先週、独SAPの年次イベント「SAPPHIRE Now 2010」取材のため、ドイツに数日間滞在した。ドイツに行くと、有名な米GoogleのWebメールサービス「Gmail」の見慣れたロゴが「Google Mail」になる。そう、この国では商標の関係でGoogleは「Gmail」という名称を利用できないのだ(英国でも同じ理由で「Google Mail」だったが、商標でもめていた英国の研究団体と2010年5月3日に和解に至り、Gmailが利用できるようになる)。

Googleにとってドイツは、欧州の中でも手ごわい(あるいは、厄介な)市場だろう。ドイツはプライバシーなどの規制が厳しい上、ルールを守ることにも厳しい - たとえば「Google Street View」は、まだドイツでスタートしていない。かといって、無視するわけにはいかない。ドイツは欧州連合(EU)27カ国で最大の市場なのだ。

5月14日にGoogleが認めたStreet View撮影車両での不正なデータ収集に対しても、ドイツの規制当局は厳しい目を向けている。

この事件は、Street Viewサービス用に写真を撮影するカメラを搭載した車両が、保護されていないWi-Fiネットワーク上でやり取りされるペイロードデータ(ヘッダ部分を含まないデータ部分)も収集していたことをGoogleが認めたもの。データは量にして300Gバイト。3年間にわたり世界約30カ国で収集していたという。

Google自身が自覚していなかったペイロードデータの収集について、最初に疑いをあらわにしたのはドイツだ。ドイツ政府は顔、ナンバープレート、表札などにぼかしをいれること、市民から削除依頼があれば応じることなどを条件に、Street Viewの開始を一応承認している。だが4月、ドイツのいくつかの州のデータ保護団体が、GoogleのStreet View撮影車がプライベートなWi-Fiデータも収集しているのではないかという疑惑を持ち上げた。

この疑惑に応える形でGoogleは4月27日、欧州パブリックポリシーブログにて、Street View撮影車が写真撮影のほか、無線LAN情報(SSIDデータとMACアドレス)と3次元ジオメトリデータを収集していると説明した。その上で、「ペイロードデータは収集していない」と明記した。ところが3週間もしないうちにこの主張を一転する。Googleは5月14日、同ブログ上で「アップデート」として、「誤って」ペイロードデータを収集していたことを認めた。「プログラム上のエラー」により、2006年よりペイロードデータを収集していた、とGoogleは弁明、だが「これらのデータを利用したことはない」と強調した。

Googleはすぐさまペイロードデータの収集を止め、規制当局の要求に応じデータを消去するとしているが、一連の流れが悪い印象を与えたことは否めない。英国のプライバシー団体、Privacy Internationalのディレクター、Simon Davies氏はFinancial Times紙に対し、「あるべきではないデータがそれほど大量に存在していたのに、気が付かないわけがない」と真っ向から批判している。

Googleはその後、規制当局の依頼の下で、アイルランド、デンマーク、オーストリアなどの国のデータを消去した。しかし、これに対し、Privacy Internationalはデータが消去されてしまうと「証拠」が消滅してしまうことから、政府機関はGoogleにデータ消去を要求すべきではないと呼びかけた。なお、同団体は英国で、通信の傍受に関する捜査権限規制(Regulation of Investigatory Powers Act: RIPA)の下で、検察当局の介入を求める可能性を示唆している。英国では、コンピュータの不正利用に関する規制(Computer Misuese Act)にも抵触する可能性があるという。

一方ドイツでは、許可なくデータを収集することは刑法に触れる。19日、Googleのドイツ本社があるハンブルグのデータ保護当局は調査を開始、Googleに対し、収集したデータのハードドライブの引渡しを求めた。だがGoogleはこの引渡し要求にまだ従っておらず、当局側は5月26日までと引渡し期限を設けている。Googleがこれに応じなかった場合、最大で30 - 38万ドルの罰金を科され、起訴される可能性があるという。ドイツではまた、ある市民が検察当局に対し正式な苦情を提出するという動きも出ている。

New York Times紙の報道によると、Googleはドイツ・ハンブルグの当局との件でデータの消去に応じるとは述べているが、ハードウェアドライブ引渡しについてはコメントしていないという。ドイツの動きに倣い、チェコでも政府による調査が始まった模様だ。

データ消去を命じていないベルギー、イタリア、フランス、スペイン、スイスなどの国は様子見の状態だ。ベルギーはデータを消去しないようGoogleに伝えたようだ。今後、これらの国でも調査が始まる可能性がありそうだ。

GoogleはドイツでStreet Viewサービスを年内に開始する計画だが、今回の「うっかり」でStreet Viewへの印象がさらに悪くなったことは間違いない。