Microsoft Copilot+ PCの目玉機能のひとつが「リコール」だ。一定時間ごとにデスクトップで起こっていることのスナップショットを記録し、ユーザーの検索に応じることができるというものだ。ユーザーはあとでの検索のために特別な準備をする必要はない。知りたいことを調べ、必要なら処理をして、その結果を誰かに知らせたり、どこかに保存しておくだけだ。

なにしろ、調べものや集計、統計などの処理過程、読んだメール、書いたメール、インターネットでの検索など、PCのディスプレイに映し出されてきたあらゆる光景を記録し、文字列や画像などをたよりに、その場面を呼び出すことができるのだ。

作業の記憶から情報を探せるCopilot+PCのリコール機能

たとえば「赤い服」というキーワードで検索すれば、過去の作業履歴の中からそれなりの場面がピックアップされる。

Netflixで見ていた映画の中で、役者が赤い服を着ている印象的なシーン、たまたま表示された広告でモデルが着ていた赤い洋服などが挙がってくる。あわせてメールでやりとりした記事内イラストの配色に関する「赤い服」議論などなど、これらを従来型の検索機能で探し出すのは至難の業ではないだろうか。

  • 「赤い服」というキーワードでリコールを使い検索したところ。映像も含め、関連する情報が時系列で並ぶ(編注:画像の一部を加工しています)

今までの検索の概念とはちょっと違う。頭の中のイメージを言葉にして検索することができるというのはこういうことなんだと納得してしまうくらいにすごい。

ただ、個人的にここ3ヶ月ほど使っているが、今ひとつ、ピンとこないというか、役に立っているという印象がない。

「検索履歴」の方が使いやすい理由を考えた

それがなぜかを考えてみたのだが、いちばん大きな問題として、日常的に使っているPCが1台であるとは限らないことがある。

移動先ではモバイルノートを使うし、オフィスではデスクトップPCを使う。移動中にはスマホで検索するかもしれない。だが、今のところリコールはCopilot+ PCにしか提供されていない。

Copilot+ PCはモバイルに特化したソリューションとして位置付けられているので、当面、リコールが使える場面は限られている。そういう歯抜けのような状態でのシーン記憶では、テキストに特化しているとはいえ、ブラウザの検索履歴の方がずっと役にたつ。

検索履歴であれば、作業した環境は問わず、いつどこでどんなデバイスで検索したのかに関係なく、それらしききっかけを指し示してくれる。何年も前のことでもない限り、何をしたら何が表示されたのかといったことは、頭の片隅に残っている。だから自分の検索履歴はかなり役に立つはずだ。

  • リコール機能は初期設定時のほか、Windowsの設定からもオンオフを切り替えられる。リコール用ストレージの容量を決めることも可能だ

画像・音声・映像、マルチモーダル検索が当たり前になる世界

この四半世紀、われわれは、インターネットのような膨大な情報の海の中から、キーワードを列挙して提示することで求めている情報を探し出す振る舞いを検索と呼んで重宝してきた。

検索される側はタグ情報などをイメージデータにテキストで付加するといった手間が求められてきたわけだが、今後は、タグがなくても画像や音声などを探せるようになるし、さらには、画像や音声で謎解きができるようにもなる。それが検索の新しい当たり前だ。すでにAIとの対話は、これまで慣れ親しんできた検索セッションの範疇を超え、ディスカッションに近いものにもなっている。

リコールは、そんな新しいパラダイムへの入り口としてはおもしろい。その先の可能性も見せてくれている。われわれの身の回りの空間は、イメージだけ、動画だけ、テキストだけ、音声だけ情報に偏っているわけではない。リコールがやろうとしているのは、一足飛びでのその世界に到達しようとすることなのかもしれない。