欧州委員会が電子機器用の独自規格が引き起こす廃棄物や不便を解消するために、新たな法律を提案した。早い話がUSB Type-Cポートを標準にすることと、充電器そのものの販売を機器の販売と切り離すことの提案だ。また、急速充電規格の統一と、その関連情報の消費者への提供が盛り込まれている。つまり、USB Type-CによるUSB Power Deliveryによる充電仕様が義務化されるということだ。

この提案は、通常の立法手続きによって欧州議会と理事会で採択されたのち、2年間の移行期間を経て実施される予定だ。

  • 近い将来、iPhoneにUSB Type-Cケーブルが挿し込める日が来るのだろうか。もちろん今は挿せない

    近い将来、iPhoneにUSB Type-Cケーブルを挿し込める日が来るのだろうか。もちろん今は挿せない

欧州のスマホ充電端子がUSB Type-Cにまとまる法案

欧州における充電ポートの規格については、実は、2009年に標準化がもくろまれ、Micro USBを採用することに合意していた。これはあくまでも合意であって、強制ではなかった。このとき、Appleは参加を表明せず、今に至っている。だからこそ現在もLightningが使われているわけだ。

タイムラインを遡ってみると、AppleがLightningを使い始めたのが2012年のiPhone 5のときだった。それまでは30ピンDockコネクタが使われていた。

一方、USB Type-Cは2013年に発表され、2014年に最終仕様が策定されている。ざっくりいうと、標準化提案から5年後に新規格が登場、その5年後に次の提案といったイメージだ。

注目はiPhone。Dockコネクタ→Lightning、今後は?

欧州委員会のIT関連声明というと、EU諸国移動時ローミング料金撤廃を思い出す。これは、2014年に委員会が声明を出して、3年間の移行期間の後、2017年6月から実施された。その結果、今は、EU諸国で国境を超えたとしても高額な国際ローミング料金はかからなくなっている。

当時、ドイツテレコムなどが前倒しで実施したのだが、それが2017年、期限の半年前のタイミングだった。3年間の猶予期間を経ての実施にギリギリだったともいえる。

今回の法律が採択されたとして、移行のための2年間を経るとすれば、2023年の秋だろうか。多くの通信事業者が関係するローミング料金撤廃とは異なり、今回の当事者はAppleだけだといってもいい。

Appleがどのような対応をするかはわからないが、来年(2022年)のiPhone 14での対応か、その次のiPhone 15での対応になるかが気になるところだ。

標準化は「機器の進化を阻害する」という声も

この動きについて、機器の進化を阻害するという意見もいろいろなところから聞こえてくる。ポートの形状を統一することは、確かに消費者の利便性を向上させるが、新たな技術によるイノベーションが起こりにくくもなるというわけだ。

たとえば、今後、より薄くて高機能の「USB micro Type-C」とか「USB Type-D」いった端子形状の規格が出てきたときでも、この法律がある限り、現行のUSB Type-Cを使い続けなければならないというのはまずいだろう。コネクタの厚みにデバイス本体の厚みが左右されるのでは本末転倒だ。一定期間ごとに見直すといったルールも必要かもしれない。

Appleの次なるイノベーションにつながるか

EUの通貨がユーロになった2002年以降、ほぼ20年が経過している。欧州委員会としては通貨同様に、デジタルの世界においてもシングルマーケットを成立させるもくろみを、こうした施策によって継続している。過去におけるコネクタの統一や、ローミング料金廃止なども、そのための施策の一環だ。

ただ、iPhoneとAndroid端末の両方を併用している消費者にとっては朗報かもしれないが、どちらかだけを使っている消費者にはあまり関係のない話でもある。

iPhoneユーザーが規格に準拠していない粗悪なケーブルを使ってiPhoneを破損させる可能性もあることを考えれば、Appleとしても、なかなかはいそうですかとはならないかもしれない。当然、ロビー活動の中でこうした動きはずっと前から知っていたに違いないなかで、これからAppleはどのようなイノベーションでこの新しい法律をかいくぐるのかが興味深い。