたのは驚異的なお仕事です

    50年ものあいだ、変わらぬニヒルさで次元を演じたのは驚異的なお仕事です

ちなみに小林氏は現在88歳で、次元役歴は50年だという。

今、安達祐実に「家なき子」をやらせたらタイトルが「ホームレス」になってしまうように、役者であれば年齢が変わらない役を同じ俳優が何十年も続けるというのはほぼ不可能だが、声優の場合はそこまで珍しいことではなく、キャラは少女だが中の人は古希、というリアルロリババアを実現させてしまっているケースもある。

このように、声優は声が出続ける限り続けられる職業と言えるが、やはりずっと同じ声を出し続けるのは難しいようである。

体力的に力のある声を出すのも大変だろうし、喉の問題もあるだろう。そして、20代で入れ歯を勧められた身として「歯も声に結構影響がある」ということも言い添えておきたい。

実際、「最近の次元の声は聞き取りづらい」という意見も出ていたそうだ。それに対し小林氏は「当たり前だろ、こっちは88歳だぞ」と「正論」としか言いようのないコメントを出している。

むしろ、もっと本格的に何を言っているかわからない88歳も普通にいる中で、次元大介という役をこの歳まで務めたというのはすごいことである。

しかし、本人にも衰えの自覚があり、次元がマジで何言ってるかわからなくなる前に自ら引退を決めたようだ。

引退に際して出した「ルパン。俺はそろそろずらかるぜ。あばよ。」というコメントがあまりに脳内再生余裕でカッコよすぎると話題となり、まさに「勇退」だったのだが「これで次元は年を取った、というような声を気にしなくて済む」という本音も漏らしている。

ちなみに次元を引き継いだ大塚明夫氏は、石川五ェ門役をやっていた大塚周夫氏の息子に当たるため、その展開もアツいと言われている。

競争が激化する声優業界、YouTubeが「発表」の場に

大塚明夫氏と言えば、少し前に自身がベテラン声優でありながら「声優は大変だから安易に目指さない方がいい」という語った記事が話題になっていた。

まず「声優」という職業自体が人気になってしまい、志望者が増えたのに対し、声を当てる仕事の数が限られているため単純に競争率が高いそうだ。

さらに、声優業界は「パイセンがなかなか引退せず、席が空かない」という特徴がある。なにせ「次元大介」の席が空くのに50年かかったのである。

ドラマであれば若い役には若い役者を使うのが普通なので目まぐるしく入れ替わっていくが、声優の場合、何歳になろうと幼女の声が出せる限りは幼女役を続投可能なので、文字通り死ぬまでやる人も珍しくないのだ。

上がいなくならないのに新人や志望者が増えていったら、さらに仕事の取りあいが激しくなる上、制作者側はすでに名前が知れている声優の方を使いたがるので、新人が仕事を取るのは容易でないという。

また声優は、誰かが作ったキャラクターに声を当てたり、誰かが書いた台本を読んだりする「誰かが作った作品ありき」の仕事なため、「自分で一から仕事を作り出すことができない」という点も厳しい要因の一つだという、

ただこの点は現在多少変わってきており、最近はYouTubeなどで誰でも世界に「発表」ができる時代である。顔を出さずに声だけの動画も上げている投稿者も多く、そこで人気が出れば収益にもなるし、そこから仕事が来ることもあるだろう。

それも簡単ではないと思うが、ひたすらオーデションを受け、役をもらわなければ、自分の声を世間に聞いてもらえるところにすらいけないという、受け身の時代ではなくなったのではないだろうか。

セルフプロデュースしやすい令和の世、求められる多彩さ

話は変わるが、世の中には「シチュエーションCD」という物がある。簡単に言えば声だけのドラマが収録されたCDなのだが、出演者は大体一人、そして聞き手に語りかけるように演じているのが特徴だ。内容は健全なものもあるが、イケボがひたすら一人でエロ寸劇をしているものも多い。

もはや3Dは当たり前、推しがもう少しで画面から出て来そうでなかなか出てこない昨今、音声だけのスケベ小芝居に需要があるのか、というと「むしろ五感が研ぎ澄まされていい」のか、そのような音声商品は探せば山ほど出てくる。これだけ作られているということは需要があるのだろう。

そのような音声作品は企業がプロ声優を起用して作っている場合も多いが、同人作品と思われるものも多数販売されている。出演者が一人で良いということは、やろうと思えば全部自分1人で作ることも可能なのではないだろうか。

つまりどこかに仕事をもらわずとも、儲かるかどうかは置いておいて自分1人で自分の声を売る方法はすでにあるということだ。

しかし、その場合は声優としての技術だけではなく、動画編集技術やそれを多くの人に知ってもらうためのマーケティング能力、そして時には自らドスケベ脚本を書く能力が必要になってくるかもしれない。

漫画家も出版社を通さず漫画を発表し、収益を得られる方法が生まれてきているが、そのためには漫画を描く以外の知識や技術も必要になってくる。

稼ぐ手段が増えたのは良いが、その分、一芸だけではダメ、という世の中でもあり、依然厳しいことには変わりない。

何より大塚ボイスで「声優なんて大変だからやめときな」と言われたら「わかりました、やめます」としか答えようがない気がする。