読書で得た知識が、必要なときにスラスラとでてくる人はまれでしょう。しかし、もし書籍がデジタル化されていれば、検索してたちどころに思い出すことができます。いまネットの世界で、読書家には夢のようなサービスが始まりつつあります。

先日、たまたま書棚を整理していて『複雑系』(新潮文庫)という本を読み返しました。この本に、私は読んだ当初から相当魅入られたらしく、あちこちに折り返しやら付箋やらが付けてありました。にもかかわらず、書棚の「奥の列」にはまり込んでいたために、自分が読んだことはおろか、持っていることすら忘れていました。

こうしたことはいかにももったいないことなのですが、私はそれほどまめではないし、記憶力が抜群にいいわけでもないので、実際には頻繁に起きてしまうのです。大事なことだからといって、何もかもを覚えておけるはずがないので、ある程度妥協するしかないのですが、できる限り何とかしたいところでもあります。「役立ちそうな情報だ」と思って、書籍に付箋を貼ったり、線を引いたり、折り返しを付けるのはよくやります。本をよく読む人は、「あきらめることにしている」のでない限り、やってしまうことだと思います。問題はその次なのです。

たとえば、付箋を貼ったページの大事な箇所をデジタル入力して、検索可能にしておけばいいのでしょうが、非常に時間もかかるし、何しろ面倒な作業です。やろうやろうと思っていても、何となく先延ばしにしているうちに、結局は読みっぱなし、付箋を貼りっぱなしになるのです。お金をたくさん持っていれば、アルバイトの人でも雇うことで、本のまとめサイトでも作りたいところですが、そんなことができるはずもありません。

ライフハック:googleブック検索

この問題は、生きているうちに解決されるかどうかだと思っていました。が、先日Googleブック検索で遊んでいたところ、登録書籍さえ増えれば、このサービスが問題をほぼ解決してくれるのではないか、という期待感が高まりました。

Googleブック検索はまだβ版ながら、Googleの一大プロジェクト。全世界の書籍をスキャンして、OCRで認識し、それをネットから検索可能にするという壮大なプロジェクトです。有名なプロジェクトなので、ほとんどの方はご存じでしょう。まだ日本語の書籍に関しては、登録されている数自体が少ないのですが、それでも、本の中の単語が検索で引っかかるというのに驚きます。

これが、英書となるとますます驚きです。人名などで検索をかければ、その人名が登場する書籍のページが全部ヒットするわけです。当然といえば当然なのですが、本当に魔法のようなサービスだと感じました。

経済学者、「ブライアン・アーサー」で検索をかけたところ。書籍内の該当箇所がヒットする

魔法のようなのは、検索ヒットのみならず、ヒットした書籍について「レポート」を得ることができる点です。内容の要約から、書籍の形態、人気のある引用箇所、ブログなどでの言及情報、そして、書籍中に登場する地名から、Googleマップ上に検索結果が表示されているのです。 正直にいって、まさしく未来のツールという感じがします。これがおそらく、自動的にまとめられたものなので、データとプログラムさえ充実すれば、人の手をまったく介することなく、一冊の書籍について、相当のレポートがいくらでもただで手に入る、ということになるわけです。

たとえば最初に挙げた『複雑系』についての書籍レポートには、登場する人たちが研究した大学などについて、地図上の場所が指し示されています。ある意味で、本を一読する以上の情報が、本を読む前から得られてしまう印象です。

本の中に登場する都市が、Googleマップ上に示される

試しに、レフ・トルストイの『戦争と平和』を調べてみると、ナポレオンとロシアの戦争史における都市にピンがいくつも立ちました。これを確認しながら再読すれば、また新しいパースペクティブが得られそうな感じです。そう考えてみると、Googleに歴史地図のデータも加わると、いっそう面白いことが起こりそうです。

まとめ

こうしたサービスに接するたび、非常にいい時代に生まれ育ったものだと思います。 言うまでもなく、まだまだこれからのサービスではありますが、すでに今このレベルの完成度に達しているのですから、今後ますます驚くべき機能を提供してくれると、期待できるでしょう。

たとえばすでに検索した本をとっておく「ライブラリ」機能が備わっていますが、今のところまだ「一応ついている」という程度にとどまっています。ここが拡充してくれば、いよいよ本格的な「デジタル書斎」を、だれもがフリーで使えるようになるはずです。

残る問題というか、こうなってくるとますます期待したくなるのは、「概念検索」。これまでのところあまりはかばかしい成果が上がっていない検索方式ですが、実現されれば、「こういう内容のことが載っている本のページを教えて欲しい」と入力するだけで、適切な箇所を指し示してくれるわけです。

もっと欲を言って、このような概念を世界中の言葉に翻訳し、世界の文献全体を対象に検索することができれば、文献管理の必要性は、少なくとも一般の個人にとってはゼロに等しくなるでしょう。