実際の3Dゲームに見る法線マッピング活用例

法線マッピングはどのような場面で使われることが多いのだろうか。実際の3Dゲームで見ていくことにしよう。

最も基本的なのは、煉瓦や岩壁のような背景オブジェクトの材質表現だ。全く動かない、背景ポリゴンに適用する法線マップであれば座標系は固定されるので、計算負荷を低減させるために、法線マップに仕込む法線ベクトルの方を事前にローカル座標系やワールド座標系に変換した状態で生成してしまうのもいいかもしれない。

「ハーフライフ2」(VALVE)より。法線マップのオフ(左)とオン(右)。丸太の木の皮の微細凹凸に注目。

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また、動物や怪物の皮膚の微妙な凹凸感、服のシワ、車や飛行機、ロボットなどのメカなどのモールドディテールなども法線マップの定番活用例だ。

キャラクタの皮膚などの質感表現に用いる場合には、ウロコやトゲトゲのような複数のパターン法線マップを適当にスケーリングしつつ混ぜて適用するというのも面白い。ベクトルの和の計算は単純に対応要素同士の加算で済むのでそれほど大きな負荷にはなりにくい。

「ロストプラネット」(カプコン)より。法線マップのオフ(左)とオン(右)。モンスターの不気味な皮膚の質感も法線マッピングでよく表現される。

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「CALL OF DUTY2」(ACTIVISION)より。服のシワなども法線マップの定番適用例だ。キャラクタの手足が動いて、服も伸び縮みするのに、法線マップの服のシワだけは変化しない……というのは不自然に見えたりすることも。

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「CALL OF DUTY2」(ACTIVISION)より。法線マップのオフ(左)とオン(右)。メカのモールド表現も法線マップの格好の活躍の場だ。

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「DOOM3」(id software)より。人間の顔のシワ表現に法線マッピングを使うことはよくあるが、このように顔に傷を増やしてグロテスクに変化する様を表現すると言ったことにも使える。

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法線マッピングは微細凹凸表現にはよいとはいえ、やはりそのポリゴンに視点が近づきすぎては、さすがに実際に凹凸がないのはバレてしまう。

これを改善するために独CRYTEK社の3Dシューティングゲーム「FARCRY」では、ユニークな方法を実装している。

他の多くの3Dゲームがそうであるように、FARCRYでも、視点から近い時に表示するための多ポリゴンで構成された高品位モデルと、視点から遠い時に表示するための低ポリゴンで構成された低解像度モデルを使い分けている。FARCRYでユニークな点は、この、視点から遠く離れた時の表示に利用する低ポリゴンモデルに対しての工夫だ。

それは、低ポリゴン化で失われたディテールを法線マップに落とし込んで用意しておき、低ポリゴンモデルにはこれを適用することで、近くの時も遠くにいる時も同等のディテール表現がなされているように擬似的に見せているのだ。CRYTEKでは、このテクニックを「POLYBUMP」テクノロジーと命名している。

ある意味、法線マッピングを、LOD(Level of Detail:視点からの距離に応じて適宜、表現の品位を操作すること)システムに組み込んだ好例だといえる。

左が約2800ポリゴンのハイディテールモデル。ポリゴン数を1/10の約280ポリゴンのローディテールモデルに変換し、失われたディテールを法線マップとして出力する

1/10のポリゴン数のモデルに法線マップを適用したのが右の図。視点から遠くなったときの低ポリゴンモデルがこのレベルで表示されていれば、ローディテールモデルに切り替わったことにほとんど気が付かないかも知れない

法線マップに落とし込まれた顔のディテールに注目。

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(トライゼット西川善司)