パナソニックから2月21日に発売された「AIR PANEL LED THE SOUND」。LEDシーリングライトとスピーカーが合体したユニークな製品だ。

LEDシーリングとして調色や調光ができるのはもちろん、Bluetooth経由でスマートフォンと連携することで、スマートフォン内の音楽を再生できる。また、ワイヤレス送信機同梱タイプは、ワイヤレス送信機と通信することでテレビの音を流すこともできる。

  • 2月21日発売のパナソニックの「AIR PANEL LED THE SOUND」。LEDシーリングライトとスピーカーを合体化させた画期的な商品。天井に取り付けて空間をスタイリッシュに見せる

光とともに天井から音が降り注ぐように流れるというのは、これまでにはない感覚の体験だ。そこで今回は、同製品の開発やデザインに携わった2人の担当者に、製品のコンセプトをはじめ、開発プロセス、デザイン上のこだわりについて話を伺った。

LED部門の企画・開発担当者を務めた、パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部コンシューマ商品企画課の居相徹氏(左)とデザイン担当の同社デザインセンターの速水拓氏(右)

同製品の開発は、およそ2年前の2016年に遡る。2016年10月に、パナソニックは「AIR PANEL」シリーズと呼ばれるLED シーリングライトを発売。AIR PANEL LED THE SOUNDは同シリーズの角型タイプ(2017年9月発売)をベースに、同社のBluetoothスピーカーを搭載したものだ。

しかし、この製品は、シーリングとスピーカーのどちらを出発点として生まれたものではないという。「生活シーンからの発想で、どちら側が先というわけではない。パナソニックとして、事業を横串に新しい住空間の価値を提供できないか? と考えた際に辿り着いたのが、あかりと音の融合でした」と語るのは、主にLEDシーリング側の企画・開発部分の担当者を務めた、パナソニック エコソリューションズ社ライティング事業部コンシューマ商品企画課の居相徹氏だ。

製品開発の初期の段階での課題は「組み合わせをどうするか? 」。最初の時点では、すでにあるものを合体させただけのものだったそうだが、真っ先に問題となったのはやはりスピーカーの音質。というのも、スピーカーの音質を直接的に左右する要素は"容量"になるが、天井に取り付けるシーリングとしての機能を満たすために大きくはできないからだ。主にLEDシーリング部分のデザインを担当した、パナソニックエコソリューションズ社 デザインセンターの速水拓氏は次のように苦悩を明かした。

「音をよくするために、スピーカーの担当側は当然容量が必要だと主張します。そこで、なるべく小型軽量で音のいいスピーカーにしようとプロトタイプを作っては実験を繰り返しましたが、何個作っても納得のいく音にできませんでした。またシーリングライトとしても十分な機能を満たす必要があります。理論上はうまくいきそうだと思っても、光の漏れ方やスピーカーとのバランスは実際試作品を作って見てみないことには結果はわからないという状態で、それぞれ単体の製品を作るのに比べるとはるかに手間がかかりました」

スピーカーとLEDシーリングライトを合体させることにより、単体での製品では検討する必要のない要素も克服しなければならなかったという。特に、LEDシーリングライトは天井の照明用配線器具にワンタッチでの取り付けが必至となる。配線器具の耐荷重は5キロまでのため、重量を抑えつつもスピーカーを装備しなければならない点が特に難しかったと話す。

AIR PANEL LED THE SOUNDには、最終的にLEDシーリングライトの両サイドに2つのスピーカーが搭載された。3×9センチのコーン型ユニットで、新たに設計されたバスレフポート(低音域の増幅器)を内部に備え、コンパクトでありながらも低域を増強することでバランスのよい音質を実現。また、ネオジウムマグネットと呼ばれる素材を採用することでグラム単位の軽量化と磁気回路の増強を図り、クリアで広がりのある音響効果を達成したとのことだ。

  • AIR PANEL LED THE SOUNDのスピーカー部分。小型軽量のために新たに開発されたスピーカーユニットとパスレフポート孔から主に構成されている

AIR PANEL LED THE SOUNDは、単なるLEDシーリング一体型スピーカーではない。サウンドが天井から降り注ぐように広がるという、これまでにないユーザー体験を提供しているのも特長だ。

