Statistaによると、2018年には、世界で220億台近くのネットワークに接続されたIoT(モノのインターネット)デバイスが使用されていました。2030年までに、この数は500億台に達すると予測されています。日本における2018年のIoTデバイスの市場規模は、情報通信業界内だけでも1.4兆円に迫り、2024年には約2兆円に達するといわれています。今日、コンシューマー向け、エンタープライズ向け、また産業用の電子機器業界におけるハードウェアおよびソフトウェアの技術的進歩には目を見張るものがあります。

その結果、世界中で生産されている電子機器には、インターネットへの接続性が組み込まれています。その狙いは、これらのデバイスをスマートかつ直感的なものにすることです。スマートシティやスマートカーから、スマート聴診器、スマートな犬用首輪に至るまで、日々、世界は相互接続性を増しています。

これらの接続されたデバイスは、膨大な量のデータを生成します。2025年までに、全世界で1日当たり463エクサバイトのデータが作成されるようになると見込まれており、これは2億枚のDVDに相当します。現在、接続されたデバイスのデータ処理の大半は、オンプレミスまたはクラウドのいずれかにある中央システムで行われています。しかし、接続されたデバイスの数が増えるにつれ、中央集約型のコンピューティングではすべてを処理できなくなる可能性があります。

そこで、エッジ・コンピューティングが必要になります。エッジ・コンピューティングでは、接続されたデバイスは、データが生成された場所、つまりエッジ(またはエッジコンピューティング)に近い場所でデータを処理できます。このデータ処理方法は、デバイス内部で行うことも、デバイスの近くで行うこともでき、さらに、データを中央管理システムに送信して処理する選択肢も提供されています。

よりスマート化するデバイス

従来型のデバイスがより高性能になり、新しいスマートデバイスが登場し始めたのは、ほんの数年前のことです。Alexa、Googleアシスタント、Siriなどのスマートな音声アシスタントを搭載したデバイスはすでに、シンガポール中の家庭で一般的になっています。

それらのデバイスは、リアルタイムで状況に合わせて調整する機能を備え、さらにインテリジェントなものにもなってきています。

例えば、GoogleのNestのようなデバイスには機械学習機能が搭載されています。つまり、サーモスタットでの室温調整など、ユーザーの習慣を何週間かにわたり学習して、ユーザーの好みを把握できるということです。

  • Google Nest Hub

集約型分析が困難に

従来、こうしたシステムは、データを分析して、そこからインテリジェンスを一元的に導き出すように設計されていました。データは業務システムから抽出され、適切なフォーマットに変換され、ビジネスインテリジェンスを生み出すデータウェアハウスにロードされます。これらのデータウェアハウスは、データが知見へと変換される中央リポジトリとして機能します。

企業は、非構造化データを保管できるHadoopのような代替策を、中央リポジトリとして採用しようとしてきました。しかし、さまざまな場所に存在する複数のデバイスで生成されたすべての情報を1つの中央リポジトリに集めることは、いまだに不可能です。また、情報を分析してインテリジェンスを引き出し、その後、デバイスにスマートな提案を送り返して最適なパフォーマンスを実現するということも実現困難です。

エッジ・コンピューティングで必要な技術とは?

現在不足しているのは、デバイスに近いところで、またはデバイス自体においてコンピューティング機能を実行するテクノロジーです。エッジ・コンピューティング・アーキテクチャを利用すれば、デバイスが収集あるいは生成したデータを、デバイスの近くにあるエッジノードに送信し、そこで分析および計算処理を管理することができます。デバイスはエッジノードと通信するだけでよいので、ユーザーニーズを満たすインテリジェンスを迅速に得ることができます。

しかし、この独立性は、デバイスとエッジノードが自律的に機能するという意味ではありません。エッジノードは依然として中央システムに接続されており、中央システムが複数のデバイスに及ぶ分析を実行するのに必要な情報を送信しています。

言い換えれば、局所的なオペレーションに必要な範囲においてエッジで分析が行われるという、処理の2面性が存在しています。同時に、データは中央の分析システムに転送され、より包括的な分析が行われます。

エッジでのデータ処理をリアルタイムで行うデータ仮想化

データをその発生元でフィルタリングし、必要な情報だけを中央システムに送信すると発想は目新しいことではありません。データ統合の一手法であるデータ仮想化では、この選択的なデータ処理および送信を、データそのものを複製することなくリアルタイムで行います。

スマートデバイスからデータが入ってくると、これらのデバイスに近いエッジノードにあるデータ仮想化インスタンスが、バラバラなデータを統合し、その結果のみを抽出します。その結果は、中央にある別のデータ仮想化インスタンスに分析のために送られます。つまり、一部はエッジノードにある仮想化インスタンスのネットワークが、中央のデータ仮想化インスタンスに接続されてマルチロケーションアーキテクチャが形成され、エッジコンピューティングのフレームワークが完成するのです。

  • データ仮想化とマルチロケーションのエッジ・アーキテクチャ

エッジ・コンピューティングを支える技術であるコンピューティングとストレージは近年、他の技術よりも速く進化しています。例えば、現在の携帯電話は、30年前のデスクトップコンピュータを凌駕する計算能力とメモリを備えています。

接続されたデバイスやスマートデバイスの普及に伴い、データ量が爆発的に増加し、中央集約的な計算処理や分析の効率性が低下しています。エッジコンピューティングは、スマートデバイスをさらにスマートにすることで、この問題を解決します。デバイスは自らのデータを処理して自らのニーズに応えることができ、中央集約的な計算処理に必要なデータのみを送信することができるのです。

次回は、機械学習(Machine Learning)とデータ仮想化を取り上げます。

著者プロフィール

Denodo Technologies 最高マーケティング責任者 Ravi Shankar(ラヴィ・シャンカール)


製品マーケティング、需要創出、コミュニケーション、パートナーマーケティングを含むDenodoのグローバルマーケティング活動の責任者。カリフォルニア大学バークレー校のハースビジネススクールでMBAを取得した後、OracleやInformaticaなどのエンタープライズソフトウェアリーダーから、25年を超えるマーケティングリーダーシップの実績を持っている。