IIJが同社のMVNOサービス「IIJmio」の音声通話パック「みおふぉん」のサービス開始にあたり、一般ユーザーを対象としたミーティングを開催した。新サービスである音声通話対応サービスの説明に加え、MVNOとしてのIIJの考え方をアピールした。

MVMOで参入が相次ぐ通話サービス。IIJmioにも「みおふぉん」が登場

通話サービスとMVNO

「みおふぉん」は、音声通話対応サービスに加え、通話、64kbpsのデジタル通信モード、パケット通信モード、ショートメッセージモードの全部入りメニューを提供する。いわば、一般的な携帯電話とほぼ同等の機能を利用することができる。

通話は回線交換(サーキットスイッチド)のサービスであり、そこはすべてがドコモのネットワークにゆだねられる。そこにIIJが介入する部分はない。

LTEエリアにいる場合は、CSFB(サーキットスイッチドフォールバック)して回線交換に切り替わり、3Gで通話が行われる点もドコモそのものだ。データ通信でインターネットに出る場合はIIJ管轄となるが、電話に関してはすべてドコモの設備を使い、IIJ側から通信の制御をすることはできないという。

このところ、通話サービスに参入するMVNOは少なくないが、こうした点は全社同じで、他社との差別化が難しいという。だが、将来はわからないとも。

ちなみに、通話機能もドコモが提供するものと機能的にまったく同じだ。ただし、留守番電話サービスなどで、多少の使い方の違いはあるということだ。

通話サービスに関しては、

  • 電気通信事業法
  • 事業用電気通信設備規則
  • 電気通信番号規則
  • 業界ガイドライン

といったルールに基づいて提供される。

ここでの説明で興味深かったのは、発信元に着信することが確保されている場合などは、電話番号をなりすましてもいいという解釈だ。会場では、各種のIP電話や無料通話、今回のIIJの通話サービスの違いが説明されたが、その中で、LINE電話はいってみれば「なりすまし電話」を可能にしてしまうが、LINEが電気通信事業者かどうかは議論はあるかもしれないが、コールバックされたときに、発信元に着信しない可能性がある以上、一律番号通知ではなくユーザーが非通知を選択できるようにするべきといった感想も漏らしていた。

大阪にいるのに03の電話番号で発信できる時代。日本にいるのにアメリカの電話番号で発信できる時代である。今、そこからかかっている、かけているという識別が崩れつつある中で、FMC(fixed Mobile Convergence)の議論が起こっているとも。LINE電話をきっかけに、あらためてネットワークの新しい価値の創造となるか否かが問われているという。

ボトルネックをどう解消するか

ドコモのネットワークを使う以上、MVNOは、キャリアとの接続区間の帯域に応じて接続料を支払うビジネスモデルであり、その帯域が太ければドコモにたくさんお金を払うことになる。

キャリア区間が快適で、十分な帯域でMVNOとキャリアが接続され、MVNOのネットワークとインターネットが潤沢な設備で接続されていれば利用者は快適という単純な仕組みだ。

つまり、MVNOの差別化はドコモ設備と個々の設備との帯域幅で決まるといってもいい。したがって、単価の安いMVNOにとって、ドコモとの帯域を潤沢に用意するのは苦しく、その帯域が狭いとボトルネックになってしまう。

混雑によってボトルネックを通れないパケットは捨てられる。それが通信品質の悪化や通信速度低下になってあらわれるわけだ。通れないデータは捨てざるを得ない。パケ詰まりと呼ばれることがあるがパケットは詰まることはないという。捨てられるだけなのだそうだ。

ここで会場では、2014/4/8の同サービスのトラフィックをグラフ化した一枚のチャートが紹介された。それを見ると、この日の正午から13時までの1時間がピークとなっているものの、他の時間帯と、それほど大きな違いはない。実はこの時間帯、帯域がボトルネックとなり、パケットを捨ててしまっているのだという。

その部分をどのようにするのか。同社では毎週会議を行い、帯域増を検討し、必要に応じて逐次ドコモから追加の帯域を購入している。

気になる速度制限だが、IIJでは「従量制で料金をいただくサービスについては使いすぎによるペナルティはナンセンス」と一刀両断だ。かつては制限がなかったドコモのデータ通信も、今は7GBでお仕置きされるようになっている。これは食べ放題のレストランが、たくさん食べる客がきたときに、制限するようなもので、あとからもってきたルールはおかしいとも。

IIJの考え方はこれとは真逆で、2年前にサービスインした当時、基本は低速通信で、クーポンの購入で高速通信ができるようにした。つまり、レストランならアラカルトオーダーだ。クーポンさえ買えばいくら食べていい。クーポンがオンなら通信規制の適用を行わず、必要な通信を提供し続けたいとする。

現在のIIJmioのサービスは毎月一定量の高速通信を一定額で提供、それを超える分は200kbpsに制限するという方式をとっている。たとえば1GBを900円/月で提供、それを上限に通信が止まるわけではなく、200kbpsでの通信を継続できる。さらにユーザーはクーポンを100MB/300円で購入し、自由に上限までの容量を追加できる。また、1GB+クーポン分の容量は、使う使わないをユーザーが、その都度自由に切り替えることができるようになっている。

