現在「漫画家に言ってはいけない言葉ランキング」第一位は「漫画村で読みました」であり、その後ろを「どのジャンプで描いているんですか? 」が懸命に追っているという感じだ。

ジャンプの方が漫画家をキレさせる言葉としてはベテランなのだが、本当にジャンプで描いている作家もいるし、ジャンプも種類がいろいろあるため、惜しくも一位を逃がし続けているという状態だ。

もし、親戚の漫画を描いているらしいオジさんやオバさんに正月とかの席で確実に殴られたいと思うなら「週刊少年ジャンプで描いてるんですか?」とキメ打ちすることをお勧めする。

作家を憤死させるNGフレーズとその背景

漫画村のような漫画の違法アップロードというのは昔からあったが、当然「ネット」が生まれてからの問題である。

それ以前の漫画村枠に居たのは「ブックオフで買いました」だった。別にブックオフ限定ではないが「中古書店で買った」というのは、あまり漫画家に言うべきではない。

何故ダメかと言うと、「貴様の本には定価693円(税込表示)払う価値がない」と言われたような気分の問題もあるが、中古で買われても作者には1円の利益にもならない、というのが一番大きい。

もし中古でもこちらに利益があるなら、「ブックオフでカバーなし11円で買いました」と言われても「ちゃんと消費税とってんだ」と感心するだけで終わる。

よって自分の新刊が出るたびに「買って燃やしてまた買え」と言ってきた。中古が多く出回ると新刊がさらに売れなくなるという悪循環になるため、利益的な意味で言うと、冗談ではなく売るぐらいなら燃やしてくれた方がありがたいのだ。

ただし、中古で売られているということは「買った奴がいる」ということでもある。各地のブックオフを渡り歩きながら日本列島縦断に挑戦している逸品かもしれないが、それでも最初に定価で買った奴が存在するはずなのだ。

よって売れている本ほど中古が出回っており、本気で売れていない本は中古屋には存在しない。

ただし、中古書店での売買は違法ではない。買ったものの処遇は本人の自由だし「リサイクル品を利用する」というのは生きていく知恵の一つだ。漫画村で読むのと違い、ブックオフで買って読むのは何ら悪いことではない、ただ「わざわざ作者に言うことではない」のも確かだ。

そもそも「日本海側で買った漫画は活きが良い」ということはないので、どこで買ったか伝える必要は特にない。たとえブックオフで買ったとしても「買いました、読みました」だけで十分なのである。

それをわざわざ「ブックオフで買いました」と言われると、「怒るに怒れない」という立場を利用した巧妙なアンチではと思ってしまう。逆に言うと、合法の範囲で漫画家を憤死させたいと思ったら「ブックオフで買ってゲオで売った」がベストアンサーだ。

ツタヤ×メルカリの焼き畑商法と書店の窮状

  • 「どこで買ったか」は話題にしないほうがベターです。特に好きな作家の前では…

    「どこで買ったか」は話題にしないほうがベターです。特に好きな作家の前では…

つまり中古での売買は作家にとって「止める権利はないが、できれば自分の見えないところでやってくれ」というのが正直なところだ。 それを最近良く見えるところでやってしまい炎上してしまったのがツタヤである。

「新刊本はメルカリで意外と高く売れる」というコピーと共に、購入した書籍のバーコードをかざすとメルカリに出品されているその本の相場がわかるというQRコードを店内に設置したのだ。

中古書店同様、メルカリでの購入は、作家や出版社の利益にはならない、やるなとは言えないができればやってほしくないことである。

それを同業と言って良い書店自らが促すという行為に「余計業界を衰退させる」「そもそも自らの首を絞めている」と出版業界を中心に非難されたほか、今問題になっている「転売」を助長させるという批判も上がった。

ツタヤ的には「書店での紙の新刊本の購入を増やす」ことを目的とした実験的試みだったという。

実験しなくても中古で買う人間が増えれば新品を買う人間は普通に減りそうな気もするが、仮に本当に新刊を買う人間が増えたとしても、作家や出版社にとって不利益が起こりかねない実験なのは確かである。

それは、ハンバーグ屋が「ウチに肉を卸している農場や精肉店に火を点けたらどうなるか実験してみよう」と言っているのに近いので、一時的な利益があったとしても、結果的に心中になりかねない。

とはいえ、コロナウイルスによる書店の休業や、急速な電子書籍への移行で書店も相当な窮地であることがわかるし、そのためには一時的でも売り上げを伸ばすなど、現状を打開するための試みが必要ということはわかる。

書店が本を作る作家や出版社がないと成り立たないように、作家も売ってくれる場所がなければやっていけない。

通販や電子書籍があるからいいではないかと思うかもしれないが、ネットで本を買う人は「鬼滅の刃買うぞ!」という確固たる意志を持って買う人がほとんどであり、何の気なしに開いたアマゾソに表示された、聞いたこともない作者の見たこともない漫画をノリで買ってみた、みたいなことはあまりないのだ。

それに対し書店だと、鬼滅を買うぞとやってきたが、たまたま平積みされていた漫画の表紙の美少女のケツと目が合った、という運命的な出会いで一緒に購入したり、むしろ鬼滅のことを忘れて買ってしまったりすることもある。

つまり、知名度のない作家にとって書店とは、読者と作品を出会わせてくれる貴重な場なのだ。書店がなくなっても、出版社は電子書籍が売れれば大丈夫かもしれないが、私のようなまず作品を知られるまでが難関の作家は結局餓死である。

よって、書店が困った結果やっていることなら、そんなことされては困る、と怒るだけではなく、商品を置いてもらっている側として、書店が存続できるよう尽力していかなければならない。

もちろん私のような木っ端作家個人にそんな力があるわけはないのだが、せめてツイッターで「書店で買って法的に許可された場所で燃やしてまた書店で買え」と言い続けようと思う。