7月12日に、共同通信が「パソコンからもNHK受信料を。同時配信で調査会が報告書」という報道をした。この「NHK受信料制度等専門調査会」は、NHKが東日本大震災などで、インターネットでも放送を行ったことを評価し、今後、NHKの本放送もインターネット経由で放送すべきだとし、そうなるのであれば、当然パソコン保有者からも受信料を徴収すべきだとしたものだ。当然ながら、ネットでは批判的な意見が続出した。「震災でちょっといい仕事したからって、図に乗るなよ」というわけだ。特に、ネットへの依存度が高い若い単身者の間では、「テレビはもっていないけど、ワンセグ携帯とパソコンをもっている」という人が多いと思われる。このような人たちは、今までNHK受信料を支払う必要はなかったが、今後受信料を支払わなければならなくなるのだから、反発するのもうなづける(ちなみに、ワンセグ携帯はすでに受信契約対象になっている)。

NHKの受信契約は、世帯単位というのが基本だ。だから、家にテレビが何台あっても、受信契約はひとつでかまわないし、その他にワンセグ携帯やNHK放送が受信できるカーナビなどがあっても、追加負担は必要ない。しかし、テレビをもっていなくても、ワンセグ携帯やカーナビなどをもっていれば、受信契約を結んで受信料を支払わなくてはならない。もし、NHKがインターネットでも放送を配信するようになると、「テレビもない、ワンセグ携帯もない、テレビカーナビもない、でもパソコンはもっている」という人も、新たに受信契約を結ぶ必要がでてくるのだ。ちなみに、アンテナ接続して地デジが見られる「テレビパソコン」は、テレビと同じ扱いで、すでに契約対象になっている。今、議論されているのは「インターネットに接続し、ストリーミング放送を見ることができるパソコン」だ。となると、報告書では触れられていないが、場合によってはワンセグがない携帯電話、スマートフォン、iPadなどのWi-Fi端末なども対象にならないと理屈が通らなくなる。

ところで、私の周辺にも「テレビはもっているけど、受信料を支払っていない」という人が何人かいる。理由はさまざまだ。いちばん多いのは「NHKは見ていないから」というもの。しかし、厳密には受信料はNHKを見ているいないに関わらず負担すべき性格のものだ。これは後ほど議論しよう。そして、意外に多いのが「取りにこないから」。単身者の場合、昼間はほとんど家にいないし、週末もでかけていることが多い。NHKの集金人は訪問しているのだろうが、会うことがない。「取りにこないのに、自分からわざわざ支払い手続きをするのも面倒くさい。まあ、いいか」ということだろう。また、NHKの番組内容や組織のあり方に疑問をもち、意識して「支払いたくない」と拒否している人もいる。

理由はさまざまあって、これは私の勝手な憶測だが、ほとんどの人の根底には「払っていない人がいるのに、なんで自分だけが払わなければならないのか?」という疑問があるのだと思う。ただ、それは身勝手な理由であることもわかっているので、口にしづらいだけだと思う。

しかし、これは堂々と口にしていい理由であると思う。税金や社会保障費、受信料などは、「みんなで少しずつ負担しましょう」という性格のものなのだから、不公平感があってはならない。だれだって、できることなら負担は少ない方がいい。徴収する側は、最大限の努力をして、この不公平感をできる限り小さくする義務がある。その努力が「厳しい取り立て」として、世間から不評を買っても、全体の公平を考えたら努力すべきなのだ。

というわけで、今回はまず「どのくらいの割合の人がNHK受信料を支払っているのか?」ということを調べてみた。

NHKが公表している資料によると、いささか古いデータで申し訳ないが(なぜ古いデータを使うのかは、のちほど明らかになる)、平成19年3月末の受信契約数は3320万件。契約対象件数が4704万件なので、徴収率は70.6%となる(ちなみに最新の平成21年度末のデータでは72%)。この値を大きいと見るか、小さいと見るか。7割もの人が支払っていると見るか、あるいは3割も払っていないやつがいると見るか。

ちなみに国税、地方税の徴収率は98%以上であり、国民健康保険は90%程度、いろいろ問題があるといわれている国民年金でも67%程度ある(ただし、これは平成17年度の数値で、現在は60%を切ってしまい、大きな問題となっている)。

ところが、このNHK主張の70%という数字には、大きな批判があるのだ。それも根拠なしに批判しているのではなく、総務省が開催している「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会」が、かなり精密な批判をしているのだ。

NHKが徴収率をどうやって計算しているかというと、支払い件数÷契約対象件数という計算だ。このうち支払い件数は当然NHKが正確に把握しているだろう。しかし、問題は契約対象件数という母数の方だ。これは正確に把握しようがないので、NHKは国勢調査から推測をして契約対象数が5055万件とし、そこから免除対象世帯を引いて4704万件(内、世帯契約対象数4415万件、事業所契約対象数289万件)という数字をはじきだしている。しかし、この研究会では、「(1)NHKの推計に問題がある」「(2)他の統計をもとに推計すると、母数がより大きくなる」という問題点を指摘している。

(1)については、NHKは契約対象件数を推定するときに、「公的老人ホーム」と「別宅」を計算に入れていない。公的老人ホームの入居者から受信料を徴収するのは人情的には難しい気もするが、自宅で介護サービスを受けているお年寄りは、受信料を支払っているのだから、公平性の観点からは、公的老人ホームからも徴収はすべきだろう(ただし、現在では社会福祉事業施設の入居者は全額免除の申請が可能になった)。また、別宅というのは「家族が複数の場所を生活拠点としている」もので、一般には単身赴任や学生の下宿などだ。しかし、これも別荘からは受信料をしっかりと徴収しているのだから、当然こちらも徴収すべき対象になる。こうすると、世帯契約対象件数は5102万件となり、免除世帯をのぞいても4492万件となる(ただし、別宅、公的老人ホームにも免除世帯があるだろうから、これよりは小さな数値にはなるだろう)。

(2)については、研究会は、住宅・土地統計調査から推測をすると、契約対象件数は5210万件、住民基本台帳から推測をすると5344万件になるとしている。ただし、このふたつの数字は免除世帯を引く前の数字なので、NHKが使っている免除世帯数(610万件)を引くと、それぞれ4600万件、4734万件となる。

これで4つの数字が登場してきたことになる。これで徴収率を計算できるだろうか。いや、まだできないのだ。というのは家庭の他に事業所もあるからだ。そして、研究会はこの事業所の数字にも問題があると指摘している。紙幅がつきてしまったので、申し訳ないが、次回、事業所について紹介し、徴収率を計算してみよう。

このコラムでは、地デジにまつわるみなさまの疑問を解決していきます。深刻な疑問からくだらない疑問まで、ぜひお寄せください。(なお、いただいた疑問に個々にお答えすることはできませんので、ご了承ください)。

NHK受信料の契約率と徴収率の推移。総務省「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会」の資料より作成。平成15年以降、契約率と徴収率の乖離が目立つ。つまり、契約はしているものの支払い拒否をする人が増えている。いうまでもなく、NHKにさまざまな不祥事が起きたのが原因だ

平成19年3月末時点でのNHK受信料契約の内訳。 総務省「公平負担のための受信料体系の現状と課題に関する研究会」の資料より引用。受信料の徴収率は、NHKの主張では70.6%になる