どこでも同じになりかねないMVNOサービスだが、さらにIIJでは、低速通信時のバースト転送をその最たる特徴としている。彼らにとって、200kbpsの通信は使いすぎた利用者にとってのペナルティではなく、ケースバイケースでいつでも選択できる選択肢のひとつだというわけだ。

IIJでは、一回の通信につき、200kbps×3秒分=75KBのバースト転送を許可している。このサイズ以下の転送なら200kbps制限時でも、速度制限なく通信ができるのだ。そのサイズを超えた転送の場合は超えた部分のみ200kbpsの制限を行う。たとえば、Twitterのタイムラインを更新するくらいなら、十分その範囲内に収まるという。

ユーザーの通信速度を遅くして事業者側のコストは安くなるのかという議論もある。会場では統計多重によるシミュレーション結果も公開され、遅い通信そのものはコストには理論上響かないことも証明されている。ただ、それは、高速通信がアッというまに終わるという前提でのことだ。

つまり、帯域を占有するような使い方では別なのだ。それはたとえば、えんえんと動画を見続けるなどの使い方だ。そのような用途以外の一般的な通信で、タイムラインの更新に1秒で終わるところ、3秒かけてもらってもIIJのコストは変わらないという。

現時点で、トラフィックの集中している平日正午から13時の通信品質の改善を目指すというIIJだが、ドコモから追加の帯域を購入する以外に方法はあるのだろうか。

たとえば、データを圧縮して送り、その展開をブラウザ側でやるといった方法もないわけではない。技術的にもそんなに難しいことではない。ただ、IIJでは、電気通信事業者がそんなことをやっていいのかどうかという迷いもあるという。通信事業者は正しくは土管であり、その中をいじらない見ないが大事なことであるとした上で、それでも顧客の利益があがるのならその限りではないとした。

スピードテストの結果を過信するな

MVNOの実力を測るのによく使われるスピードテストだが、IIJでは否定しているわけではないし、ケンカを売りたいわけでもないと念をおしながら、その背景を解説した。

スピードテストはとてもシンプルでわかりやすく、数値なので比較しやすくもある。だが、ちょっと待ってほしいとIIJ。サーバーの混雑、インターネット全体の混雑、キャリアとMVNOの間、MVNOとインターネットの間の混雑、地上ネットワークの混雑、基地局の混雑、付近の電波状況、端末のプロセッサ、対応周波数、無線機の性能などで値が決まる。

すべての要素を総合した結果だけがテスト結果となるわけで、比較対象以外がボトルネックになっていないかどうかを見極めるのは、とても難しいという。

本当に比較したいのはMNOとMVNOとの相互接続の混雑なのに、他の条件は時々刻々と変化する。先の24時間トラフィックのチャートは4/8のものが公開されたわけだが、実はこの翌日はMicrosoftの定例セキュリティアップデート、しかもWindows XP最後のセキュリティ更新、さらには、Windows 8.1 Update公開の前日だ。

Windows Updateは転送量がけっこう多く、しかも同じタイミングに集中する。にもかかわらずモバイル環境でUpdateするユーザーが少なからずいるらしい。IIJでは、こうした特殊事情による速度低下も品質の一部かもしれないとし、外的要因と恒常的な設備不足による速度低下をごちゃまぜにすると判断を間違うという。

スピードテストでのデータ転送は理想的には常に同じ速度が出ていることだ。だが、実際は違う。したがって、なんらかの加工をしないとひとつの数値にはならない。そこで、平均をとる、最大速度をとる、ピークカットする、その複数の組み合わせなどの加工をした上で数値として表示する。

そこでは、IIJのウリでもあるバースト転送が反映されないといった問題もあり、数値は絶対的な尺度ではないことがわかる。つまり、計測のための容量、瞬間計測のサンプリング間隔、サンプリングのタイミングなどで値がまったく変わってしまい、体感的な速度とはまったく異なる結果が出てしまうことも少なくないのだ。

特にバースト型の通信においては数値で速度を代表させることは難しいかもしれない。そこで、通信速度を可視化できないかというデモを披露した。

このデモでは、ノートパソコンを経由させて通信速度を0.1秒単位で計測し、スピードテストとTwitterのデータ転送の状況を可視化した。TwitterはまずAPIを呼ぶ。そこでバーストが起こりデータが転送される。そして、それだけで終わるんだそうだ。ちょっとスクロールすれば若干の通信は発生するが、たいしたものではない。ほとんど瞬間で終わる。つまり、IIJmioのバースト転送はまさにTwitter向けで、高速通信のためにクーポンをオンにしても体感速度はそんなにかわらないのだという。

また、Yahooのトップページでは、1ページをロードする間でも複数回のバーストが発生している。ウェブは頻繁にバーストするのが特徴だ。だから、200kbpsバーストは、向いているページと向いていないページがある。

特異な例ではLINE電話がある。これはビットレート的に低くまったく影響を受けない。まして、テキストがやりとりされるLINEトークは、ほとんど通信が発生していないも同然だという。

さらに、radikoのように、継続的な通信はどうかというと、こちらは5秒ごとにデータをとっていくしくみで、これもまた、ほとんど制限にかからない。だからクーポンオフで大丈夫だというのだ。

このように使い方によっては速度制限もまた機能のひとつであり、うまく利用することで、制限に達するまでの時間をうまくやりくりすることもできる。自分の使っているMVNOについて、こうしたデータ転送のクセを知り、賢く通信をしたいものだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)