オリオン座。3つ並んだ星「三ツ星」が目印の、冬を代表する星座でございます。ベテルギウスはそのオリオン座に2つある1等星の1つで、オレンジ色に明るく輝く天体です。東京や大阪の都心でもよく見えます。で、このベテルギウスがヤバイと2019年末くらいから天文ファンがザワついています。1ヶ月の間に明るさが半分以下に落ち込み「歴史的な暗さ」になっているんですな(それでも明るいのですが)。「ベテルギウスがヤバイ」今回はそんなレポートでございます。

  • ベテルギウス

    オリオン座。オレンジ色に輝いている天体がベテルギウス (C)zz_mizu/写真AC

星の明るさは色々です。都心でも見える明るい星もあれば、天の川も見える満天の星でようやく確認できる暗い星もあります。特に明るい星を1等星、肉眼でかろうじて見える暗い星を6等星として明るさを表す慣習があり、2世紀のアルマゲストという書物で広がりました。2000年近くもの長い歴史があるので、現在でも天文学者はこの尺度を使っています(可視光線と紫外線と赤外線以外の観測ではどうせ人間の目では見えないので使っているのを見たことないですけどね)。

もちろん、望遠鏡を使って光を集めれば6等星より暗い星が見えるので、7等、8等…の星もありますし、科学的に使うのには6ステップでは不便なので、小数点をつけて、2.27等としたり、マイナス符号をつけたりもします。太陽は無理くり当てはめるとマイナス26.74等で、満月は平均的にはマイナス12.74等です。1等差が約2.52倍、5等差がちょうど100倍という規定があり、太陽と満月は14等差なので、5+5+5−1等差ですから、100倍の100倍の100倍の2.52分の1でざっと40万倍の明るさの違いがあるってことになりますな。

まあ、「1等違うと結構、差がデカい」ということが言いたいのでございます。

ところで、ベテルギウス(Betelgeuse)は1等星ですが、ケラーさんという有名な天文学者が作ったカタログを見ると、0.50等級で21個ある1等星の恒星の中で、10位の明るさでございます(太陽を入れると11位)。

ところが、2019年10月から、ベテルギウスの明るさがズルズルと暗くなり、2020年1月5日時点では、AAVSOという星の明るさのモニター観測をするアマチュア天文学者中心のネットワークの情報では、1.4等~1.5等と1等星の最下位の21位まで落ちているのでございます。というか、1.5等の観測もあり、これは2等星にランク落ちしたということに当たるんですね。下の図は、AAVSOに参加する観測者のデータから作成したグラフです。縦軸が明るさ(等)横軸が日付ですね。平素から明るさの変化はあるんですが、今回は異常で過去50年でここまでベテルギウスが暗くなることはなかったとのことです。

  • AAVSO

    AAVSOに参加する世界中の観測者によるベテルギウスの明るさの変化。現在異常に暗い

ということで「一体何が起こっているんだ」と、天文ファンがざわつき始めています。12月27日付けのCNNニュースでは「オリオン座のベテルギウスに異変、超新星爆発の前兆か 天文学者」というニュースを配信しています。これは日本語なので読んでくださいませー。ヤバくないと思うけど、まあ、何が起こるかわからんね。というのが天文学者の答えなんですが、タイトルではセンセーショナルに煽ってますね(細かな数字が私と違うのは、情報のソースや見方がちょっと違うからで、あまり気にしないでくださいねー)。

また、より専門的には米国の天文雑誌「SKY&TELESCOPE」の電子版で、12月31日付で「What's Up With Betelgeuse?」(ベテルギウスに何が起こってるんだ?)という記事を掲載しています。英語なのでザックリ訳して紹介します。さすがに良い解説ですのでできれば原文を読んでください。

ベテルギウスは、脈動変光星で、赤色超巨星に当たる。この星は、周期的に(心臓が脈打つように)膨らんだり縮んだりしており、膨らんで表面温度が下がると暗くなる。膨らむと木星の軌道に達するほどである。ベテルギウスの質量は太陽の20倍ほどなので、その外側はスカスカで、地上の空気の1万分の1の密度しかない。

ベテルギウスは、半規則的に明るさを変えていて、大体425日の周期で変化する。ただし他に100~180日の周期と5.9年の周期の変化も知られている。これらの変化は巨大な黒い斑点(太陽だと黒点のようなもの)と、星の一部が上昇したガスで膨らんで明るい部分になっていることが関係している。これは、ベテルギウスが燃料を使い尽くす直前のフェイズに入っていることを示している。

ベテルギウスは実際、明るさにムラがあります。ブラックホールの撮影成功にも一役買ったALMA望遠鏡でもベテルギウスの精密観測が行われていますが、それによる画像は下の通りです。星の一部が異常に明るくなっていることが分かりますなー。

で、燃料がなくなると、星は一気につぶれ、超新星爆発を起こして、猛烈に明るくなる(マイナス10等くらい)ことが予想されています。まあ向こう10万年以内には。ただし、そんなに精密には予想ができません。

ということで、CNNニュースのように、すわ、超新星爆発が本気の本当に近づいているんじゃね? という話になるわけなんですが、SKY&TELESCOPEではもう少し冷静な解説が続きます。

AAVSOの観測データは1893年から! あるのだそうですが、今回の暗くなり方は、過去最も暗い。また、米国のVillanova Universityの天文学者でベテルギウスの研究をしているEdward Guinanらは「今回のベテルギウスの暗くなり方は、5.9年周期と425日周期の暗くなるのがちょうど重なったことによる「スーパーミニマム」である。ぜひ、この珍しい状況を観測してほしい」

実際に5.9年周期が効いて、1979年、1988年、2008年にはひときわ暗い時期があります。ただそれよりも今回はもう一段暗いのでございます。

なお、今回の暗くなり方は、可視光線で激しく、赤外線だとそれほどでもないそうです。ベテルギウスが暗くなる=温度が低くなることによって、可視光線をよく吸収する酸化チタンが発生しているためという指摘もあります。そんな効果も重なっているというのですね。

ということで、ベテルギウス・ウォッチャーにとっては、超新星爆発の前兆じゃないけど、ちょっと珍しいこと(で1月半ばに底を打ちそう)ということなのです。

SKY&TELESCOPEの記事にもあるように、ベテルギウスはよく見えますし、iPhoneのようなスマホでもちゃんと撮影できます。ぜひ、この珍しいベテルギウスが頼りないオリオン座をチェックしてください。2ヶ月後には明るく戻っているはずですので

なお、「もし」超新星爆発を起こすと、ベテルギウスは昼でも確認できるほどになりますが、2年もするとほぼ見えなくなってしまい、オリオン座の形が完全に変わることになります。それは、ざっくり向こう10万年以内のいつかなのです。

まあ、しかし、夜空にはひそやかにいろいろなことが起こっておりますね。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。