3月17日、BSデジタル放送に新しく「Dlife」が開局した。Dlifeは、ブロードキャスト・サテライト・ディズニーが運営する無料放送チャンネル。注目点は、米国で高視聴率を獲得している海外ドラマがほぼ毎日放送されていることで、海外ドラマファンにとっては録画用ハードディスクを買い増ししなければならないほどの豊富なコンテンツを誇っている。

さらに、今まで日本ではあまり浸透していなかった海外バラエティー番組も配信。視聴者が孤島に送り込まれてサバイバル生活をするという人気番組「サバイバー」(かつてTBSが日本版を制作したことがある)、米国で人気の日本人タレント・神田瀧夢が司会を務める「ジャパニーズゲームショー」など、なかなか面白いラインナップになっている。さらに、親会社がディズニーであるだけに、昼間はディズニー制作のアニメや番組を放送。完全無料チャンネルとしては、豪華すぎるラインナップといっていいだろう。

「Dlife」参入の影響を受けた「Hulu」

Dlife」(上の写真)はBS258で開局した新しいチャンネル。海外の人気ドラマが多数放送されることで支持されている。完全無料放送で、途中にCMが挿入されるという地上波放送と同じ収益モデルを採用。一方の「Hulu」は、同じく海外ドラマや映画が見放題のPC向け動画配信サービス。月額1480円で、スマートフォンやタブレット端末、テレビの一部機種などにも対応している

このDlife参入の影響をもろに受けたのが「Hulu」だ。Huluは米国で圧倒的な人気を誇る動画配信サービス。米国の大手テレビネットワークであるNBCや、FOX、ABCなどが合弁で立ち上げた。テレビ放送の"見逃し配信"は広告付きだが無料で視聴ができ(日本では有料視聴のみ)、アーカイブされているドラマや映画(つまりバックナンバーにあたる)は、月額7ドル99セント(4月17日時点で約650円)で見放題になるというサービスだ。Huluは2011年8月31日に日本上陸をし、月額1,480円でドラマ、映画などのコンテンツの見放題サービスを展開している。視聴はPCやスマートフォン、タブレット端末などで可能だ。

Huluのメインコンテンツは米国ドラマだ。最新の人気ドラマから、「刑事コロンボ」や「スタートレック」「スパイ大作戦」などの懐かしいドラマまで楽しめる。しかし、DlifeでもHuluと同じような海外ドラマが無料放送されるようになってしまった。

現在共通して放送されているのは「LOST」「デスパレートな妻たち」「クリミナルマインド」「アグリーベティ」「フラッシュフォワード」「グレイズアナトミー」「NCIS ネイビー犯罪捜査班」「ゴースト」「ブラザーズ&シスターズ」「Dr. House」「ボーンズ」「クローザー」など多数を揃える。これらはいずれも米国で高視聴率を獲得した人気ドラマだ。

両者のラインナップが同じになってしまうのは当然なのかもしれないが、Huluにとっては、"虎の子"のコンテンツを無料放送されてしまうことは痛い事態に違いない。実際、私の周辺でも、Huluを解約してDlifeを観るようになったという者が何人かいる。

日本の視聴者向けにラインナップの方向性を変え始めたHulu

そこでHuluはライナップの方向性を変え始めている。もちろん、米国ドラマや映画のライナップを増やすことも続けているが、英国のBBC制作番組「華麗なるペテン師」や自然ドキュメンタリーを加えたり、韓国ドラマを加えたりしている。さらに、先日はテレビ東京との提携を発表し、「モテキ」などのドラマや「侵略!イカ娘」などのアニメの配信を始めた。

そもそもの「米国の番組を日本でも」というコンセプトから大きく方向転換を始めているわけだ。Hulu側はこの転換について特に説明をしていない。米国ドラマがなくなるわけではなく、ラインナップの幅が広がったともいえるが、Dlifeの登場が大きく影響していることは間違いないだろう。

これは視聴者にとって、とても喜ばしい競争だ。DlifeやHuluの現場スタッフはプレッシャーが大きいだろうが、視聴者にとっては選択肢が増えているのだから。海外ドラマを録画して観たい人はDlifeで楽しめばいいし、海外ドラマを好きな時間にじっくりと楽しみたいという人や、あるいはスマートフォンやタブレットでも楽しみたいという人、今後さらにラインナップが充実するアニメも楽しみたいという人はHuluを利用すればいいのだ。

Dlifeでは数多くの海外ドラマが放送されているが、原則的に放送は週1回(吹き替え版と字幕版が1回ずつというパターンが多い)。そのため、次の回が気になっても放送されるのをおとなしく待っているしかない。一方で、Huluは複数シーズンの全話(一部、権利上の問題から抜けているケースもある)が常に視聴できるので、観たくなったら何時間でも連続して観賞できるのだ。

日本ではそれほど大きな話題にならない理由とは?

海外ドラマ好きにとっては、どちらを選んだら良いのか迷ってしまうほどの嬉しい事態になっているが、世間的には意外にもDlifeとHuluはあまり大きな話題になっていない。それよりも日本の放送の"見逃し配信"をしている「もっとTV」や、スマートフォン向けにオリジナル番組の放送を行っている「NOTTV」の方が話題になっている。なぜか。それはDlifeやHuluは"三重のハードル"を超えていく必要があるからだ。

次回は、この"三重のハードル"について説明し、BS放送が抱える問題点を解説したい。

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