アクアが10月6日に発売した「AQR-SBS48K」。「Side by Side(Side by Side)」スタイルと呼ばれる、右側に冷蔵室、左側に冷凍室を配置した冷凍冷蔵庫だ。欧米では定番のレイアウトであるものの、日本では珍しい。Side by Sideはアクアが2017年から展開しているモデルなのだが、新製品の登場で改めて脚光を浴びている。
プロダクトデザインの視点で注目すべきポイントや、初代モデルから最新モデルへの経緯などを、アクア 商品本部 冷蔵庫企画グループ ディレクター 山本陽護氏に伺った。
コロナ禍で一躍注目、左半分がすべて冷凍庫のSide by Side
アクアは旧三洋電機の冷蔵庫・洗濯機、掃除機事業を源流に、2011年にハイアールグループとなり、2012年から「AQUA」のブランド名で国内事業を展開。山本氏によると、2015年ごろからSide by Sideの冷蔵庫を日本にも投入することを検討し、市場調査を開始した。
「ハイアールグループが世界中で販売しているグローバルモデルの中で、日本市場でも受け入れられやすいモデルではないかと、Side by Sideに目を付けて検討を始めました」(山本氏)
日本の冷蔵庫市場における標準の仕様や機能、日本の消費者の好みなどを調べた結果を踏まえ、「カラーや質感、性能といった要素を中心に日本向けにカスタマイズした」上で、2017年に日本ではじめて発売。山本氏は「大々的に発表したわけではなかったのですが、発売後は、一定の手応えがありました。以降も1年に1回のペースで、マイナーチェンジをしながらも販売を続けてきました」と振り返る。
そうした流れの中、2020年はそれまでの約2倍もの販売台数を記録した。
「コロナ禍によるステイホームで生活スタイルが一変し、ニーズが変わってきたのだと思います。リーズナブルな価格が受け入れられているところもあるでしょう。欧米スタイルに憧れがある人のみならず、大容量冷凍室と整理整頓しやすい構造が、日本人にマッチしているのだと思います。SNSで火がついて、それ以降人気が一気に高まりました」と分析する。
省エネをはじめ、日本市場で求められる要素を強化
2017年から国内展開しているSide by Sideだが、従来モデルには難点もあった。
「もとはグローバルでずっと展開していたモデルということもあり、これまでの設計では日本の2021年省エネ基準を満たすことができなくなっていました」と山本氏。そこで中国本社と交渉し、大幅なリニューアルに向けて、開発がリスタートすることになった。
「発売から2020年までの実績によって、日本でも人気があると証明されていたこともあり、(本社サイドも)理解を示してくれ、省エネ化モデルを作ることになりました。
これ以前に、プロダクトデザイナーの深澤直人氏と手を組んだTZシリーズの開発を日本でやっていたことも大きかったですね。AQR-SBS48Kの省エネ開発は日本のR&Dが担当しているのですが、同じくグローバルモデルであり、大容量冷凍室を持つTZシリーズの開発でつちかった省エネ性能の技術が活かされています」(山本氏)
こうして、従来モデルでは年間消費電力量(50/60Hz)が400kWhだったのを新モデルで300kWhまで削減し、2021年省エネ基準達成率100%を実現した。
「Side by Sideは冷凍室が大きいので、やはり省エネ的には不利です。旧モデルと新モデルで見た目はほとんど変わっていないのですが、外観ではわからないところはほぼ新規設計と言ってもいいほどやり直しています。ただ、ゼロから作るのではなく、海外のモデルを原型としてスピーディーにカスタマイズできるのが、三洋電機時代とは違うAQUAの強みですね」(山本氏)
山本氏によると、日本市場では同じ本体サイズでもより大容量を求められる特徴があるそうだ。そこで、今回の製品において、日本向けにアレンジ、カスタマイズするにあたり、容量も意識したとのこと。
