建設業界や電気工事業界が直面している、人材不足という課題。それに対し、作業効率の向上と業界の魅力アップを目指し、パナソニックが立ち上げた電動工具の新ブランドが「EXENA(エグゼナ)」だ。
電動工具らしからぬスタイリッシュなデザインが狙いどおり注目を集め、発売後はその性能や使いやすさが評判を呼んでいる。そんなEXENAの開発者に、デザイン上の工夫や開発秘話を聞いた。
新色・イエローを採用した想い
EXENAの新ブランドたる要素としては、プロユースとして最先端の技術と性能を詰め込んだフラッグシップの「Pシリーズ」に加え、DIYなどの軽作業や女性ユーザーを意識し、パワーと軽量・コンパクトさを両立させた「Lシリーズ」をラインナップしていることが挙げられる。
2つのシリーズは、共通した意匠を持ちつつも差別化を図っている。デザインを担当した杉江翔氏は、2シリーズのデザイン上の差別化について次のように明かした。
「Pシリーズは、タフさを強調する無骨なイメージで、Lシリーズに比べてハイパワーであることを表現しました。Lシリーズは、アクセントのラインを細くして見た目の軽量感を表しています。グリップ部も、Pシリーズは指が当たる部分の溝を太くし、Lシリーズは細かい縦筋が集合した溝で軽快なイメージに仕上げて差別化しています。モーターヘッドが小型化されたPシリーズは、吸気のために増えた風穴を反映しながら外観のデザインを整えていくのに苦労しましたね」(杉江氏)
EXENAでは、既存シリーズのレッドとブラックに、新色としてイエローが加わっている。
「EXENAの新しいイメージを打ち出したいという思いがあって、強いコントラストが映えるイエローを追加しました。汚れが目立つ観点から、色のトーンを落としたほうがいいのではないかという意見もありましたが、活力のある印象にするために明るい色は外せないと、この色に決めました」(杉江氏)
コロナ禍など多くのハードルを越えて生まれたデザイン
本体のラインは、EXENAブランドを象徴するデザインでもある。「ヘッドからグリップ、トリガーへ向かって入ったラインが、2シリーズに共通したデザイン意匠です」と語る杉江氏。シリーズとしての統一感だけでなく、パナソニックの電動工具として、デザインの系譜も意識されている。
「2015年に一新したプロフェッショナルの道具を表現した『EZ75A7』のイメージが、今回のデザインベースになっています。シリーズとして継続するべき部分と新しさを表現する部分を意識しながら、ラインアクセントが特徴になる新たなデザインを作っていきました。
ブラックの本体の中に有彩色のラインが映える構成になり、色の面積が広い従来のデザインとは異なる新しい色展開を作れました。ブランドのロゴをゴムへ印刷していますが、インクの密着が弱い問題があり、新しい外観の実現には越えるべきハードルがあったのですが、設計担当者にも協力してもらい、今のデザインを実現することができました」(杉江氏)
EXENAのPシリーズは、モーターの制御をはじめとして、すべて新規で作り替えている。そのため、基盤となる技術の開発だけでも2年弱を要した。
「一般的な商品開発に比べて、技術開発も含めた全体でいうと、およそ2倍の3年半くらいはかかりました」と山中氏。「フラッグシップであるPシリーズの場合は、できることは全部やろうという強い意気込みで挑みました。たとえ技術や設計部門から難しいと言われても、あきらめずに、こういうものができたら絶対に売れるからと説得して一切妥協せずに進めました」と明かした。
それゆえに苦労したエピソードは数えきれないほどにあると言うが、加えて開発途中にコロナ禍に見舞われたことも大きな足かせとなったそうだ。
「加工会社さんをはじめ、協力してくださる会社が海外にもたくさんあります。通常ならば、モノが仕上がったら現地に足を運んで現物を確認して進めていくのですが、今回は(コロナ禍のため)できませんでした。そこで、サンプルができた時点で日本に送ってもらい、それを見ながらこちらの要望などを伝えたのですが、オンラインでは意図が伝わりにくく困難を極めました」(山中氏)
これまでの電動工具といえば質実剛健で、どちらかと言うと地味なイメージを持っている消費者が多いだろう。筆者もその1人だ。それがデザインひとつで消費者の目を惹きつけ、製品そのものにも興味を持つ入り口になる。EXENAブランドは、まさしくそれを示した製品群と言え、デザインの重要性を改めて認識させられた。
しかし、EXENAのデザインはあくまでも“つかみ”の要素。その中身は、道具としての性能や機能性、使い勝手にあり、それらに対するメーカーのこだわりは想像を遥かにしのぐものが詰め込まれていた。