"首にかけるエアコン"として、富士通ゼネラルが6月からまずは商用向けのレンタルでの提供を開始した、「Comodo gear(コモドギア、最初のoにアキュート付き)」。水冷式を採用したエアコン同様の仕組みで、炎天下でも動作するクーリングギアとして、一般消費者向けのモデルの登場への期待も高まる。

プロジェクトの発端から初期段階における課題と挑戦など、開発プロセスにおける前半のお話を中心に伺った前編に続き、後編では開発期後半から実用化、次期モデルや将来の展望についてのお話を、開発、およびデザイン担当者の2名に伺った。

  • 富士通ゼネラルの「コモドギア(Comodo gear)」。着るエアコンとして話題に

    富士通ゼネラルの「コモドギア」。放熱に水冷式を採用した、身に着けることができる本格的なエアコンだ

何より「ウェアラブル」でなければならない

身に着けて使用する製品上の性質上、本体の小型軽量化が求められるコモドギアは、主に首に巻き付ける冷却部と、腰に装着するラジエーター部の2つのユニットから構成される。しかし、装着スタイル以上に苦労したのは、首へのフィット感と快適性の両立だったという。デザインを担当した、富士通ゼネラル デザイン部の松本翔吾氏は次のように振り返った。

「動きまわっている中で、せっかく冷やしている部分が離れてしまったり、身体への追従、フィットというのが一番の課題でした。後ろにベルトで留める方式をはじめ、モックアップの試作機をとにかくいろいろと試す中で、ある時思考のジャンプアップがあったんです。それが今の形なんですが、冷却部の3点をグルっと一周するフレームとチューブを回すフレームの2つに分けて下肩で支えるという方法。とはいえ、そこからも、支えている部分は柔らかい材質でありながらも形はしっかりと保持できるような太さとか、量産に向けて詰めていきました」

  • コモドギア装着時の体表面のサーモグラフィー。単に冷たいことが=快適とはならず、温度制御やフィット感なども重視して開発された

また、この構造の発想が意図せずも軽量化にもつながったという。「チューブを回すことで無駄に中で往復させずに済むので、結果的に軽量化にもつながりました。ただし、チューブを首の後ろ側から通しているので、実際に試用してもらうと、作業着の襟の部分で隠れてしまったり、もたついてしまうことがわかりました。付ける場所を変えたりして、襟のある作業服にも対応したチューブ位置を最後まで試行錯誤しましたね」と語る。

ウェアラブルな装置であることから、ファッション性も強く意識されている。「実際に現場で労働に携わる方々を見ていると、アスリートそのものだなと感じました。そこで、スポーティーなイメージでデザインしています。単純に"かっこいいな"と思えるもの。プロのアスリートが使う、選び抜かれた道具というイメージで、身に着けることで"やるぞ!"とスイッチが入るようなデザインにしたいと。"ソーシャルアスリートギア"と設定したんですが、色もさまざまに検討した結果、プロっぽさを強調しようと、黒を基調としたシックでダークな感じに仕上げました。質感も汗をかいてもベタつかないサラっとした素材を選定し、できる限り使う方の身になって検討しました」と松本氏。

気になる一般個人向けの製品展開は?

現在はまだ商用向けにレンタルでの提供のみだが、今後は個人向けの展開も当然視野に入れているとのこと。一般発売に向けた、現時点における課題は「個人向けとなると、プロ向け以上に小型化が一番の課題になると思っています。すべての機能が1個になることが求められると思います」(松本氏)と話す。

同社ウエアラブル事業部の佐藤龍之介氏によると、一般向けの開発は商用向け以上に慎重に進める必要があるという。その理由を次の様に説明する。

「一般のコンシューマー向けを考えると、商用向けに比べて一気にターゲットが広がることになります。商用向けとコンシューマー向けはまったく別商品の開発になるといっても過言ではありません。現場作業者向けはターゲットをしぼっているのでやりやすいのですが、コンシューマ向けは1人1人ユーザーの十人十色なニーズに対してどこまでそれを満たすのか? それを考えると、積極的な気持ちな反面、怖いところもありますね」

ただし、個人向けには商用向け以上の期待感もあるという。「自分の意志で購入する個人向け商品の場合は、購入する理由をユーザー自身が発信することになります。そういう意味では、昔の携帯電話がそうであったように、"つけていることがカッコいい"みたいな、ある種のブランド感覚で、仮に多少の不便があっても受け入れられるのではないかという期待もあります。失敗を恐れずにチャレンジして、より多くのユーザーの声に応えていきたいです」と続ける。

今度は暖房? 早くも次期モデルの計画

また、第二弾モデルとして、暖房への切り替えも可能な製品を来年をメドに発表予定とのこと。「暖房機能は、技術的にはシンプルで既に実用化はできる段階です。ただ、冷房と同様に、使う人によってどのような快適さを目指すかも変わってきますので、今年の冬にフィールドテストを行った上で仕様を決めていきたいと思っています」と佐藤氏。

以降も、スマートフォンとの連動や、バイタルセンシング機能の追加、サービスの拡大も視野に入れて開発を進めている。これらは「既に試作機自体はあります」とのことだが、「いずれもテストの段階」だそうだ。「安全性の確認はもちろん、医療機器ではないため、医師などにも意見を聞きながら、製品としての立ち位置をどうするかなどを検討していきます」と続ける。

全体のビジョンとしては、「個人個人の快適に合わせる"オーダーメイド快適"の自動化」を目指すとする本製品。将来に向けたロードマップとしては、技術の追求よりも「そのために何をセンシングし、連携するか」といった仕様の取捨選択の段階にあるようだ。

  • スマホ連携のイメージ画。心拍数や体温などバイタルセンシング機能と連動した、パーソナルな快適制御を追求していく

ちなみに、コモドギアという名称の由来は、ラテン語の"コモド"(=快適にするもの)に"ギア"を組み合わせたもの。佐藤氏によると、ギアは装備としての意味の他に、歯車のギアの意味も掛け合わせているという。製品にかける想いについて、佐藤氏は最後に次のように続けた。

「"ギアを入れる"="仕事モードに入る"という意味合いも持たせています。コモドギアを身にまとうことで、気持ちを変化させるという、"働き方の提案"にもなればと思っています」

  • 富士通ゼネラル デザイン部の松本翔吾氏(左)と、ウエアラブル事業部の佐藤龍之介氏(右)