米Microsoftより新CEOを迎え、スマートフォン市場の競争に挑むフィンランドNokiaは10月21日、2010年第3四半期(7月 - 9月期)の業績を発表した。予想より良い数値と新CEOが打ち出した具体的な方向性を受け、Nokiaの株価は約8%上昇、イメージ悪化はなんとか食い止められたようだ。それでも、巨大企業の新たな舵取りははじまったばかりだ。

第3四半期の売上高は、前年同期比5%増の102億7,000万ユーロ、純利益も前年同期の9億1,300万ユーロの損失から3億2,200万ユーロの黒字に転換した。販売台数は1億1,040万ユニット、前年同期比2%増となった。

平均販売単価(ASP)は65ユーロ、前年同期より1ユーロ、前四半期(2010年第2四半期)より4ユーロ上昇し、ハイエンドの売り上げが伸びたことをうかがわせる。予想市場シェアは30%、これは前四半期(2010年第2四半期)の33%、前年同期比の34%からの縮小となる。

Nokiaが9月中旬にCEO交代を発表して以来、激動期を思わせるニュースが続いている。Olli-Pekka Kallasvuo氏に代わる新CEOとして、Microsoftのビジネス部門責任者のStephen Elop氏を任命したと発表された後、ナンバー2としてスマートフォン事業部を率いてきたAnssi Vanjoki氏が辞任を発表、そしてNokiaが米Intelと進めているMeeGoの端末周りを統括するAri Jaaksi氏もNokiaを去った(Jaaksi氏はその後、WebOSを抱える米Hewlett-Packardに移籍している)。

9月にNokia CEOに就任したMicrosoft出身のStephen Elop氏。好決算でスタートを切ったが、まだ問題は山積しており、同氏の舵取りが注目される

また、Nokiaが採用するSymbianの母体となる非営利団体Symbian Foundationでも、悪いニュースが続いている。Android端末を開発する韓国Samsungと英Sony Ericssonが共にSymbianを採用しない方針を明らかにした。これにより、トップ5(Nokia、Samsung、LG、Sony Ericsson、Motorola)中、SymbianをサポートするのはNokiaのみとなった。その後、設立以来エグゼクティブ・ディレクターとして同団体を率いてきた元NokiaのLee Williams氏が辞任を発表している。

NokiaユーザもNokia自身も熱望していたフラグシップ端末「Nokia N8」

端末側では、待望のフラッグシップ端末「Nokia N8」がいよいよ発売となった。N8は「Symbian ^3」を搭載した初の端末となり、iPhoneやAndroid対抗にあたって改良が急がれるSymbianの出来栄えという点でも注目されている。3.5インチのタッチ画面、12メガピクセルカメラ、HDMI端子などの機能を盛り込んでおり、反応はまずまずのようだ。Financial Postによると、RBC Capital Marketsは予想出荷台数を当初の予想台数である1億1,300万台を上回るだろう、という見通しを示しているとのことだ。Nokiaは第3四半期の業績発表でN8の数値を公開していない。

第3四半期の業績発表と共に見出しを大きく飾ったのは、1,800人規模の人員削減だ。Elop氏就任後、初の人員解雇となるが、メスが入ったのはSymbian端末開発周り。Symbian端末開発の合理化のため、としており、Symbian開発からシフトを移すとみることもできそうだ。もう1つはサービス周りで、アプリストアを含むインターネットサービススイート「Ovi」の改良を約束している。

業績発表、人員解雇と同時に、開発技術「Qt」へのコミットも発表している。Qtは、Nokiaが2008年に買収したノルウェーTrolltechのクロスプラットフォームUI/アプリケーション開発プラットフォーム。Nokiaはここ1年ほど前から、Symbian向けの開発ツールとしての確立を目指しており、MeeGoが発表された後はMeeGo向けの標準開発ツールという役割も持つ。

Nokiaはこの日、MeeGoとSymbian向けの単一の開発技術としてQtにフォーカスするというメッセージを発表している。新しいニュースではないが、プラットフォームについてのうわさを払拭する狙いが感じられる -- Microsoft出身のElop氏がCEOとなったことで、Symbian離れがうわさされてきた。同時にWindows Mobileの採用やAndroid採用か?との憶測もあった。だが、10月前半にドイツで開催されたQtの年次カンファレンスでは、既存のプラットフォーム戦略を変更をする様子はまったく感じられず、SymbianとMeeGoをプッシュしていく姿勢を鮮明に打ち出していた(関連記事1関連記事2)。

スマートフォン競争では現在、サードパーティのアプリケーションが活気を示す1つの指標となっている。NokiaはQtベースの「Nokia Qt SDK」を提供しているが、AndroidやiPhoneをターゲットとする新しいモバイル開発者にアピールしていく必要がある(同郷のフィンランドRovioもやっと「Angry Birds」のSymbian ^3向けを公開したばかりだ)。Qtでどれぐらい既存のSymbian開発者を引きとめつつ、新しい開発者を獲得できるか、MeeGoローンチに向けてアプリケーション側を充実できるかなどが注目される。

そのSymbianとMeeGoについても、

  1. Symbianは今後、バージョン番号を利用するのをやめ、Symbian^3端末のユーザーにソフトウェアアップグレードを行うこと
  2. 第1号のMeeGo搭載機は2011年になること

を明らかにした。MeeGoデバイスは当初、2010年中に登場としていたことから、事実上の延期といえる。

以上、Nokiaが10月21日に発表した事項をまとめたが、これまで明らかになったことは主として、ハードウェアメーカーNokiaとしての既存の戦略の再確認といえる。今後、ソフトウェアやサービス面を強化するにあたって、新しいNokiaを打ち出す必要がある。