6月末で、クレジットカードや電子マネーで支払いをした際、数%が還元されるという「キャッシュレス・ポイント還元事業」が終了した。
この還元制度は、増税で下がった国民のテンションをわずかでもいいから上げる目的もあったと思うが、いまだに紙の請求書、印鑑、PDFで送られてきたデータを出力したのち郵送、極めつけに「カンチ、FAXしよ? 」といった、諸々の紙の呪縛から逃れられない日本を、少しでも早くキャッシュレス対応させる目的も大きかったと思う。
この試みはまずまず成功のようで、「還元が終わった後は現金払いに戻す」と言っている人はあまり見かけないし、「還元が終わったから、導入したキャッシュレス決済システムは破壊した」という店舗もそんなにはないと思われる。
まだまだ諸外国には遅れを取ってはいるが、強火の紙担である日本も、電子化への道を歩み出したと言えるが、現金での支払いが完全になくなることはないだろう。だがそんな中、決済の完全キャッシュレス化を目指している業界がある。
それが「高速道路」である。
「あと一歩で全員ETC」な高速利用者事情
現在、高速道路料金の支払いは自動料金収受システム(ETC)と有人の現金支払いのレーンに分かれている。国土交通省は、料金所の有人ブースを廃止し、ETC専用にする方向で検討中だという。
これは、すでにETC使用率が93%にまで上っているのもあるが、新型コロナウイルスの影響もある。高速道路の有人ブースには、回転寿司のごとく全国津々浦々から人が流れて来るため、それに接触する人間というのは当然感染リスクが高く、実際に高速道路係員の感染者も9名ほど報告されているらしい。そして、感染した係員がドライバーと接触すれば、それがまた全国へ運ばれて行ってしまう。
つまり、高速道路の有人ブースでの現金支払いは、非効率なだけではなく、コロナ時代においては命の危険ですらある、というわけである。
もちろん、高速道路の支払いを自動化することにより、「レシートの海と化した財布から何とか300円をひねり出したと思ったら、百円1枚に五十円玉2枚だった」というあるあるによる渋滞も発生せず、結果的に高速道路がより安全になるというメリットもある。
このように完全ETC化にするメリットは大きいのだが、問題もある。
クレカのない奴に車を与えるな! どう思う?
まず、完全ETC化すると当然、ETC搭載車しか高速を利用できない。そして、ETCを利用するには基本的に「クレジットカード」が必要となってくるのである。一応クレカなしでも通る方法として専用カードの用意はあるようだが、手間的にも金額的にも「クレカ作った方が早い」というのが現状のようだ。
つまり、急に高速道路を使用しなければいけない時が来ても、車にETC車載器とETCカードがなければ高速に乗ることは不可能になるのだ。
よって、ハンドルやタイヤ同様、ETC車載器を標準装備にするという案も出ているようだが、世の中には宗教上の理由で飛行機には絶対乗らないという人がいるように、高速道路に乗るぐらいなら徒歩で天竺を目指すという宗派の人もいるのだ。
アクセルやブレーキと違って、必ず使うとは言えないものを標準装備にして、さらにそれが車体価格に含まれるとなったら、反感を持つ人も多いかもしれない。
そして仮にETC装置がついていても、ETCカードがなければ使用は出来ず、それにはクレジットカードが必要、という点が一番議論を呼んでいる。
ところで現在、私は会社員時代に作ったクレジットカードを腹に縫い付けて抱いて眠る生活をしている。何故なら、無職となった今、これを失った場合に再発行できるか未知数だからである。
某Rカードは職業欄に「殺し屋」と書いても通るという噂だが、殺し屋が通っても無職が通るとは限らない。むしろ殺し屋の方が、収入も需要もなくならなそうな分、信用が置ける。
このように、社会的立場などの事情でクレカが持てない人もこの世にはいるのだ。
よって「クレカが持てない人間は高速に乗るなってか」という反対意見が出ており、それに対し「むしろクレカが持てないような人間は排除した方が高速の治安が守られる」という、「バカどもに車を与えるな!」でお馴染みの雄山イズム溢れる過激な意見も出ているという状態だ。
人には様々な事情があり、人生にはいろいろあるので「クレカを持てない人は高速道路に乗れない」というのは差別として批判が集まるのは当然と思う。無人のキャッシュレス決済に統一するのは良いとしても、支払い方法にはもう少し選択肢が必要かと思われる。
秘書が全部やってくれない人の視点で決めてね
ちなみに、クレカに対しては未だに「借金カード」というイメージを持っている人も多いので、作れるけど作りたくないという人も少なくはない。
これは古い考えとも言えるが、完全に間違っているわけではない。クレカは便利なものだが、昔「Kitty GUYに刃物」という言葉もあったように、道具というのは上手く使えば便利だが、持つのに向いていない人が持つと凶器にもなり得るのだ。なおこのフレーズは、「キティちゃんを愛する心優しい男性に刃物は似合わない」という意味だ。
クレカというのは、割とそういう道具である。
キャッシュレス決済も、クレジットカードを使用するものだけではなく、あらかじめ現金をチャージしておくものなど、色んなタイプがある。先述したETC専用カードは預け金と利用料がダブルでかかってしまうので、そのハードルが下がれば使いやすくなるかもしれない。
高速道路を完全キャッシュレス決済化したいなら、クレカ1本などとは言わずに、もっとニコニコした支払い方法の選択肢を増やすべきだろう。