最近何かと話題のロシアですが、シベリア鉄道の延伸の話も出ています。ロシアのハバロスクから第2シベリア鉄道のソベツカヤ・ガバニ駅から樺太半島を経由し、宗谷岬まで1200㎞延伸する計画です。そうなれば、電車でロシアまで行けるようになり、交流が盛んになると思います。

そのロシアですが、実はIT立国です。多くのセキュリティソフトがロシアから日本に上陸するなど、技術力の高い国として知られています。日露関係が改善し、平和条約締結ともなれば、IT分野での交流も盛んになるでしょう。

今回は、日本で外国人エンジニア派遣に力を入れているヒューマンリソシアの協力を得て、 ロシアに精通したTalentEx CEOの越陽二郎氏を取材できましたので、越氏のインタビューを通じて、ロシアIT事情を紹介しましょう。

越氏は東京大学を卒業後、日本能率協会コンサルティング 経営戦略コンサルタントを経て、Mediba/Nobot(KDDI)で海外戦略部創設、タイ拠点設立に関わり、2013年にTalentExを設立しました。TalentExは、タイとロシアで、求人メディアや人事向けSaaSを展開しています。

  • TalentExのCEOを務める越 陽二郎氏 写真:吉政忠志

    TalentEx CEO 越陽二郎氏

吉政: 最初から生々しい質問で恐縮ですが、ロシアのプログラマーの給与は一般的な職業と比べ、高いですか?低いですか?

越氏: :世界中でプログラマーの需要が高まって、世界でも平均的にプログラマーの給料は他の職業よりも高いですね。

ロシアのエンジニアの給与などの水準について、現地の大学と共同で調査したのですが、その結果から、ロシアでは圧倒的にエンジニアの給与水準が高いことが伺えます。また、エンジニアとして企業で働いた経験の有無だけでも、大きく給与が変わってきます。

以下の表でわかるように、全体の平均給与と1~3年ほどの勤務経験のあるエンジニアは、ほとんどの都市において2倍ほど多いです。

吉政: プログラマーの世界では、経験が浅い人とプロフェッショナルな人ではその生産性が3ケタは違うという感覚があります。経験者と未経験者はそれほどの差があるということだと思います。ロシアにおいて、経験者と未経験者の給与の差が2倍以上あるということは、それだけITエンジニアの力が評価されているのかもしれません。ちなみに、ロシアでプログラマーの仕事は人気がありますでしょうか?

越氏: 人気はあると思いますね。例えば、UNESCOが過去に公開した資料では、2位のアメリカと大差をつけて、世界一のエンジニア輩出数を誇っております。 ロシアではプログラミングを勉強している人は比較的多いです。その理由は、国が率先してプログラミング教育を行っているなど、国策的な要素が強いと思います。身近にプログラマーがいるせいか、文系職でも独学でプログラマーになる人も多いです。

実際にTalentExで就職活動を支援したある方は、文系で日本語を勉強していて、日本語検定ではN1(ほぼペラペラ日本語を話せるレベル)を取得していましたが、向上心がある彼女は独学でPythonも習得しています。

吉政: そうなんですね。私は日本でPythonエンジニア育成推進協会の代表理事をしており、日本でブレイクしているPython試験を海外で展開することを考えています。いつかロシアでPython認定試験を実施してみたいです。ちなみにロシアではPythonは人気なんですか?

越氏: 私自身がロシアで収集した情報やエンジニアと相対してきた印象からお話すると、ロシアではPythonとKotlinが人気だと思います。以前、知人のロシア人エンジニアにも同様の質問をしたところ、一昨年まではjavaやPHP、JavaScriptがほぼ一番人気だったけれど、最近はpythonを習得して利用している人が多いとのことでした。彼によると、現在最も流行しているプログラミング言語は、主にJava、Python、Kotlin、JavaScriptの4つとのことでした。

吉政: ちなみに、この記事を見てロシアに興味を持つ方もいると思います。ロシアの良いところについて教えていただけますか?

越氏: 環境要因については、日本人が少なく、手付かずのマーケットが多いため、チャンスも多いことが良い点と言えるでしょうか。人については、日本ではあまり知られていないのですが、日本人に対する理解と尊敬をもっている人が多いと思います。国民性についても、真面目で勤勉な人が多いという印象があり、共に仕事をする上では肌が合うと感じています。

吉政: 日本人に理解と尊敬を持っている人が多いのは意外でしたね。ちなみに、ロシアではIT企業を起こしている人は多いですか?

越氏: 一方で、ロシアで ITを軸に起業している人は ほとんどいない…と思います。そういう意味でも、ロシア含めた旧ソ連地域は、日本人にとってこれからの地域だと思われます。現地で活躍するのは、現地の文化や習慣とそこに生きる人々を尊重し、 そこで外国人として事業をさせてもらっていることに対する感謝の気持ちを持てることが、海外で活躍するために何よりも大事な要素であり、その考えをきちんと認識している人が現地で活躍できると思います 。もし、ロシアで起業をしたいと思う方がいれば参考にしていただければ幸いです。

吉政: 最後に質問です。日本人プログラマーがそちらの国で成功する可能性がありますでしょうか? また、どのような人が成功しやすいでしょうか?

越氏: ロシア・東欧地域などのプログラマーの競争が激しい地域においても、日本人は「納期を厳守する」「責任感が強い」「計画性がある」「勤勉」といった点で世界最高のレベルにあるので、コミュニケーションを恐れない人であれば、活躍の余地は十分にあるでしょう。

吉政: 日本人の仕事に対する基準は世界トップクラスであり、その実力を発揮できれば十分可能性があるということですね。ありがとうございました。

著者プロフィール

吉政忠志


業界を代表するトップベンチャー企業でマーケティング責任者を歴任。30代前半で同年代国内トップクラスの年収を獲得し、伝説的な給与所得者と呼ばれるようになる。現在は、吉政創成株式会社 代表取締役、プライム・ストラテジー株式会社 取締役、一般社団法人PHP技術者認定機構 代表理事、一般社団法人Rails技術者認定試験運営委員会、BOSS-CON JAPAN 理事長、一般社団法人Pythonエンジニア育成推進協会 代表理事を兼任。