"首にかけるエアコン"として富士通ゼネラルが5月末に発表した「Comodo gear(コモドギア、最初のoにアキュート付き)」。警備業や建設業、工場、イベント会場といった炎天下をはじめ、空調が届かない環境での作業が必要となる業種向けに、6月から商用でのレンタルを開始している。

今回は、話題となった本製品の開発経緯から仕組み、デザイン上のこだわりなど裏話を、開発担当者とデザインを務めた2人の担当者に直撃した。

  • 富士通ゼネラルの「コモドギア(Comodo gear)」

    富士通ゼネラルの「コモドギア」。首回りに冷却部を装着し、頸動脈を流れる血液を冷やすことで身体の深部までしっかり冷却できる"ウェアラブルなエアコン″として、6月から商用向けにレンタルを行っている

血液を直接冷やす冷却システム

コモドギアは、大きく冷却部と、ラジエーター部の2つのユニットから構成される。冷却部はネックバンド型で、首の周りに装着して頸動脈を流れる血液を狙って冷やし、体の芯からしっかり冷却することができる。ラジエーターはリチウムイオン電池を内蔵し、冷却部とはチューブで接続されており、腰部に取り付けて使用する。

  • 本体はネックバンド型の冷却部と、腰に備えるラジエーター部の2つのユニットから成る

冷却部に搭載するサーモ・モジュールが、体表面から奪った熱を冷却液でラジエーターへと運び、ラジエーターから大気中へと放熱するという仕組みだ。この放熱方式は、エアコンで言うとちょうど室外機の熱交換器と同じような働きをしている。ネックの冷却部とラジエーター部はチューブで繋がっており、内部を冷却液として水が循環している。

ここ最近、ウェアラブルなクーリングデバイスが各社から相次いで登場しているが、本製品が"着るエアコン"と呼ばれ、他と一線を画しているのは、このような"水冷方式"を採用しているためだ。本製品が他と異なり、秀でているポイントについて、開発を担当した、富士通ゼネラル ウエアラブル事業部の佐藤龍之介氏は次のように説明した。

  • 頸動脈と接する3点を小型のペルチェ素子によって狙って冷やす仕組みだ

「水冷式を採用したことで、高温環境下でも高い放熱性が期待できます。似たような仕組みのものとして、ファンで風を送って放熱を行う"空冷式"もありますが、水で狙って冷やす水冷式の方が一般的に放熱性が高く、外気温の影響をあまり受けないので、35℃の気温下であっても、冷却部温度を外気温から約マイナス10~15℃で冷やすことが可能です。屋外で本格的に冷やそうとなると、放熱方法として水冷式が必要とされるのです」

しかし、水冷式を採用するには超えなければならない2つのハードルがあるという。「空冷式に比べて水冷式は部品が大きく構成も複雑になるため、小型化が難しくなります。仮に小さくて使いやすくなったとしても効果が続かなかったり、簡単ではありません。本製品は効果の持続性とデザイン性をうまく両立させていることが他と違うところだと思います」とデザインを担当した、同社デザイン部の松本翔吾氏。佐藤氏も「コンセプトはあっても、実際にやるとなると技術的になかなか難しいんです」と補足する。

  • 冷却部とラジエーター部をつないでいるチューブの中は冷却水が循環。体の表面から奪った熱を水冷式で狙って冷やすため、外気温の影響をあまり受けずに冷却できるのが特長だ

発端となった「持ち歩く快適」というアイデア

「コモドギア」は、2016年11月に社内に設置された「Being Innovative Group」による開発プロジェクトの製品化第一弾として計画され、今回の実用化に至った。以前は国内のエアコンの開発事業を担当していた佐藤氏は、新規事業の創出をミッションとする部署のメンバーの1人としてプロジェクト発足当初から参画し、調査目的でさまざまなメーカー展示会を巡るうちに、"個人の快適"に着目するようになり、その中で出会った技術が、WINヒューマン・レコーダー社のウェアラブル電子制御冷暖房装置「ウェアコン」だったという。

