バルミューダから3月に発売された空気清浄機の新製品「BALMUDA The Pure」(以下、The Pure)。同社の空気清浄機と言えば、2012年に「JetClean」、2013年に「AirEngine」が発売されてきたが、今回はその後継機とも言うべき製品だ。
常にベストな形で完全なる"完成品"として製品を世に送り出すことをポリシーとしてきた同社が、同じカテゴリーの製品をこのようなかたちで発売するのは異例となる。今回は、発売に至る経緯や、新製品でのこだわりのポイントについて、デザイン面を中心に伺った。
タワー型の開拓者が挑んだ「最高の性能」
「もともとは、後継機種という立ち位置ではなかったんです。2013年にAirEngineが発売されて以降、空気清浄機の技術の大枠が確立できているので、もっといいものだったり、もっと他の価値を提供できるのではないかということで開発がスタートしました」と明かすのは、マーケティング的な観点から商品企画と開発の統括を担当した、同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの坂元宏範氏だ。
そうした発端の中で、製品はデザイン、機構・設計の担当者がそれぞれに技能を追求していき、ある時点から今のかたちに切り替わり、一本化されていったのだという。
空気清浄機が世に広まり始めた2012年、2013年から既に月日が経ち、市場が成熟してきた中で、バルミューダとして新たに目指した、“今”の最高の形の空気清浄機。至上命題として掲げられたのは、第一に性能のアップだ。
一般論として、空気清浄機の性能のカギを握るのは、ファンとフィルターの大きさ。単にファンやモーターのサイズを大きくすれば済むことではあるが、AirEngineがユーザーから大いに受け入れられた理由のひとつには、タワー型で設置スペースを取らない、そのサイズ感と形状がある。
フィルターとファンを垂直方向に積み上げた構造のタワー型の空気清浄機は今では珍しくはないが、その元祖はJetClean、AirEngineだ。いわばバルミューダの空気清浄機の象徴と言ってもいい部分。デザイナーとして、The Pureのクリエイティブ・消費者目線での意匠設計を担当した、同社クリエイティブ部マネージャーの高野潤氏は「デザイン面ではAirEngineの意匠が引き継がれました」と語る。
そこで、新製品の開発で大きな課題となったのは、本体のサイズ・形状を保ったままで性能を上げること。物理的にはそのままでは相容れない要素を両立しなければならない上に、The Pureでは、従来は2つ装備されていたモーターが1つになった上で性能を上げるという難題が課せられた。その結果、採用されたのが"整流翼"という部品だ。航空機のジェットエンジンでも採用されている技術を流体力学に基づきThe Pureのために応用、再設計された。
「文字どおり、風の流れを整える翼で、下から吸った空気を真上に押し上げることで風量をアップさせることができる、The Pureの技術面ではとても大事な部分です。デザインが決まっている中で、特にヒントがあったわけではなく、性能を上げるにはどうしたらいいのかを考えていろいろと文献などを漁って絞り出してきた方法なんです」(坂元氏)
機器の「中」まで美しく仕上げるこだわり
The Pureでは、空気の吸込み口の機構やフィルターの構造も、AirEngineとは異なる仕組みが採用されている。
AirEngineでは、本体下方の両側面にある無数のパンチ穴から吸い込んだ空気を筒状のフィルターでろ過する仕組みであったのに対して、The Pureでは、本体の下部に設けられた、前後の吸気部から空気を吸い込んだ後、プレフィルター、集じんフィルター、脱臭フィルターの三層から成るボックス状のフィルターでろ過して、浄化する。
「フットプリント(設置面積)を変えずに、性能を上げるという制約がある中で、フィルターとファンのサイズは本当にせめぎ合いでした。そんな中、空気を垂直方向に一直線に吸い上げるという方法のほうが、空気の流れに対してごく自然な構造で効率がよいということから、今回の仕組みと構造が採用されました」と話すのは、機構・設計を担当した、同社商品設計部機構設計チームの岡山篤氏だ。
ファンとフィルターの仕様の変更は、性能面の向上だけでなく、メンテナンス性の改善にも関与している。
「AirEngineでは、フィルターを交換する際にカバーが外しにくかったり、ひと手間かかってめんどうだといった声も一部でありました。そこで今回は、ユーザーが迷わないで使うことができ、かつ容易に交換できるように、背面のハッチを開けるとそのままフィルターに手が届き、引き出すだけで簡単に交換できるように、フィルターへのアクセスを極力シンプルにしました。ファンやガード、整流翼といったホコリが溜まりやすい部品は、いずれも取り外して水洗いすることが可能で、外す際もガードを回すだけにしたりと、極力ユーザーの負担を減らすように工夫しています」と岡山氏。
デザイン上のこだわりは、内部の構造にまで抜かりがない。
「バルミューダのファンの方は、ガジェット好きな人も多く、中を分解したりするのが好きなんです。なので、開けられることを前提に、例えば部品感が出ないように外からはネジが見えないようにしたり、光の反射を考慮したシボ加工を施したり、中の構造までかっこよく見せるよう細かい部分1つひとつまで作り込んでいるんです」(高野氏)
およそ6年の時を経て刷新されたバルミューダの空気清浄機。前編では、リニューアルに至った経緯や、見た目の印象を大きく変えることなく性能アップと使い勝手を改良されたポイントについて紹介した。次回後編では、新たな要素として加えられた進化について語ってもらう。