空前の筋肉ブームだそうだ。

以前から、ネットなどで筋肉崇拝者は増加傾向であったが2018年になってから特にそれが顕著であるという。

それは、先日NHKが突如放送した「みんなで筋肉体操」の人気を見てもわかる。「みんなで筋肉体操」とは、5分間の筋トレ番組であり、今でもYouTubeで動画が見られる。

なぜこの番組がそこまで注目を集めたかというと、まずモデルとして筋トレをするメンバーが異色なのだ。モデルは三人いて、センターを務めるのが俳優の「武田真治」。テレビをほとんど見ず芸能人に疎い私でも知っている人物だが、彼がちょっと目を離した隙にマッチョになっていたことは知らなかった。

そのサイドにいるのが「小林航太」。職業は弁護士、しかも東大卒と、婚活サイトでも釣りを疑われるレベルのスペックであり、その上筋肉である。その筋肉を生かしコスプレイヤーとしても活躍しており、私の好きなFGOのキャラのコスプレをしている写真も見られるが、その肉体美ゆえにまあ完成度が高い。こういう、天に二物も三物も与えられている人間がいるから、ゼロ物で生まれてくる奴が出て来てしまうのである。

最後に「村雨辰剛」。気づいたらこちらの胴が真っ二つになっているような居合切りの達人(ジジイ)を彷彿とさせる名前だが、日本に帰化した金髪の元スウェーデン人であり、職業は庭師だ。このように、3億倍に希釈しないと、とても飲めない濃いメンツなのだ。

しかし、筋肉体操が注目を集めたのは、ただキャラが濃い人間を集めたという点ではない。これだけ「くわしく話を聞いてみたい」メンバーを集めておきながら、三人は一切喋らず、ひたすら5分間、筋トレをするだけなのである。喋るのは指導している近大の谷本道哉准教授だけだし、言うまでもないだろうがこの人もムキムキだ。

一見すると「キャストの無駄遣い」に見えるが、これが逆に番組の信用性を上げている。何故ならこの番組のキャッチフレーズは「筋肉は裏切らない…」であり、あくまで主役は筋肉なのだ。

そんな筋肉様を差し置いて、やれ武田真治とか弁護士とかスウェーデン庭師だとかいう枝葉にスポットライトを当てたら、「フェイク番組」と言われても仕方がない。むしろ、「筋肉」をテーマにしたら、勝手に弁護士とか庭師とか武田真治が集まってきたという風情なのである。

反響を受けてNHKは、「みんなの筋肉体操」続編を検討していると発表したという。やはり「筋肉は裏切らない…」のだ。

筋肉、この「自分磨きの終着点」

では、なぜ世の中の関心が筋肉に集まってきたかというと、突発的な現象ではなく、「いろいろやってみた結果、最終的に筋肉に行きついた」のではないかと思う。

私も、今より若い時は、美容ダイエット、自己啓発とか色々やってみた。人によっては、ここに英会話や留学、パワーストーンなどが入ってくるだろう。

そして、それらすべてに失敗した現在、私も世間と同じように「やっぱり筋肉だよな」という結論に見事着地している。正確には、筋肉だけではなく、健康、何より「体力」だと思っている。

今まで意識していなかったが、何をするにもまず体力がいる。苦しいことはもちろん、楽しいことですら、体力がないと「楽しい」を「疲れ」が凌駕して楽しめなくなるし、逆に体力があれば「長く楽しめる」のだ。

このように、世の中全体が迷走に迷走を重ねた結果、「やっぱ、まず体が丈夫なことからすべてが始まるのでは」という原点に戻ったのが今なのではないだろうか。

また、「他人をアテにしちゃダメだ」という風潮もこの筋肉ブームに一役買っている気がする。

今、筋肉は男だけのものではなくインスタなどでも「#腹筋女子」というタグが流行っているそうだ。これまで、女性向け筋トレと言ったらシェイプアップ目的が多かったが、現在では本当に腹筋を割るのが目的で、最終的にカヅキパイセンの剣撃を腹筋で跳ね返すところまで行こうとしている女子が増えているようだ。(編集注:「カヅキパイセン」は「KING OF PRISM by PrettyRhythm」(2016年公開)の登場キャラ。詳細はカレー沢さんの感想コラムにて)

今でも昔と変わらず、「自分磨きをしてハイスペ男と結婚しよう」という風潮はなくならないが、同時に「男(他人)の稼ぎをアテにするのではなく、自分が稼げる女になるための自分磨きをすべき」という考えも浸透してきている。

生活力だけではなく、肉体的にも「自分自身が強くなる」ことを考える者が増えてきたのではないだろうか。

世間には、「女で一人は大変だよ?」と独り身の女を脅す人がいる。確かにどれだけ経済的に自立していても、自分の金で買ったキャビアのビンの蓋が開かないなど、意外なところで男手のなさが痛い局面は存在する。

それが、筋トレで解決し、他人の脅しに屈しない生活ができるというならするしかないだろう。

そもそも、舐められてるから脅されるのだ。メスゴリラともなれば、それを脅すガッツのある奴はそうそういないはずである。