ストレージの主な使い方の1つに、ネットワークを介してファイルを複数人で共有するための置き場所として利用するケースがある。いわゆる共有ドライブ、ネットワークドライブと呼ばれるファイル共有の使い方だ。

大抵の企業が利用しているこのファイル共有は、近年ますます重要な位置付けになっている。容量が増大し、重要なファイルが大量に蓄えられたファイル共有システム(ファイルサーバ)に障害が起こると、程度の差はあれ業務が立ち行かなくなってしまう。企業は対策として、本社やデータセンターなどに堅牢なファイル共有専用のストレージ(以下、NAS)を導入し、共有ファイルを集約することを検討するが、さまざまな理由から集約できないケースも多くある。今回は、そのような場合にSDSがどのように活用できるかを紹介する。

1. 一度は統合したはずのファイルサーバ

支社・支店・営業所・工場など複数拠点を展開している企業の中には、すでにファイルサーバを統合した企業も多いだろう。しかし「いつの間にか各拠点で勝手に低価格NASを設置して利用していた」という企業も少なくないのではないか。IT管理者としては困ることだが、利用者からすると「使える容量が少ない」「ファイルを保存するのに時間を要する」などの不満から、ユーザー部門が経費で購入できる低価格NASを勝手に導入しているケースが多い。

しかし、これは企業としては見過ごせないリスクを抱えている。ユーザーは、便利であるがゆえに拠点内にある低価格NASに重要なファイルを保存する。一方、低価格NASは、エンタープライズNASのような高機能、高信頼性を持ち合わせていない。結果として、「重要なファイルが漏洩したものの証跡が残っていない」「障害などで重要データが消失したり、拠点の一部業務が停滞したりする」といったことが起きてしまう。

2. 統合か分散か、一概には言えない

では、企業リスクの低減とユーザーの利便性を両立するためにはどうすればよいのだろうか? 企業(IT管理者)からすると、データ保全や管理性からファイルサーバを統合したいと考える。その場合、ユーザーの利便性を高めるには、ネットワーク回線を増強したり、容易に容量を増設できるようなNASを導入したりする必要がある。拠点数や拠点間の距離、人員比率などから統合するほうがよい企業もあれば、逆にあまりにもコスト高になってしまい分散配置させたほうがよい企業もある。実は、企業それぞれの事情が異なるため、どちらがよいとは一概には言えないのだ。

1カ所に統合することが難しい場合でも、以下の図1のようにすることでIT管理者の管理性とユーザーの利便性をある程度両立させることができる。

  • 人員が集中している本社では大容量のエンタープライズNASを導入

  • 拠点をある程度の規模で5つぐらいのグループに分け、それぞれに本社設置のNASと連携可能な小規模エンタープライズNASを導入

図1. ファイルサーバ配置例

IT管理者が管理する台数を減らし、本社と拠点で同じ機能を持つNASを導入することで、管理工数を抑えながらもデータ消失や業務停止のリスクを同時に抑えることができる。一方、拠点にNASを配置することでユーザーの利便性も損なうことはない。この拠点用のエンタープライズNASとして、SDSが活用できるだろう。エンタープライズNASのメリットを得ながらも導入の敷居を下げることができるのだ。

3. EMC Isilon SD Edge

エンタープライズNASであるEMC Isilonは、ハードウェア専用機(物理アプライアンス)だけでなく、Isilon SD Edgeと呼ばれる仮想アプライアンスを提供している。Isilon SD Edgeを紹介する前に、ベースとなるIsilonについて簡単に説明しておく。

Isilonは、スケールアウトアーキテクチャのNASである(図2)。IAサーバをベースとしたノードを複数連結させ、論理的な1つの大きなボリュームを作り出し、そのボリュームをクライアントに提供する仕組みを持つ。ノードは、CPU、メモリ、NIC、内蔵ディスクなどを搭載し、OneFSと呼ばれる専用ソフトウエアが稼働している。

ノードを追加するだけで容量が増え、同時に性能も上がり、IT管理者が何もする必要がないほど簡単に増強ができ、144ノード、67PBまで拡張可能だ。一方、ノードを連結していくアーキテクチャのため、ノード障害に耐えうる仕組みを備える。最大4ノードが同時にダウンしてもデータが消えることなくサービスを継続できる信頼性を実現している。さらに、SMB、NFS、FTPなどのプロトコルだけでなく、HTTPやHDFSにも対応していることから、IoT、ビッグデータ解析の基盤としても近年活用されている。

図2. EMC Isilon スケールアウトNASの概要

Isilon SD Edgeは2016年2月にリリースされ、EMCのホームページからダウンロードできる。ユーザー登録などの必要もなく、誰でも自由に入手可能だ。ライセンスは、無償版と有償版の2種類があり(表1)、サポートと使えるオプション機能が異なる。無償版を使って動作確認などができ、導入前の検証に利用することもできる。一方、拠点用NASとして導入する場合は、有償ライセンスを購入することになる。

表1. Isilon SD Edge ライセンス種類

Isilon SD Edgeは、VMware vSphere環境にインストールして利用し、内蔵ディスクを搭載したvSphereサーバに対して仮想アプライアンスを展開する。それがIsilonのノードとなるのだ。物理アプライアンス同様に3ノードが最小構成となる。小規模をターゲットとしているため、最大物理容量は36TBまで、最大ノード数は6ノードまでとなる。例えば、1ノードで物理容量12TBの場合は3ノード、1ノードで6TB以下の場合は6ノードまで構成できる。

Isilon SD Edgeは、物理アプライアンスと同様の機能を持つ。例えば、本社に導入した物理アプライアンスのIsilonと拠点のIsilon SD Edgeとの間でレプリケーションするなどの連携が可能だ。また、IT管理者は本社のIsilonと同じ管理画面でIsilon SD Edgeを管理できる。

まず一旦は、Isilon SD Edgeを利用してファイルサーバを分散配置し、本社側とレプリケーションをしておくことで、将来的に支社・支店の再編や統合、回線コストの低下が進んだ際に、本社設置のIsilonをデータ移行することもなく、全社統合NASとして活用することができる。そのために容量や性能を増強したい場合は、Isilonであればノードを追加するだけで、企業状況やIT環境の変化に柔軟に対応できる。

企業には欠かすことができない社内ファイルサーバ。少し長い目で見たファイル共有環境を検討してみてはどうだろうか。SDSを活用できる場面がきっとあるはずだ。次回は、Isilon SD Edgeの導入について紹介する。

EMCジャパン株式会社
システムズエンジニアリング本部 プロダクトソリューション統括部 アイシロンソリューション部 シニアシステムズエンジニア
今本圭二