というのも、通常の置き型スピーカーの場合は、正面に向かい合った場合を想定して再生される音の設計がなされる。そのため、一般的にスピーカーの中心から左右にずれたり、離れるほどに音圧が弱まる傾向にある。

これに対し、AIR PANEL LED THE SOUNDは天井から音が降り注ぎ、部屋全体へと広がるように設計されている。部屋のどの位置に居ても、聞こえ方に違いが少ないのだ。簡単に言うと、"指向性スピーカー"の逆のようなもので、スタジオにいるかのように、どの位置からでも同じように聞こえるという特異なスピーカーだ。

  • スピーカーユニットには、ネオジウムマグネットと呼ばれる素材を採用。グラム単位の軽量化を目指すとともに、磁気回路の増強が図ら、重量の問題と音質を両立させることに

居相氏によると、AIR PANEL LED THE SOUNDでは、平均的な大人がソファに座った際の耳の高さとなる1.2メートルに近いほど、音が広がる設計がされているそうだ。さまざまな検証の結果、スピーカーの取り付け角度は12.5°で、厚さ99ミリというのが、極力薄く小型軽量でありながらも最も部屋全体に音が広がる条件となったといい、それに合わせてスピーカーの設計がなされたのだという。また、天井に取り付ける製品である限り、集合住宅などの場合には、上階に音を響かせてはいけない。「音が響かないかということも含めてしっかり検証しました」と振り返る。

  • AIR PANEL LED THE SOUNDは、360°に広がる音の体験と3方向の照らし分けによる、空間演出の新たなユーザー体験を提供することをプロジェクトの軸として開発が進められた

AIR PANEL LED THE SOUNDで再生した音や音楽を実際に体験してみると、スピーカーは左右2チャンネルだが、それぞれの音がオーバーラップするように聞こえるのも特長だ。モノラルでもサラウンドシステムでもない、かつて経験したことのない音の聞こえ方だ。

「天井から聴こえるという360°スピーカーなので、そもそも左右のチャンネルという概念がありません。しかし、音のソース自体は左右に分かれています。この部分はスピーカーの担当チームがとても苦労した部分で、デジタル的な信号処理によりミキシングをうまく行い、最適化が図られました」と居相氏。速水氏も「オーディオ製品も手がけているメーカーとして、"パナソニック"のオーディオとして恥ずかしくないものを出さなければならないという意気込みがありました」と付け加えた。

一方、外観上のデザインについては、部屋のインテリアの一部を成すLEDシーリングライトとして洗練されたものでなければならない。AIR PANEL LED THE SOUNDの原型となった「パネルシリーズ」には、丸形や三つ葉のクローバーのような3枚パネルのタイプなどもラインナップするが、速水氏によると、角型タイプが採用されたのは実空間への"なじみやすさ"を最優先させたためだという。

  • 2枚のパネルとセンター光で3方向に照らし分けが行えるAIR PANEL LED THE SOUND。色味や明るさと方向の組み合わせで、1つの部屋に居ながら照明により気分や目的に合わせて、生活空間の雰囲気やムードを変えられる

「他のタイプもそれぞれに人気があるのですが、どんな部屋やインテリアにも溶け込むスタイリッシュさという点では、スクウェアフォルムが最適だということで選ばれました。同じように、スピーカー部分に関してもある程度"アイキャッチ"でありながらも、目立ちすぎず、違和感なくすっきりとなじませるかでいくつものパターンを作って試行錯誤を繰り返しました」

AIR PANEL LED THE SOUNDは、生活シーンに対して「新たな空間価値を創造する」というのが製品開発の原点にある。スピーカーから流れる音とともに、照明器具としては、2枚のパネルとセンター光で3方向に照らし分けることができるなど、シーンに合わせた空間演出やパーソナライゼーション機能を提供する製品でもある。

そういう意味では、これからの日常生活の在り方を変える発明品とも言える。また、白物家電の1つである照明器具と、黒物家電の1つであるオーディオ機器を単に利便性のためだけに一体化させたのに留まらず、それぞれの潜在的な魅力を新たに掘り起こすことを成功させた。総合電機メーカーとして長年の実績を持つパナソニックだからこそ具現化できた製品とも言える。