私の名前は粕田舞造(かすたまいぞう)。スマホを落として液晶が割れてしまった。自力で修理してやる! と液晶部分だけを単体で購入し、分解するが誤ってバッテリとの接続コネクタを破壊してしまいすべてを終了させてしまう。そう、デフォルトは許さないがスマホにはトドメを刺す男。それが粕田舞造なのである。

今回はPCの自作について定期的に話題となるグリス。CPU付属のクーラーには、クーラー側に最初から貼られていたり、一般的なCPUクーラーなら必要な分が付属しているので、それをそのまま使っている人もいるだろう。しかし、世の中には多数のCPU用グリスが存在している。どこまで変わるのか気になるというものだ。

  • さまざまな種類があるCPUのグリス。どの程度差があるのかっ!

あと、塗り方についても小豆程度の必要な分だけ中心に出して、あとはCPUクーラーを固定するときの圧力によって広げる方法もあれば、ヘラで薄くキレイに伸ばす方法もある。これによっても、どう変わるのか今回は注目していきたい。

  • 塗り方も中心に出すだけやヘラで広げるなど複数ある

まずは、CPU用グリスの役割に触れておこう。CPUとCPUクーラーには、そのままだと設置しても目には見えない隙間があり、CPUの熱がCPUクーラーにうまく伝わらず、しっかりと冷却できない。その隙間を埋め、効率よく熱を伝えるのがグリスだ。

グリスの性能は「熱伝導率」でおおまかにわかる。数字が大きい方が熱伝導率が高いことを示し、2~15W/m・K(ワット毎メートル毎ケルビン)程度が一般的だ。種類としては、一般的なのがシリコンやセラミックをベースとした「ペースト状」のタイプだ。このほか、貼り付けるだけと簡単に使える「シート状」、70W/m・K以上の驚異的な熱伝導率を誇る製品もあるが導電性なので扱いが難しい「液体金属」もある。

  • グリスの性能は熱伝導率でおおまかにわかる。数字が大きいほうが基本的には高性能だ

  • グリスには複数の種類があり、最近はシートタイプが増えてきている

お高いグリス、お高いなりの理由があるのか?

今回はペースト状のタイプから3種類をチョイスして、CPUの温度がどう変わるのか試していきたい。まず一つ目は定番グリスの一つで、熱伝導率が8.5W/m・KのARCTIC「MX-4」、二つ目は熱伝導率は2W/m・Kとそれほど高くはないが低価格が魅力のサンワサプライ「TK-P3K」、そして三つ目はオーバークロッカーとして知られる清水貴裕氏がプロデュースした熱伝導率13.2W/m・Kの親和産業「SMZ-01R」だ。

  • ARCTIC「MX-4」。熱伝導率は8.5W/m・Kで4g入っている。実売価格は1,000円前後。グラム単価で考えると250円前後

  • サンワサプライ「TK-P3K」。熱伝導率は2W/m・Kで容量は4g。実売価格は300円前後。グラム単価は75円前後

  • 親和産業「SMZ-01R」。熱伝導率は13.2W/m・Kで容量は2g。実売価格は1,100円前後。グラム単価は550円前後

テスト環境については、CPUはTDPが95WのCore i7-9700K、CPUクーラーにはScythe(サイズ)の虎徹 MarkIIを使用した。どちらも人気モデルなので、この組み合わせで使用している人も多いのではないだろうか。ベンチ台にバラック組みの状態でテストしているので、PCケースに入れた状態とは多少温度が異なる可能性がある点はご了承いただきたい。また、グリスの塗り方は、CPUの中心部に小豆程度出して、CPUクーラーの圧力によって伸ばす方法を選択している。

  • Core i7-9700Kと虎徹 MarkIIに組み合わせ。バラック状態でテストしている

  • グリスはすべて小豆大程度の量を中心に出す方法でCPUクーラーを取り付けている

■テスト環境
CPU Intel Core i7-9700K(3.6GHz)
マザーボード ASUSTeK ROG STRIX Z390-F GAMING(Intel Z390)
メモリ G.Skill F4-3600C19D-16GSXW
(DDR4-3600 8GB×2、※DDR4-2666で動作)
ビデオカード GIGA-BYTE GeForce RTX 2070 WINDFORCE 8G
(NVIDIA GeForce RTX 2070)
システムSSD Lite-On Plextor M8Pe PX-512M8PeGN
(M.2/PCI Express 3.0 x4、512GB)
OS Windows 10 Pro 64bit版

テストではストレステスト用のフリーソフト「OCCT 5.4.1」を使って、CPUに負荷をかける「Linpack」を10分間実行したときの温度を測ることにした。温度の計測にはシステム監視ソフトの「HWiNFO64 6.12」を使う。テストに使用したマザーボードのASUSTeK「ROG STRIX Z390-F GAMING」はファンコントロール機能のFan Xpertが搭載されているので、参考としてCPU温度に合わせてファンの回転数が自動的に変化する「標準」設定時とファンが常に最高速で動作する「フルスピード」の2種類を試している。

  • OCCTのLinpackを10分間実行した

  • Fan Xpertは標準とフルスピードの2種類でテスト

さっそく結果を見ていこう。熱伝導率が低いTK-P3Kは温度が高めとなっているが、動作が止まるには至っていない。MX-4とSMZ-01Rはほぼ同じ温度と言える。高負荷時の温度がMZ-01Rのほうがわずかに低いのは、さすがOC向けというところか。OCCTのLinpackは強制的にCPU使用率を100%にするので一般的な使用では、ここまで負荷がかかり続けることは少ない。そういった意味では、TK-P3Kでも問題はないと言える。テストなどでCPUを頻繁に交換するなど、グリスを大量に使うならグラム単価が安いTK-P3Kがいいだろう。ただ、MX-4とSMZ-01Rのほうがより安心なのは間違いない。ゲームやエンコードなど負荷の高い作業が多いなら、熱伝導率の高いグリスを選んだほうがベターと言える。

  • アイドル時はテスト開始時点の温度、高負荷時はOCCT実行時の最高温度とした

「塗り方で差が出る」はあやしい都市伝説?

次はグリスの塗り方で温度が変わるのか確かめてみよう。ここまでのテストは小豆ほどの量をCPUの中心に出す方法を採用していたので、ここではほんの少しだけ中心に出す、全体にヘラで薄く塗る2種類の方法を試す。

  • 一つはCPUの中心部に少しだけ出す方法

  • もう一つはヘラでCPU上部全体に薄く塗る方法

その結果は意外にも、少しだけ中心に出す方法でも小豆程度の量と差がなかった。中心部にグリスがあれば、十分に熱はCPUからCPUクーラーへと伝わるようだ。また、薄く伸ばして塗る方法は高負荷時の温度が少し下がった。CPUとCPUクーラーの密着が向上したと考えられる。

ただし、これは今回のCPUとCPUクーラーの組み合わせでの結果だ。CPUクーラーやグリスの種類によっては結果が変わる可能性はある。とはいえ、多少の手間はかかるが、薄く伸ばしたほうが密着力を高めやすいのは確かだろう。

  • グリスはARCTIC「MX-4」を使用。OCCTのLinpackを10分間実行した結果。Fan Xpertは標準設定で測定