KDDIが沖縄県におけるMaaSの社会実装に向けた実証実験をスタートした。3月31日までの期間限定で、アプリ「沖縄CLIPトリップ」を提供し、ルート検索、観光情報提供はもちろん、交通手段のキャッシュレス決済も実現し、那覇市内を走るモノレール「ゆいレール」もデジタルチケットで乗れる。また、火災にあった首里城を高精細な8K 360度映像で再現したVRコンテンツを提供、空港や首里城現地で楽しめるようにする。

  • 空港などで楽しめる首里城の8K VR。首里城が2019年10月火災に遭う直前の8月に、別の目的で撮影を偶然進行していたことで、焼失した多くの部分を記録した高精細素材があり、急遽それをまとめて完成させた

  • 2017年秋当時の首里城。修繕中だった

  • 2020年現在の首里城

このプロジェクトはKDDI、沖縄セルラー電話、沖縄セルラーアグリ&マルシェ、日本トランスオーシャン航空株式会社、 沖縄都市モノレール、一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター、JapanTaxi、ナビタイムジャパンが取り組むもので、観光利用での交通分担率の適正化による道路交通渋滞の緩和や、観光客への新たな旅行体験の提供を目的とした、観光型MaaSの可能性を探るものだ。

那覇を楽しむ情報を凝縮した観光アプリ

もはや観光にはスマートフォンは欠かせない。かつてはガイドブックで予習、現地に着いても四六時中そのガイドブックを片手に右往左往というのが普通だったが、今は行き当たりばったりでもなんとかなる。多くの場合はGoogleマップさえあればなんとかなる。ただ、実際にGoogleマップの指示にしたがって移動ということになると、チケットの購入や乗り継ぎの段取りなどいろいろと試練が待っている。さらにご当地グルメを楽しむにも、候補が多くて悩む。なにしろ滞在期間中の食事回数には限度があるし、予算の都合もあるからだ。

かさばるけれど紙のガイドブックがよかったのは、あらゆる情報がワンストップでそこに集約されていたからだ。だが、インターネットには情報があまりにも多く、その中から取捨選択して自分に最適な情報を見つけ出すためにはかなりのスキル、そしてリテラシーが必要だ。

とりあえず「沖縄CLIPトリップ」は、電子的なガイドブックとして、那覇を楽しむためのエッセンスが凝縮されている。観光ガイドはもちろん、グルメ、ルート検索、タクシー配車、ゆいレールチケット、現地ツアーなどのアクティブティ予約、そして国内旅行保険とそれらの決済までをオールインワンで提供する。

  • 「沖縄CLIPトリップ」アプリで購入できる各種のチケット

たとえば、このアプリを使えばゆいレールの1日乗車券をチケットを登録済みクレジットカードで購入することができる。購入時から24時間有効のチケットが実証実験期間中は通常800円のところ半額の400円だ。空港から乗車する場合、初乗りでも230円、市内中心地の県庁前まで行けば270円かかるので、2回以上乗るならかなりオトクで使わない方がソンというものだ。着陸してすぐにモノレール乗り場に行くと、切符自動販売機は長蛇の列。荷物が出てくるのを待っている間にスマホでチケットを購入しておけば、それを横目に改札を通過できるのだ。今春からは交通系ICカードに対応する予定なので必要性は薄まるかもしれないが、試みとしてはおもしろい。

  • ゆいレールの1日乗車券はデジタル購入でも実際の使用では画面を有人開設で目視してもらう

  • ワンストップで沖縄観光を引き受けるアプリ「沖縄CLIPトリップ」

スマホでいかにスマート観光を実現するか?

一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター会長の下地芳郎氏によれば、那覇空港に降り立った観光客が次に使う交通機関としては、レンタカーの利用率が高く実に47%にのぼるという。レンタカー事業者もこの11年間で2.8倍になり価格競争も激化しているそうだ。また、モノレールもほぼ同じ割合で利用されている。その一方で、路線バスの利用率は極端に低く1~2%しかないという。

また、タクシーの初乗り料金が550円と安く、加算運賃も東京の半額ちょっとに近い設定なので、気軽に乗れることから平均利用回数が高い。にもかかわらず、沖縄県内の法人タクシーは運転手不足で25%の車両が稼働していないという。ちなみに那覇市は全国ワースト1位水準の交通混雑で首都圏と同じくらいの状態が常時続いているそうだ。

今回のMaaS実証実験は、こうした課題をサービスのワンストップ化、マルチモーダル化によって、どのように統合し、スマート観光を実現していくかのチャレンジだ。

KDDIの次世代基盤整備室長の前田大輔氏は、5G通信時代がいよいよ到来し、あらゆるものがつながるようになり、さまざまな産業が変革する中で、同社としては交通、物流に大きなイノベーションが起こると考えているという。そのためにも、マルチモーダルを推進し交通をスマート化することで、交通事業者、自治体とともに観光のデジタルスタンスフォーメーションを推進したいとプロジェクトの抱負を語った。

新しい街は概要をまるっと知りたい

漠然と次の休暇には××に行ってみたいと思ったとする。本音をいうなら、観光情報については調べようと思えばいくらでも調べられるし、移動の手段についてもスマホを駆使すればなんとかなる。だが、その街にいざ着いてホテルにチェックインしたところで、行動を起こす前に街全体のざっくりした概要をつかむのはなかなか難しい。特に那覇のように都市機能と観光機能がチャンプルー状態になったエリアは、門外漢にはたいへんだ。

東京に住み慣れているとすれば、なんとなく渋谷は再開発が進む若者の街、表参道はおしゃれなエリアでその気になれば渋谷から徒歩圏、銀座は高級店で、目と鼻の先の新橋はビジネスマンのメッカ、大手町は企業本社が並び、霞ヶ関は官庁街、新宿には歌舞伎町という歓楽街がある一方で、新宿三丁目の伊勢丹周辺が栄え、西口はヨドバシカメラ前がポケモンのメッカなどと、イメージしやすいが、那覇の地図を見て、どのあたりがどんなキャラクターのエリアなのかをサクッと理解するのは難しい。それを把握しておくだけでも街は何十倍にも楽しめる。

アプリでは現地のライターが執筆した記事で、これまでの典型的な観光ガイドとはちょっと違う切り口のアクティビティが紹介されているが、ここはひとつ街を総括するようなイントロダクションが欲しかった。誰もがすべてを理解してから旅に臨むわけじゃない。現地で作った現地のアプリなら、そういう面での理解を助ける工夫が欲しいところだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)