総務省が「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を公表した。早い話が、事業者の乗り換えを容易にすることで、事業者間の競争を刺激し、結果として通信料金の値下げを促進しようというものだ。そのために、eSIMの利用促進や、キャリアメールの継続的な利用などにも言及している。
この公表に、さっそく応えるかのように、KDDIはUQモバイルで20GB・3,980円、ソフトバンクはワイモバイルにおいて20GB+10分以内の国内通話無料で4,480円のプランを発表した。
どちらもサブブランドでのサービスだ。フルサービスを提供するauやソフトバンクブランドでのサービスではない。うがった見方をすれば値段を下げたという既成事実をアピールするためのアリバイ工作のようにも感じられる。
乗り換えに条件がいる“インフラ”
確かに別の事業者に乗り換えて、そのサービスに満足できなければ、何のペナルティもなく、さらに別の事業者に乗り換えたり、元の事業者に戻るといったことができるのは理想だ。戻れないからこそ勇気がいるが、失敗しても、それをチャラにできるのなら勇気はいらない。
その選択肢にMNO(Mobile Network Operator、自社回線を所有・運用する移動通信事業者)のみならず、そのサブブランド、そして数多のMVNO(Mobile Virtual Network Operator、自社回線を持たない移動通信事業者)が含まれるというのは歓迎すべきことなのだろう。しかも、MNP手数料を無料にするような動きもある。手持ちの端末にSIMロックがかかっていないことが前提だが、自在に事業者を変更できるというのは悪い話ではない。
だが、それをうまく活用できるユーザーがどれだけいるのか。また、端末のすべてが、すべての事業者のネットワークにフル対応しているとも限らない。特に、これから5Gネットワークが普及するならなおさらだ。
それに、自分が契約しているプランさえ把握できていなかったり、把握していても、その変更さえ億劫に感じるユーザーもいる中で、効果には疑問符もある。実際、ガスや電気についても、MVNOと同じように各社が低廉なサービスを提供しているが、こぞってそちらに乗り換えるというようなムードにはなっていない。
MVNOの努力ではどうしようもない現実もある
その一方で、MVNOについては、卸し料金や接続料などのネットワーク設備の使用料だけが注目され、接続に際するPOI(Point Of Interface、通信事業者間の接続点。多くのMNOは、POIを一度に通れる通信量に価格を設定している)、つまりMVNOのバックボーンとMNOのネットワークの接続点の帯域不足によるMVNOの速度低下などの問題解決についてはふれられていない。この部分はMVNOの努力ではどうしようもない現実で、たとえば、昼休み時間帯の速度低下などにつながっているのに、だ。
こうした部分にもメスを入れないと、結果として、安かろう悪かろうになり、MVNOのビジネスは立ち行かなくなってしまうだろう。そもそもお昼休みにTwitterを眺める程度の利用にイライラするという時点で、何かがおかしいのだ。この現実を体験すれば、2時間の映画を秒単位でダウンロードできる5Gは超高速などといった話が現実味を帯びてこないのは当たり前だ。
大事なことは、サービス提供事業者が料金の明細を明確に提示することだ。MNOにおいては、メインブランドとサブブランドでこういう違いがあるから価格を安く設定できるといったことを、得られる帯域の論理的な差異を含めて明示する。MVNOはどの部分がMNOに依存していて、MNOとは何が違って何が同じで、何が理由で安いのかをちゃんと示す。とにかく、事業者を選ぶための情報が価格だけでは話にならないと思う。
もちろんこれらは、入念に調べていけば、ウェブの情報だけでもかなりのことが判明するのだが、馴染みのない場合はそういうことは難しい。だからこそ、事業者側で“自分たちを選ぶとこんなにトクをする”ということをきちんと紹介してほしい。
まずは「何を提供しているのか」明確な情報を
また、データ容量についても、来月の自分のデータ消費量などを予測するのは難しい。20GBで足りるかどうかなどわからないのだ。使い放題も同じで、ちょっとの負担増で容量を気にすることがないのならという心理をついている。
実際には10GBにも満たない容量で足りるかもしれない層までが使い放題を選び、結果として使っていないのに高いコストを負担することになる。そのおかげで、現在の料金が設定できているのだが、長い歴史がある電気やガスなどでは使い放題のプランはない。
いっそのこと、通信についても、必須のインフラとしてリーズナブルな体系の完全従量制で、使った分だけを負担するような方式を考えてもいいのかもしれない。油断したらアッという間に使い放題のほうが安上がりだったというようにならない料金体系だ。もちろんそのためには抜本的なコスト構造の見直しが必要だろう。価格が高い方にシフトする可能性すらある。
消費者の賢さは求められるべきもので、賢い消費者ほどトクをする。同じものが得られることが保証されれば安い方がいいに決まっている。でも、その賢さを得るために、今、時間と手間を含めて、どれだけのコストが必要か。まずは、価格だけではなく、何を提供しているのかの明確な情報提供をしてほしい。そうすれば価格に納得が出来るかもしれない。話はそこからだと思う。