ドコモと富士通が協業し、妊産婦がエコー画像などを「母子手帳アプリ」で確認できる「妊婦健診 結果参照サービス」を産科医療機関に提供開始した。
具体的にはドコモの「母子健康手帳アプリ」と富士通の健康医療情報管理基盤「FUJITSU ヘルスケアソリューション Healthcare Personal service Platform」を連携させ、妊産婦本人が、自分の診療情報の一部を病院に行くことなく、自宅や出先で参照できるというものだ。
中小産婦人科医院の大きなチャレンジ
富士通は、電子カルテシステムの導入シェアでは業界トップのベンダーだ。全国2,863病院が電子カルテシステムを導入する中で、1,007病院が同社のシステムを採用している(2017年現在)。シェアとしては35%を誇る。電子カルテシステムでは、診療記録情報をデジタル化するとともに、院内全体の情報共有を実現することができる。さらには、地域医療連携によって地域全体の情報共有も図れる。
もっとも、電子カルテシステムを導入している病院の多くは大病院だ。小規模な街の開業医はいまなお、手書きのカルテですませているケースも少なくない。そこの部分をデジタル化していくことは、今後の高齢化社会を考えても重要な課題となっていくはずだ。
富士通によれば、近年開業する町医者は大病院出身の医師が多く、勤務医時代に電子カルテシステムに慣れていることから、開業時には最初から電子カルテシステムを採用するケースが増えているそうだ。したがってあと10年もすれば、ほとんどすべての病院が電子カルテシステムを使うようになっているはずだという。
今回、システム連携のモニター医療機関としてチャレンジしたのは、すべてが中小の産婦人科医院だった。もしかしたら、今の時点でのクラウドサービスとの連携のようなチャレンジは、院内で閉じたシステムを望む大病院よりも、中小の医療機関の方が積極的に取り組めるのかもしれない。
ドコモはドコモで、医療関連アプリとしては母子手帳アプリ以外に、「dヘルスケア」や「おくすり手帳アプリLink」などが広く使われている。特に後者はアイン薬局やクオール薬局、クラフトのさくら薬局、ココカラファインといった、著名どころの処方箋薬局チェーンのお薬手帳アプリとしてOEM提供されているので、本人が知らないうちにドコモのアプリを使っている可能性もありそうだ。
薬の“自己申告”はハードルが高い
今回の妊婦健診結果参照サービスについては、電子カルテシステムがクラウドサービスにつながり、外部のシステムから本人に情報が提供されるという点で、その先の展開も期待される。現行のシステムでは、妊婦が他の医者にかかるとき、自分の情報をその医者に提供する際に、自分で自分のスマホを開いて母子手帳を見せるといったことが必要になる。本人の承諾を得るための厳格な手続きは必要だが、外部システムを使う仕組みを病院間連携に発展させ、クラウドを基盤とした医療情報サービスに発展することを期待したい。
個人的には、処方箋薬局でクスリを購入した際には、必ずお薬手帳アプリに登録するようにしているが、体調不良などで別の医者にかかったときに、お薬手帳の情報を見せるようにいわれたことは一度もない。どんな薬を飲んでいるかといったことは、すべて自己申告だ。これは高齢者にはハードルが高いのではないか。
ドコモは5G時代の到来に向け、さまざまなライフスタイル領域でのビジネスの拡大をもくろんでいる。医療連携もそのひとつだ。将来的な医療には、どうしてもITがつきまとい、それはすなわち、通信インフラをぬきにしては語れない。
死ぬか生きるかのタイミングで、お薬手帳の情報や普段の診療情報を確認してもらえて、手術を含む適切な処置を遠隔地から行えるような医療の実現には、どうしても、それに答えられるだけの通信インフラが必要だ。
とはいえ、そこで万が一、医療過誤などがあった場合、誰がどう責任をとるのかといった問題もある。そのあたりのことを含めた議論が必要だ。
(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)