今、アナログ放送を見ている方は、なんとなく落ち着かないだろう。テレビを見ていると、やたらにテロップが表示され、アナログ放送が2011年7月24日に終了することが告知される。まだ2年弱あるのであわてることはないのだが、どうしたって気になってしまう。そこに玄関のチャイムがピンポーンと鳴る。「こんにちは。NHKのほうから参りました。受信状態の無料点検をしております」。このように家に入りこまれ、お金をだまし取られてしまう地デジ詐欺が急増している。今回は、地デジ詐欺にどんな手口があるのかを紹介して、だまされないための知恵を身につけておこう。

詐欺といいづらい手口が増えている

「おれはだまされることなんかない。ぜったいだいじょうぶ」と思いこんでいる方もいるかもしれないが、実は詐欺師はけっこう賢い。自信たっぷりの人の方がかえって危ないこともあるのだ。詐欺の手口はさまざまあるが、最近の手口は「小額」であることと、「まったくの詐欺ではない」ことがポイントだからだ。たとえば、さきほどの「NHKのほうから参りました」の例では、自宅のアンテナやテレビの状態を確認し、「お宅の場合ですと、アンテナの交換が必要になります」「弊社は工事会社でもあるので、交換いたしましょうか」などと持ちかけて、実際にアンテナ工事を行う。ただ、その工事費が相場に比べてかなり高めだというだけだ。一般的な戸建て住宅では、1万円から2万円ぐらいでアンテナ工事は行えるが、それを3万円程度請求する。アンテナ自体はちゃんとしたものを設置していくので、「ずいぶんお金がかかるんだな」と首をかしげる程度で、気がつかないままにしている人も多いそうだ。

ケーブルテレビも詐欺ではないかと誤解される

さらに、消費者側の知識がないことで、詐欺ではないかとトラブルになるケースが増えつつあるのがケーブルテレビだ。実は、いちばん簡単な地デジ対策はケーブルテレビを導入してしまうこと。現在、ほとんどのケーブルテレビ局が地デジ放送の再配信を行っているからだ。ケーブルを自宅に導入する工事は必要になるが、アンテナは不要となり、地デジ以外にも数多くのケーブル番組が楽しめるようになる。ただし、欠点は視聴料がかかることだ。アンテナ受信であればNHK以外の視聴料は不要だが、ケーブルテレビの場合、基本チャンネルを視聴するだけでも毎月視聴料が必要になる。といっても、地デジ放送だけではなく、他に数十チャンネル視聴できるのだから、有料であるのは当然なのだが、ここが誤解されてしまう。つまり、ケーブルテレビの営業マンが戸別訪問をし「地デジ対策はお済みですか。ケーブルなら簡単に地デジ対策ができますよ」というセールスを行い、契約してしまってから「地デジ放送を見るだけなのにお金を取るのか」「地デジ以外のケーブル番組は見ないので、地デジ放送だけを無料で配信してほしい」などというトラブルになるというパターンだ。ケーブルテレビ側の営業担当者の説明不足なども問題もあるのだろうが、どちらかというと消費者側の勘違いが大きな要因となっているトラブルだ。

アナアナ変換工事地域はとくにご注意

この2例は、詐欺とはいえない。アンテナ交換は単なる不誠実な営業行為で、ケーブルの場合は単なる説明不足と勘違いだ。しかし、国民生活センターには、完全な詐欺の相談事例が寄せられている。

「総務省推進事務局」と書かれた名刺を持った男が、一人暮らしの認知症の姉の自宅へ訪問し、「地上デジタル放送を見られるようにする」とテレビを点検した。姉はプラグ交換が必要と言われ、訳がわからないまま約3万円を支払ったようだ。地上デジタルテレビ放送が視聴できる状況になっていたため、必要のないものだった。(国民生活センターサイトより引用)。

典型的な地デジ詐欺で、得体のしれない部品などを高額で売りつけ、しかもその部品がなんの役にも立たないでたらめなものだったというもの。九州と沖縄地区で起きた事例だという。

また、最近では補助金に絡んだ事例も増えつつある。「今なら補助金が出るので、無料でアンテナ工事が行えます」というので工事を頼み、その場ではいったん工事費を支払い、「後日、この領収書を役所に提出すれば、全額補助金が支給されます」というので、役所に持参したら「そんな制度はない」といわれたというもの。

さらに、事情をややこしくしていたのが、アナログ周波数変更に関する受信対策工事だ。アナログ放送をデジタル放送に切り替える前に、アナログ放送の周波数を変更する必要があった地域があった。いわゆるアナアナ変換で、地デジに使われる周波数帯を空けるために、そこで放送されていたアナログ放送をいったん別の周波数に変え、それからデジタル放送を開始するという面倒な作業をしなければならない。この変換作業は、放送局の都合で行われるため、国と放送事業者が工事費を負担することになっている。具体的には社団法人電波産業会の職員が対象地域の家庭を戸別訪問して、アンテナとテレビの調整を無料で行う。アナアナ変換の必要な地域では、戸別訪問が行われ、無料工事が行われたという経験があるために、地デジ詐欺がやりやすいという事情があるのだ。もちろん、このアナアナ変換はすべての作業が終了しており、今後は公的機関が戸別訪問をして工事するなどということはありえない。

地デジ詐欺に対抗するためには先手必勝

地デジ詐欺に対する最大の対抗策は、積極的に自分から地デジ対策をしていくということにつきる。自分からアンテナ工事を頼めば、見積もりをとって金額に納得がいかなければ、別の工事会社を頼めばいいわけだし、きちんと説明を受ければ、他の工事や機器が必要ないということも確認できる。もし、ご近所にこういったことが苦手そうな高齢者家庭があったら、「ウチもアンテナ工事するけど、お宅もいっしょにいかがですか」などと誘ってみるのもいいかもしれない。数軒まとまれば、きっと工事会社も料金を割引してくれるだろう。地デジ詐欺に対しては、先手必勝なのだ。

国民生活センターの見守り情報(高齢者と障害者を狙った消費者問題の事例紹介コーナー)には地デジ詐欺に関する情報も掲載されている。お年寄りはテレビを見るのを楽しみにしていることも多く、かつデジタル知識もあまりない人が多いので、詐欺師たちの格好のターゲットとなっているようだ

ケーブルテレビで地デジ放送を楽しむというのもひとつの方法だ。現在ほとんどのケーブルテレビ局が地デジ放送の再配信を行っている。この場合、アンテナは不要になり、ケーブル専門番組も数多く見ることができ、テレビライフは格段に楽しくなる。ただし、あたり前だが、月々の視聴料は必要になる。どの地域のケーブルテレビ局が地デジ再配信を行っているかは、社団法人日本ケーブルテレビ連盟のサイトから確認できる

アンテナ工事会社など、地デジ関連企業の中には、地デジ詐欺の手口情報を積極的に情報提供しているところもある。他にも、工事費用や疑問に答えるコーナーなどもあり、地デジに乗り換えようとしている人は、こういうサイトを読んでおくといいだろう