ケーブルテレビ大手のジュピターテレコムが7月から、同社サービスであるJ:COMの1,398万世帯に提供するケーブルテレビインフラと地域密着の対面サポートの強みを生かし、家庭のテレビで診察などが受けられる遠隔医療サービス「J:COM オンライン診療」の提供を開始する。ケーブルテレビのインフラを使用したオンライン診療サービスは、国内で初めてのサービスだとしている。

コロナ禍で、今後の超高齢社会の到来に伴うさまざまな医療課題があぶりだされたわけだが、その解決策のひとつが在宅医療であり、それを情報テクノロジーが支援する。すでに、特設サイトも開設された。

  • ジュピターテレコムによる「J:COM オンライン診療」発表会の様子

    ジュピターテレコムによる「J:COM オンライン診療」発表会の様子

シニア世代の利用に壁があるオンライン診療

現時点で、オンライン診療を受けているのは約8割が40歳以下であり、日常的に通院している患者の大半を占めるシニア世代は、各種デバイスを自在に操れないといった理由で、ニーズはあっても、実際の利用の障壁になっているという。

  • 公開された「J:COM オンライン診療」特設サイト。サービス利用料は330円/回で、医療費や処方箋配送料などは別だ

そこで、同社がスタートするのがこの「J:COM オンライン診療」で、東京都杉並区 / 練馬区 / 板橋区 / 北区、埼玉県和光市 / 新座市、千葉県木更津市 / 君津市 / 袖ヶ浦市 / 富津市で7月1日から提供を開始。2021年度内にはすべてのJ:COMエリア内での展開を予定しているという。

仕組みとしては、家庭用のテレビに接続されたケーブルテレビ用のセットトップボックスに専用のアプリをインストールし、別売りのウェブカメラを使って医師とのバーチャル対面診察を受ける。これらの機器設置、初期設定、操作方法などは、電話や訪問によって手厚くサポートされる。まさに、地域に密着したインフラを提供する事業者ならではだ。

サービスの提供に伴い、医療機関向けの国内主要オンライン診療システムを提供する株式会社MICINと協業、オンライン診療サービス「curon(クロン)」を活用し、予約/問診確認、診察、決済、処方箋の発送などを、ワンストップで提供する。

インターネットの帯域がサービスの質を決める

こうしたサービスの提供には、厚生労働省や総務省といった関連省庁の認可等が必要だと思われるようだが、基本的に通信インフラを提供する事業者だから、それをどのような用途に使おうが認可などの必要はないという。すでに音声通話やスマホのビデオ通話によるオンライン診療は、いろいろな医療機関で行われているが、そのために使われる通信サービスは問われない。だからこそ、スピーディにサービスインできるということもできる。

とはいえ、音声やビデオの品質次第では、患者の声がよく聞こえない、様子がよく見えないといった状況も起こる可能性がある。それでなんらかのトラブルにつながる可能性もゼロではない。そういう意味では音声だけよりビデオつきで、そして、より帯域の広い通信回線で、鮮明なビデオ映像をやりとりできるインフラが必要だ。

今後、5Gのネットワークが普及していくなかで、通信の品質は、まだまだ向上していく。同社のようにケーブルテレビインターネットを使ったサービスのみならず、モバイルネットワークでも、いろいろなサービスの提供が模索されているにちがいない。

そのときに求められるもっとも基本的な要素がインターネット接続の帯域だ。帯域が狭ければ、患者の顔色さえ明瞭に見えず、診断の誤りにつながる可能性もあれば、幹部をしっかりと判別できないような画像しかやりとりできないのでは、信頼できる診察はできない。カメラの解像度も重要だ。

高度な治療がネットワークの力で実現できる日

今、新しい世代のネットワークは、下り方向の帯域ばかりが注目され、一本の映画を数秒でダウンロードできるといったことがアピールされているが、今後の社会では、上り方向の帯域が重要な役割を果たす。

集合住宅などに引き込まれている固定インターネットは、ケーブルテレビにしても、光にしても、VDSLにしても、個々の世帯が確保できる帯域が十分にあるか、そして、上り方向の帯域はしっかり確保されているかどうかを見極める必要があり、足りなければなんらかの方法で改善しなければならない。

5Gネットワークにしても、上りの帯域についてはまだまだ不十分だ。顔を見て話ができるというだけではなく、さらに高度な治療が情報ネットワークの力を使って実現できる日の到来を期待したい。

とはいえ、自前ですべての装備を調達しなければならない現状に対して、ジュピターテレコムのサービスは、手厚いサポートというかたちで一歩を踏み出した。それは大きな一歩だといえる。ワクチン接種にまつわる、さまざまなITトラブルを見るにつけ、この国のIT後進度に絶望することが多い昨今だが、少しずつでも改善されていくことを願いたい。