「ウェアコンは、"快適環境を身に着ける"という発想の電子デバイスで、WIN社はコモドギアのベースとなる技術を当時既に開発していました。これに、WIN社の板生清東大名誉教授が長年研究されていた人体に関する医学的な要素(人間情報)と技術を組み合わせることで、弊社での商品化を目指そうという話になりました」

その後、2018年秋に開催された情報技術の大規模な見本市「CEATEC JAPAN」で、まずはコンセプトモデルを発表した。ネッククーラーで"個人の快適"を持ち歩くという新たなアイディアは、社内外で予想以上の反響を呼び、以降プロジェクトが加速していったという。そして、翌年の2019年夏の段階からは、さらに改良した開発機で現場でのフィールドテストを重ね、そこで集約した意見を反映させてブラッシュアップを積み重ね、このたびの実用化まで一気にたどり着いたとのこと。

  • 「CEATEC JAPAN 2018」に参考出展されたモデル。現在のネックバンド式の原型となるタイプの他に、耳掛け式や肩にかけるタイプなども展示された

今回商用化された製品は、CEATECで参考出展されたコンセプトモデルに比べると、実はその姿が大きく様変わりしている。「CEATECで展示した試作機は、ベルトのような平らなスカーフを首の周りに巻き付ける仕様でした。しかし、コルセットのように首が固定されていて、冷えるけれど首が凝る、という声がありました。密着させるという機構に着目しすぎるあまりに、2次元的な動きしかできず、複雑な首の動きに追随することができなかったのです。もちろん、ウェアラブルな冷却装置という価値をまずは提示したいと思ってはいたのですが、着け心地という観点が抜け落ちていたことに気付きました」と佐藤氏は振り返る。

  • CEATECからおよそ半年後の2019年7月に開催された「国際モダンホスピタルショウ 2019」で出展されたモデル。CEATECモデルからカラーリングも変わり、最終形に一歩近づいている

さらに、製品化された最終形のモデルでは、その制御方法にも変更が加わった。「最初の段階では、単純に冷やしていただけだったのですが、試用を続けるうちに、"冷たさ"と"気持ちよさ"というのは別の次元の感覚であることがわかってきました。はじめは単純に冷却感が強く、持続するというのを第一に考えていましたが、現場作業者の方々から同じ温度だと次第に感覚がなくなってきてしまうという声をいただいたので、なるべく気持ちよく冷やすということに視点を変えていきました」」と佐藤氏。そこで、最終的には、ダイヤルで好みの温度帯を4段階から選択した上で、自動で温度調整を行う仕様が採用された。

開発の後半は、まさに"ウェアラブルデバイス"としての快適性や装着性の追求へと方向性も変化していったとのこと。ネックの冷却部と腰のラジエーター部の分割構成が採用されたのも同じ理由からだ。佐藤氏によると、ネック部にラジエーターを一体化することも検討されていたそうだが、「サーモ・モジュールの放熱方法に水冷式を採用すると、製品の構成上、小型軽量化が課題になるという結論に至りました。首にかけるものなので、バランスも考えなければなりません」と話す。松本氏も「一体にはできないという結論になって以降も、ラジエーターを腰に装着するのではなく、肩にかけるといった方法なども検討しました」と明かす。

  • 富士通ゼネラル デザイン部の松本翔吾氏(左)と、ウエアラブル事業部の佐藤龍之介氏(右)

後編ではデザイン面での挑戦や、今後の展望を訊く

"着るエアコン"として登場した、富士通ゼネラルのコモドギア。この前編では開発経緯から初期における課題とその解決策など、開発プロセスにおける前半のお話を中心に伺った。続く後編では、より実用的なレベルでの製品化への道のりや、ファッション性を意識したデザインへのこだわりと挑戦、次期モデルや今後の展望を含めた将来的な方向性について語ってもらう。