平野歩夢選手がスノボの男子ハーフパイプで金メダルを獲得した。すごいランだった。だが、その勇姿をテレビの生放送で見損なった人がたくさんいるらしい。

というのも、NHKでリアルタイム中継されていた滑走が、3回目最後の滑走である平野選手のラン直前にサブチャンネルに切り替わったからだ。

デジタル放送にはマルチチャンネルという仕組みがあって、スポーツ中継などの時間が延びた場合、通常の番組編成変更で対応せずに、サブチャンネルでの放送で対応することが多い。

これは、放送用に割り当てられている電波の帯域を2つに分割し、それぞれで別のコンテンツを流す仕組みだ。サブチャンネルはメインチャンネルのひとつ上のチャンネルなので、それを見るにはリモコンのチャンネルボタンの上を押せばすむ話なのだが、それができなかった人が一定数いたようだ。

それにしても最悪のタイミングだった。うまくサブチャンネルに切り替えることができたとしても、せっかくの金メダル獲得のランだったのに、画質は劣悪だ。普段の放送の画素数が解像度的には約4分の1になるのだから当たり前だ。こういう経験を繰り返すたびに、電波を使った放送には限界があると痛感する。

  • NHKの特設サイト「NHK北京オリンピックサイト」の動画配信ページ。五輪のライブ配信や見逃し動画、ハイライト動画などを配信している。各動画はそれぞれ専用の編集もなされているようだ

IT技術の進化を見られるスポーツの祭典

そんなわけで、毎日をスポーツ中継漬けでこの冬を楽しんでいる。

世界的なスポーツ競技大会は、夏の大会、冬の大会が交互に2年おきに開催される。コロナ禍の影響で、夏の東京大会が1年延期されて2021年の開催、今回の冬の北京大会が基本的に無観客とはいえスケジュール通りの2022年開催で、感覚的には半年くらいしかたっていない。

大会は、スポーツの祭典であると同時に、放送技術の祭典でもあるわけだが、開催間隔が短いと驚くような技術の進化を目の当たりにしているようには感じにくい。

それでも注意深く見ていると、撮影手法やその見せ方、経過を伝えるサイネージ、集計結果の伝え方などが着実によくなっている。そして、ITがさまざまな場面で活用されている。

だが、空を飛ぶ電波の部分が20年前と変わらない。電波が有限の資源であるということを痛感するし、いったん始めた以上、おいそれとその仕組みを変えることができないということも理解できるが、ちょっと残念だ。

電波かネットか、コンテンツの最適な伝送路

コンテンツはメディアがなければ伝わらない。スポーツ中継放送のようなコンテンツの場合は、伝送路がメディアということになる。

その伝送に電波を使うか、コンテンツデリバリー用のネットワークを使うかで、同じコンテンツであったとしてもユーザー体験は大きく異なる。ブロードバンドインターネットはそれをかなえるはずだし、モバイルネットワークの進化も一般市民の期待に応えることができるだろう。

ただ、電波は公共の資源だし、それを使う放送はビジネスだけが優先されないように、いろいろな法律でがんじがらめになっている。

その一方で、たった一人のYouTuberが、自分でカメラを担ぎ(スマホを手にしているだけかもしれないけれど)、出演はもちろん、撮影から編集、構成、演出まですべてを自分だけでまかなって作るコンテンツが世界を動かしたりもするのが今の世の中だ。

そうはいっても、一介のYouTuberが世界的なスポーツ大会を取材したいと申し出ても、今はそれがすぐにかなうわけでもない。もしそれができるようになれば今までに見たことがないようなコンテンツができるかもしれない。

コンテンツを探し出す仕組みはまだ途上

人海戦術的に大量の才能を投じて作られる従来的なコンテンツと、限られたリソースで作られる希有なコンテンツ。その両方をシームレスに楽しめる時代がやってくればいいと思う。

そのためにも発見の仕組みはまだまだ進化しなければならない。見つけられなければ、そのコンテンツは存在しないのと同義だからだ。

平野選手の金メダルランはオンデマンドならいつでも見ることができる。そこが救いだが、画質の悪さはどうしようもない。しかも、オンデマンドコンテンツの見つけにくさに、いったい見せる気があるのかどうか、どうしたものかとクラクラしている。