民放公式テレビ配信サービス「TVer」で、各局のゴールデンタイム番組のリアルタイム配信サービスが始まった。追っかけ再生などもできるようになっている。これなら全録ビデオデッキはいらなくなりそうだ。
また、NHKの番組が見られるNHKプラスもAndroid TVなどにインストールできるアプリをリリースし、その視聴手段のバリエーションを拡げた。テレビ放送は、ますます本来の放送という言葉が似合わなくなっていく。
従来からあったモバイルOS用アプリや、PCでのブラウザを使った視聴などによって、これらの配信サービスを使うことで、かつては電波でしか受信できなかった放送番組をTVチューナーがなくても楽しめるようになった。1週間だけという制限付きだが、見逃した番組のオンデマンド視聴もできる。きっと衛星放送もそのうち同じように視聴できるようになるだろう。
そもそも衛星放送にBSとCSがあるように、ブロードキャストとコミュニケーションはいろんな面で区別して考える必要があるのだが、こうしたサービスがどんどん一般的なものになっていくと、もう関係ないやという気持ちにもなる。BSは放送衛星を使い、CSは通信衛星を使うが、一般の視聴者にとってはもう区別がつかない。本当は厳密に区別しなければならないはずだが、とてもややこしいことになっている。
民法のネット配信はWeb動画配信サービスも競合に
アマゾンのPrime Videoや、Netflixなどの配信サービスが一般に受け入れられるようになった今、誰もが平等に24時間しかない1日と、その中でテレビ画面に費やす時間を放送(事業者のコンテンツ)視聴に使ってもらうためには、送り手側としては、生き残りを賭けていろいろなチャレンジをする必要がある。
もはやライバルは民放各局やNHKなどの放送事業者だけではない。オンデマンドでコンテンツを配信する各サービスとも競い合わなければならないのだ。これは、ビデオデッキや家庭用ゲーム機などがテレビにつながり始め、チャンネル争いに入力端子争いが加わったかつての頃の状況と似ているといえば似ている。
さらに、広告という点に注目すると、TVerなどは、見ている視聴者の属性に応じて異なる広告を配信できるなど、電波を使った放送ではできないことをやっている。今後、次第に、その影響なども見えてくるだろう。
帯域問題はありつつも、地上波放送は終わらない
もはや放送、特に地デジは終わっているという議論もあるようだが、本当にそうなのだろうか。さらには放送という概念も含めて終わってしまうのだろうか。
今でも覚えているが、2016年にプロバイダー大手IIJが、ベルリンフィルと「ストリーミングパートナー」契約を締結、そのアナウンスのために開催した記者会見(該当プレスリリース)で、会長である鈴木幸一氏がNHK+0.5局しか4K放送ができない程度の帯域しかない電波メディアに未来はないという発言をした。
あれからすでに6年が経過したが、電波メディアはまだまだ健在のようにも見える。その一方で、IIJとベルリンフィルのパートナーシップでのストリーミングも着々と配信が続けられ、ゴールデンウィーク明けにはサー・サイモン・ラトルがジェラールとドヴォルザークを指揮するコンテンツの配信が予定されている。DSD11.2MHz ライブ・ストリーミング配信で、日本限定の無料配信となる。
インターネットはメディアを超えるデータを運ぶ
少なくとも音声のみの音楽の世界では、旧来のメディアであるディスクを超える音質を、オンライン配信で楽しめるようになっている。
その一方で、鳴り物入りに近いイメージでスタートしたテレビ放送の4K、8K放送だが、こちらはまだまだ電波を活かせていない。鈴木会長が憂うまでもなく、このコンテンツは本当に電波を使って4K、8Kの画質で流す必要があるものなのだろうかというような番組が少なくなく、高品位な映像コンテンツを期待しつつも先行きがちょっと心配になってくる。
インターネットはデータを運ぶ。メディアには入りきらないデータも、インターネットならきっと運べる。今、流行のデジタルツインの世界では、空間の双子化がもくろまれているくらいだ。コンサートホールが自宅に再現されるくらいは簡単なことだろう。この先、どんなことが起こるのか興味はつきないが、果たしてそれを大衆が求めるのかどうかは別問題だ。