「AQR-SBS48Kの外寸サイズは大きいので、日本メーカーの製品で同じくらいのサイズだと、総容量が500Lを超えるのが標準です。そこで、モデルチェンジするのであれば、できるだけ容量も確保したい。ただし、冷凍室の容量が多いSide by Sideは省エネ化するためには断熱性がより必要になってきます。
今回、容量が従来モデルよりも26L増えました。冷凍室は、600Lクラスの冷凍冷蔵庫の冷凍室に匹敵する192Lの容量です。断熱性を確保しながらも、壁を薄くするために真空断熱材(VIP)を使用するなど工夫しました。庫内の奥行は、奥まで手が届きやすいように約51センチとしました。薄型化にはTZシリーズでのニーズと知見が活かされています」(山本氏)
使い勝手を損なわないことも、もちろん重要な要件。性能や機能に関しても、日本のユーザーの暮らしに合わせて開発されている。
「住宅環境の違いもあり、中国と日本では求められるニーズも違う」のだとか。山本氏は、「中国本社に日本市場を説明するとき、Side by Sideは整理整とんを重視している人をメインユーザーとして見ていると話します」という。
そして、「野菜の鮮度保持機能」も日本のユーザーが重視するポイント。その点も独自設計を施した。
「日本仕様として、冷蔵室下部に野菜を収納するフレッシュボックスを設置し、AQUA独自の調湿フィルターを搭載しました。ボックス内の湿度が高すぎるときはフィルターが水分を吸収し調整。水腐れを防いで、鮮度保持性能を向上させています。冷蔵室内上部には脱臭フィルターも搭載し、冷蔵室内のニオイを減らします」(山本氏)
ステンレス調の外観デザイン、さりげないブラッシュアップ
外観のデザインは、これまでのダイナミックな意匠を残しつつ、日本のユーザーに合わせ、パッと見では気付かない程度にブラッシュアップされている。
「外観上は2017年に出したものと大きくは変わっていません。これまでのデザインのファンが多かったので、変えない方向になりました」(山本氏)
2017年に日本市場に初めて投入した理由のひとつには、「海外ドラマに出て来るような冷蔵庫」というイメージがあった。当時、デザイン上意識したことを次のように明かした。
「当時の冷蔵庫は高級機=ガラス扉のイメージで、ガラス扉が全盛期でした。Side by Sideは、ステンレス調に合わせてガラスにヘアラインを施したメタリックなデザインです。前面をガラスにしても、側面はガラスに色味を合わせた樹脂で仕上げることが多く、前から見るとカッコいいのに、横からだとプラスチック感が強く出てしまう難点がありました。色味や質感は、当時のトレンドに合わせて、昔の冷蔵庫のようにクラシックな、ステンレス調に近い風合いに仕上げました」(山本氏)
新モデルでは、「扉のフレームはアルミの素材が持つ独特の質感や光沢を残しながらも、前面のガラス扉には光の加減でニュアンスの変わるヘアラインをガラスに施し、高級感を加えた」とのこと。それに伴い、扉に設置されているコントロールパネルのLEDも、扉のデザインになじむ色味のものを採用した。
もう1つ、AQUAの本社がある中国と日本で異なる要素として語られたのが「安全性への配慮」だ。
「『割れたらどうする?』、『足が挟まったらどうする?』といった懸念に対して、AQUAではドアを開けるときの応力や、アルミフレームの端面処理を足元までしっかり施すなど、三洋時代からの厳しい安全基準があります。それに対して(本社の)理解や配慮を求めなければなりませんでした。日本の基準に合わせていくのは大変でしたが、一から取り組みました」と山本氏。
新モデルでは、安全性や信頼性、安心感といった要素がデザイン性にも密かに投影されている。「扉のアルミとガラスの篏合(かんごう)部分の角を落として滑らかにしています。全体のイメージはビルトインの厨房機器のようだけれど、手に触れるところはやわらかい。日本向けならではのデザインの要素ですね」(山本氏)
グローバルに展開するハイアールグループ。海外では、Side by Sideの冷蔵庫だけでもさまざまなモデルが存在する。そんな中でも日本の消費者のニーズにより近く、それに適した機能や性能の製品を選定し、さらにローカライズした上で発売されているのだ。